第184話 諸悪の根源説
ゾフィーは銅鉱石を錬成しながらマルティナに丁寧に教えていた。
「ゾフィーさんってすごいんですね。錬成が綺麗です」
「そんなことないわよ。細かいだけ」
ちょっと遅いもんな。
「ゾフィーは精密機械製作チームの人間だからそういう錬成をするんだ。丁寧にミス一つなくやる。各チームにはそれぞれ色があるんだよ。ついでに教えてやると、ハイデマリーの薬品生成チームも同様な細かさが求められるぞ。薬屋のお前ならわかるだろ」
「そうですね……薬は用法用量が大事です」
よくわかってるわ。
でも、魔力がでかいだけでコントロールが苦手なお前には向いてないってことも理解してほしいね。
「頼むぞ、ゾフィー。この不出来な魔法使いの卵をちょっとはまともにしてやれ。王都に行っても慣れとかもあるし、薬品生成チームにいじめられるかもしれんからな」
「そういうこと言うな。ハイデマリーのところは大人しいのしかいないから大丈夫よ」
弟子って師匠とは逆の性格になるんだろうか?
ウチしかりテレーゼしかり。
その後もゾフィーは困りながらも錬成を教え、さらには物理のテストまで見てくれた。
そして、終業時間になったのでマルティナを帰らせる。
「あー……疲れたぁ……」
ゾフィーはソファーの背もたれに背を預け、天井を見上げてた。
「明日からも頼むぞ」
「なんで私が……教えるのは得意じゃないのに」
「お前、弟子とか取らないのか?」
「そんな予定はないし、偉そうに教えるだけの実績もないわよ」
ふーん……実績は十分だと思うけどな。
まあ、人見知りのこいつは積極的に弟子を取ろうとは思わないか。
「まあいいや。残業はなしな……お前、マジでウチに来るのか?」
「数日だけでいいからお願い。あとはホテルに泊まるから」
ふーん……
「じゃあ、帰るか……」
「あ、ゾフィーさん、良かったら一緒に晩御飯を食べませんか?」
エーリカがゾフィーを誘う。
「え……私?」
他に誰がいる?
固まんな。
「エーリカは料理が上手なんだ。だから俺達はいつもご馳走になっている」
「それはそれでどうなのかしら……?」
「作る手間は一緒ですし、料理が好きなんですよー」
エーリカが悪意ゼロの笑みを浮かべた。
「へ、へー……じゃあ、せっかくお呼ばれしたわけだし……」
「はい!」
俺達は片付けをすると、支部を後にし、30秒でアパートに到着する。
「近っ……」
「いいだろう?」
「こればっかりは本当に羨ましいわ。本部の近くは借家がほとんどないし、あっても家賃がとんでもなく高いし」
それはそう。
俺も本部近くに借りようと思ったが、無理だった。
「出向と言わずにこのままウチに異動するか?」
「それは嫌」
皆、嫌がるなー。
やっぱり本部がいいのかねー?
「まあいい。俺の部屋はそこだな。対面がエーリカで上がアデーレ、斜め上がレオノーラだ。俺は女のことはわからんから何かあればそいつらを頼れ」
化粧水を貸してって言われても知らんし。
「数日だし、色々持ってきてるから大丈夫よ」
ふーん……
俺達はこの場で別れると、ゾフィーと共に部屋に入った。
「相変わらず、部屋は綺麗にしてるのね」
「物がないだけだ。何かを飾る趣味もないしな」
無駄。
「賞状が飾ってあるわよ?」
ゾフィーが壁の上の方に飾ってある感謝状を見る。
「あー、それな。火事を消した時に町長からもらった感謝状だ。いらないけど、捨てることもできん」
なお、しまっておいたのに3人娘に飾られた。
「へー……本部長がうるさかったやつか」
「うるさかったのか?」
「ジークが変わったなーって喜んでた。何がうるさいって5回くらいは聞いたこと」
そりゃうるせーわ。
「何がそんなに嬉しいのかねー……」
「あんたが絶対にやらなそうな善行だからでしょ。私もその話を聞いた時に信じられなかったもの。きっと放火犯はあんただなって思った」
そんなマッチポンプするか。
「支部の評判を上げるためにヘレンがしろって言ったからだよ」
「良い使い魔ね。すべての意思、行動をヘレンに託せば? そしたらきっとあんたの能力なら英雄になれるわよ」
「そういった偶像には興味がない」
英雄なんかになりたくない。
人間性50点で良いんだ。
多分、そこが俺の限界。
「まあ、あんたは争いのないこの地で平穏に生きた方が良いか……」
「そうそう。あ、家のものは勝手に使っていいからな」
いちいち了承を得てくる方がうっとうしい。
「ありがと……」
ゾフィーはソファーに腰かけると、荷物を取り出していく。
「どうしてもベッドが良いなら言えよー。俺はソファーでもいい」
「ここでいい。私は小さいし、十分よ。というか、良いソファーね。どこで買ったの?」
ゾフィーがソファーを叩きながら聞いてきた。
「自作だ」
ヘレンのベッド代わりにでもなればいいと思って作った。
なお、可愛いヘレンは俺のベッドの枕元から離れずに丸まって寝ている。
結果、ソファーはあまり使うことがないが、嬉しかったので良しとする。
「あんたは本当に器用ねー……」
「他にやることがないから適当に作ってただけだ」
「ふーん……」
ゾフィーがこてんと横になる。
「こら、寝るな。エーリカの部屋に行くぞ」
「正直に言っていい? すごい疎外感というか、あんたらの世界に入りたくない」
「どういう意味だ?」
「あんたら、ウチの一門以上にファミリー感が強すぎる。姉家族の家にご飯をご馳走になった時よりも気まずい」
わからん……
「すまんが、そういうことを気にしたことがないからわからんわ」
「あんたはそうだったわね……ハァ、行きますか」
ゾフィーが立ち上がった。
「ため息をつくまでか? 良い奴らだぞ」
「だからよ。まだハイデマリーと食べた方がいいわ。変なことを言っても心が痛まないし」
こいつも口が悪いからなー……
「今さらながらウチの一門って口が悪いのが多いな」
「確かにそうね」
なんでだろ?
「師匠がそうだからじゃないですかね?」
「あー……」
「まあ……」
ヘレンの言葉に俺もゾフィーも否定することはできなかった。
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