第174話 そうだ、エーリカ号にしよう!
午前中の作業を終えると、その場で昼食を食べる。
「1、2年が書記で3年時に生徒会長になったわね。本当は違う子だったんだけど、内気な子だったから泣きつかれたの。私だってやりたくなかったわよ」
「わかりますー。私も断れませんでした」
アデーレとエーリカがねーっと顔を見合わせた。
「へー……」
俺はこの際だからアデーレから学校の話を聞いていた。
レオノーラが面倒だから地雷を処理しておこうって提案してきたのだ。
「そもそもなんで生徒会なんて入ったんだ?」
「王都の魔法学校の生徒会って昔の名残で貴族しかなれないのよ。しかも、私が入学した時の生徒会長が隣の領地の人だったこともあって誘われたの。断れなかった」
付き合いもあるだろうし、断れなかったか。
貴族は大変だな。
「一応、聞くんだが、マルタやヴォルフは?」
本部にいる同級生2人。
「あの2人は生徒会じゃないわよ。貴族じゃないし」
「なら安心か」
学生の頃なんてほぼほぼ覚えてない。
いや、記憶すらしていないっていうのが正しいか。
「アデーレ、この際だから他にあるなら言ってごらんよ」
レオノーラが積極的に地雷を掘り起こしていく。
「うーん……生徒会って挨拶運動があるんだけど、その際にも無視されたことかな」
俺、無視してばっかりだな。
「無視したんじゃなくて、眼中になかった……いや、なんでもない」
よりひどかったわ。
「ジーク様は奥手で恥ずかしかったんですよー」
「それだ」
ヘレン、賢い。
「はいはい。それよりもあの2人のことはどう思った?」
「エーリカの先輩なところが面倒だな。暴言を吐くとエーリカに迷惑がかかるだろ」
同じ理由が後輩のマルティナ。
そういうしがらみがないハイデマリーはボロクソに言っていた。
俺もほぼ同意見だが、そういう理由で口に出さないようにしている。
「……いや、速攻で暴言を吐いてなかった?」
「先に言ってきたのは向こうだからセーフ」
「そうかしら?」
そうだよ。
「あのー……私のことは気にしなくてもいいですよ? 確かに先輩ですけど、ウチと民間が相容れないのはわかってますし、正直、苦手な先輩でした」
「そうなのか?」
聖女なのに苦手とかあるんだ……
「えーっと、何て言えばいいんでしょうか? こう、ガーって来られる人が苦手なんです。あの御二方は一方的にしゃべってきますし、ちょっと怯んでしまいます」
「わかるわー……すごくわかる」
アデーレも共感している。
「……私、大丈夫?」
レオノーラが不安そうな顔で見上げてきた。
「お前は別にガーっとは行かないだろ」
よくしゃべる方だが、押しは強くないし、どちらかと言うと物静かな方だ。
「――こんにちはー」
ん?
「マルティナか」
マルティナが覗き込んでいた。
「いらっしゃーい」
「どうもー……何を話していたんですか?」
マルティナがこちらにやってきて、聞いてくる。
「マライア先輩とヴァルター先輩の話」
「どういう人が好みって話」
「ジークさんが私を無視した話」
ハズレがレオノーラなことは確かだな。
「ハ、ハァ? とりあえず、ジークさん、無視はいけませんよ」
わかっとるわ。
「お前、マライアとヴァルターって知ってるか? この町のアトリエの跡取りらしいが」
「もちろん、知ってますよ。ウチの学校の卒業生ですし、優秀な先輩です。あ、エーリカ先輩もです」
まあ、知ってるか。
「その辺のドックにいるぞ。挨拶でもしてくれば?」
「いや、被ってませんから向こうは私のことなんか知りませんし、逆に迷惑ですよ。それに向こうは民間ですし、本部に修行に行く私はちょっと声をかけづらいです」
「そんなもんか」
俺は一門以外では先輩なんて1人も知らん。
「どういう人が好みっていうのは?」
「押しが強い男性は嫌だねって話」
してたか?
マライアは女だぞ?
「あー……それはあるかもしれませんね」
「マルティナちゃんも気を付けなよ? 王都の男性は怖いから」
「そ、そうなんです?」
なんで俺を見る?
確かに王都出身だけど……
「右も左もわからない田舎者を食い物にするような人もいるからね」
「嘘だと言えないところが怖いわ。あまり一人で危ないところに行ったらダメよ?」
そういやこいつら、全員田舎者だな。
レオノーラとアデーレの実家は聞いただけで詳しくは知らんが。
「気を付けます……ジークさんが無視したっていうのは?」
全部聞く気?
「それはいい。昔の話だ」
「えー……一番気になるのに」
「聞いたらお前が俺を軽蔑するからダメ」
「え? でも……」
おい……
「なんでだよ。丁寧に教えてやってるだろ」
「だって、神様が頭の良さと魔力にすべての能力を振ったせいで他が壊滅的って……」
「それ、誰が言ってた?」
1人しか浮かばんが……
「師匠です」
ゴミカスマリーのくせに。
「そりゃハイデマリーもだ。お前もそう思うだろ」
「し、師匠の悪口は言いません!」
否定しない時点で言ったも同然だろ。
「まあいい。せっかく来たし、お前にも船製造に関わらせてやろう」
「何をするんです?」
「木材の加工。いくらお前でもそれくらいはできるだろ」
木材の加工は最初に習うやつだ。
「まあ、さすがにそれくらいなら……でも、部外者でしかも、資格も持ってない私がやってもいいもんです?」
「俺が監督するから大丈夫だよ。完成した船の名前はマルティナ号にしてやる」
ルッツにそう言っておこう。
「いやー……さすがに私の名前は色んな意味で縁起が悪いのでは? アレクサンダー号の方がかっこいいし、良いと思います。何よりも絶対に沈みそうにないです」
いや、それはもっと縁起が悪いんだよ。
沈みはしないがどっかに漂流すると思う。
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