第182話 ゾフィー・アイスラー
翌日、エーリカとレオノーラにもゾフィーが来ることを伝え、仕事をする。
今日は支部で依頼をこなす日なので黙々と各自の依頼をこなしていった。
そして、昼になると、エーリカが作ってくれた弁当を食べる。
「ジークさん、ゾフィーさんってどういう方なんですか? この前もいらっしゃいましたが、ろくにしゃべることもなく、帰っていかれました」
エーリカが聞いてくる。
「生意気な子犬だな」
「いや、そういうことではなく……」
「うーん……口が悪いのは確かなんだ。あと態度もでかいし、気も強い。でも、ちょっと内弁慶だから気にかけてやってくれ」
一門以外にはあからさまに距離を取る奴だ。
「へー……好きなものとかは?」
「その辺は知らん。他の連中も含めて、まったく知らん」
本部長も知らん。
そういう趣味嗜好を知ってるのはヘレンとお前らだけだ。
「仲良いのに?」
「別に良くないんだがな……まあ、俺がそういう話をしないだけだ。基本的に仕事の話か錬金術の話くらいしかせんからな」
あと一門の悪口。
主にハイデマリーだけど。
「ジーク君、私は本が好きだよー」
何故かレオノーラがアピールしてきた。
「知ってる。アデーレが音楽だろ? 昨日、ヴァイオリンを聞かせてくれなかったけど」
「準備がいるのよ……最近、弾いてなかったし……」
そんなに大層なことじゃないと思うんだがなー。
「ジークさんはトランプが好きですよね?」
「勝ったらめちゃくちゃ嬉しそうだもんね」
「負けたらめちゃくちゃ睨んでくるけどね……」
俺、トランプが好きなの?
「好きかな?」
ヘレンに確認してみる。
「昔からお好きですよ。ジーク様はチェスや将棋といったものは強いですが、運要素の強いゲームは負けることもあるのでそちらの方が白熱する傾向にあります」
へー……
勝った方が良いと思うが、所詮はゲームか。
俺ってトランプが好きなんだなーと思っていると、呼び鈴が鳴る。
受付の方を見ると、赤みがかかった金髪で背の低い子が立っていた
「ん? あ、ゾフィーか」
立ち上がると、受付に向かう。
「よう」
「どうも。王都より暑いわね、ここ」
まあ、南の方だしな。
「海で泳ぐか?」
「嫌よ。海って泳いでたらサメに食べられるんでしょ?」
偏見だなー。
「サメなんて出んわ。それよりも昼飯は?」
「この前行ったところで食べた。やっぱり魚が美味しいわね」
美味しいな。
「ふーん……まあ、入れよ。改めて3人娘を紹介しよう」
「改めても何も前回、紹介してもらってないけどね。まあ、本部長がうるさいから知ってるけど」
そういや、紹介してないわ。
俺達はアトリエに入り、デスクに向かった。
「エーリカ、レオノーラ、アデーレ、この前も会ったと思うが、こいつがゾフィーだ」
「どうも」
ゾフィーが軽く頭を下げる。
「ゾフィー、知っていると思うが、こっちの優しそうなのがエーリカで小さいのがレオノーラだ」
「こんにちはー」
「よろしくー」
2人が挨拶をする。
「どうも……」
本当に口数が減るな……
「アデーレは…………さすがにわかるよな?」
本部で一緒だったわけだし。
「ええ。あんたと違って、受付に挨拶くらいするしね」
ずきっ。
「………………」
「………………」
「2人共、黙んないでよ。ゾフィーさん、よろしく」
アデーレも挨拶をする。
「うん……」
俺も含めたこの3人の仲はあまり良くないと思う。
「ゾフィーさん、席はジークさんの隣のそこになりますので座ってください。お茶を淹れますんで」
「あ、手伝うわ」
エーリカとアデーレがお茶コーナーに向かう。
「あんたの隣か……」
ゾフィーがそうつぶやきながら椅子に座った。
「個人のアトリエがないんだから仕方がないだろ」
「いや、別にそこは……本部でも共同アトリエと半々だったし」
俺、9対1だったな……
もちろん、個人のアトリエが9。
「お前、精密機械製作チームではちゃんと馴染んでんのか?」
「あんたにだけは言われたくないわ」
うん……そうだね。
「俺のことはほっとけ」
「別に普通よ。普通にやってる……多分」
自信ないのか……
「どうぞー」
エーリカがゾフィーの前にお茶を置く。
「ありがと……」
「いえ」
エーリカがニコッと笑い、自席に戻った。
「あんたが上手くやれている理由がよくわかるわ。暗い性格の私にはまぶしすぎる」
浄化されんだけマシだろう。
「お前も見習えよ」
「そんな私は私じゃないわよ……で? 何をすればいいの?」
そう言われたので時計を見ると、すでに昼休憩は終わっていた。
「今日は一緒に火曜石を作る」
そう言いながらゾフィーの机の上に材料の魔石を置いていく。
「火曜石……船は?」
「それは明日。船以外にも仕事はあるし、隔日でやっているんだよ」
「4人だとそうなるわけね……」
1チームしかないからな。
「そうそう。ほれ、作ってみ。本部長の代わりにちょっと見てやるよ」
「あんた、辛辣だから嫌なんだけどなぁ……」
ゾフィーはそう言いながら魔石を手に取った。
「ランクはDでいいぞ」
「そんなもんでいいの?」
「生活用のやつだからな。ランクが高すぎてもダメだ」
「わざと質を落とさないといけないのは斬新だわ……」
ゾフィーはぶつくさ言いながら錬成し始めたのでじーっと見る。
「それだとCランクになる。魔力を落とせ」
「こんな感じ?」
「それだとEだ。加減を知らんのか?」
魔力を落としすぎ。
「CもEも変わんないでしょ……」
「それが5級の仕事か? 返上してこい」
「だから嫌なのに……あんたら、よくこんなのの下につけるわね」
ゾフィーが呆れた顔で3人娘を見る。
「そんな風に言われたことないんで……」
「ジーク君、同門の人に厳しいよね」
「私達には優しいわよね。内心は『使えねー』って言ってるけど」
言ってないわ。
「あんたってわかりやすく差別するわね」
「お前が9級、8級なら言わんわ」
お前は5級の超エリートだろ。
「期待の裏返しということでは?」
「そう、それ」
ヘレンは良いことを言うな。
「良いように翻訳してくれる通訳さんがたくさんで良かったわね」
「いいからやれ。終業までに10個な」
「手作業でそれは無理。何年ぶりだと思ってんのよ」
情けない奴だな。
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