第171話 ハイデマリーさんと一緒だなぁ……
支部へと戻ると、3人娘に仕事を再開するように指示をし、支部長室に向かう。
「支部長、よろしいでしょうか?」
ノックをし、声をかけた。
『いいぞ』
許可を得られたので扉を開け、中に入る。
そして、デスクにつく支部長のもとに向かった。
「支部長、船の依頼を受けることにしました」
「そうか。いけるか?」
「小型の魔導船ですし、ドックに機材も揃っていたので問題ありません。それとですが、昨晩、ウチの師匠から電話がありまして、私の妹弟子に当たるゾフィーが出向してくるらしいです」
「妹弟子? 急だな……」
まあね。
支部長にまったく話を通さずに決めるってよく考えたらおかしい。
「すみませんが、仕事の関係というよりも一門の問題です。私も聞いた話ですが、ゾフィーがちょっと伸び悩んでいるみたいなんですよ。それで師匠である本部長はゾフィーをこちらで心機一転させたいようです」
「悩みか……仕事とは関係なさそうだな」
うん。
少なくとも、ウチの支部にはまったく関係ない。
「その辺は上手く処理できるでしょう。ちょうど船の仕事を受けましたし、ゾフィーは精密機械製作チームの人間ですので応援という形です」
「まあ、本部長が言うなら断れんし、そういうことにしよう。使える奴か?」
「まだ20歳と若いですが、先日の試験で5級に受かっております」
「は? 5級? それで何を悩むんだ?」
そう思うわなー……
「さあ? 私はそっち方面で悩んだことはありませんからわかりません」
「お前はなー……自信満々だし、それを裏付ける実力もあるんだろう。別の悩みはどうだ? 3人と上手くやってるか?」
そう、俺は何度も支部長に相談した人間関係がネックなのだ。
「3人娘とは上手くやれていると思います。他が微妙ですけど……」
「まあ、同僚と上手くやれているのならいいだろ。お前はそれでウチに来たんだから」
確かにそうだ。
少しずつかもしれんが、着実に成長している……と思う。
「ゾフィーともケンカしないように気を付けます」
「そうしてくれ。まあ、お前が言うように船の依頼が来たタイミングで応援が来るのは喜ばしいことだ。他の依頼と調整しながら進めてくれ」
「わかりました。ご迷惑をおかけします」
本来なら本部長が言うことだぞ。
「いい。人事のことも含めてお前に任せる」
信頼か仕事をしたくないか……
まあ、どっちでもいいな。
「今週末か来週には来るらしいです」
「ふむ……そのゾフィーとやらは貴族か?」
「いえ、普通の庶民の家の子です」
「なら俺がやることはないな」
支部長はこういう声掛けをしてくれるから助かる。
まあ、ゾフィーの場合はいらんが。
「では、そういうことですのでよろしくお願いします」
「ああ。わかった」
一礼し、部屋を出ると、デスクに戻る。
そして、ユリアーナからもらった設計図を眺め始めた。
「うーん……」
これを見て、3人娘が作れるか?
「ジークさん、船製造はいつから入るの?」
悩んでいると、木箱をせっせと作っているアデーレが聞いてくる。
「そうだなー……明日には契約書も届くと思うし、明日からでも入れるな。とはいえ、他の依頼との並行作業になるから隔日にするか」
「明日、ドックで作業して、明後日はこっちの依頼って感じ?」
「そんな感じ。まあ、まとめてやることもあるだろうが、基本的にはそんな感じでいくか。それでいいか?」
「ええ。私はそれでいいと思うわ」
アデーレが頷く。
「エーリカとレオノーラもそれでいいか?」
「大丈夫です」
「私もー」
2人も問題ないらしい。
「じゃあ、それで。明日、契約書が来たらまたドックに行こう。説明するわ」
「わかりました」
「じゃあ、今日はこっちを頑張るか」
「私は木箱を作りすぎて、模様か絵でも描こうかなって思ってきたわよ」
3人娘が作業を再開したので俺も仕事を再開した。
そして、夕方になると、今日もマルティナがやってきたので物理のテストをやらせる。
「あのー……このテスト、毎日作っているんですか? 先週間違えた問題が出ていますけど」
「当たり前だろ。ミスを放置できるか」
わからないのは仕方がないことだ。
でも、それを放っておくのは愚か者がすることである。
人間性を何十年も放置した俺の言葉は重かろう?
「ありがたいですけど、ジークさんも仕事があるのに大変では?」
「そう思うなら間違えないように真面目に解け。そして、絶対に20歳までには10級を取れ。お前は学校を辞め、故郷を離れてまで錬金術師を目指していることを忘れるなよ」
「が、頑張ります……」
マルティナは何度も頷くと、参考書を見始める。
「あ、そうだ。実は船を製造する依頼を受けてな。だから明日はここにいないかもしれん」
「船ですか? すごいですね」
「この町では必須らしいぞ。お前も見に来るか? 王都に行ったらこんな機会はないぞ」
王都には川用の小舟しかないし。
「いいんですか?」
おや、薬とは関係ないから拒否すると思ったんだが……
「問題ない」
「じゃあ、見たいです。私、船とか魚とか海関係が好きなんですよー」
へー……
「じゃあ、空いている時にでも来い。軍港近くのドックはわかるか?」
「はい。学校の研修で行ったことがあります」
土地柄ってやつかね?
当然、王都の魔法学校にそういうのはなかった。
「明日は一日中、そこで作業をしているから」
「わかりました!」
その後もマルティナの勉強を見ていると、終業時間となったのでマルティナを帰らせ、俺達も家に帰った。
この日も皆で夕食を食べ、勉強会をする。
そして、家に帰り、風呂から上がると、自室のアトリエで設計図を見ながら別の設計図を描き始めた。
「ジーク様、おやすみになられないんですか?」
ヘレンが聞いてくる。
「これを描いたら寝る」
「マルティナさんのテストです?」
「それはもう終わった。これは3人娘用の設計図だな。ユリアーナにもらった設計図は昔からの使いまわしで情報を端折りすぎている。多分、経験がある連中用なんだろうが、初心者に優しくない」
この設計図はちょっとひどいわ。
「そ、そうですか……ジーク様が指示をすればいいのでは?」
「それではあいつらが成長せん。言われたことをするだけでは半人前だ。自分で考えられないと意味がない」
それがマルティナの母親であるギーゼラさんだ。
俺はあの3人をそういう風にするつもりはない。
特にこの町では船が重要らしいし、1人でも作れるようにはしないといけない。
「お弟子さんのためですか……」
「そうだな……というか、なんだこの設計図? 何年前から使いまわしてるんだよ。今時こんなやり方せんわ。これだからアップデートできない連中は……」
使えん。
「あまり無理をなさらずに……」
「お前は先に寝ていいぞ」
「ジーク様と一緒に寝ますので起きてます」
可愛い奴。
お前はきっと天使の生まれ変わり――あっ……
「ここ、間違えてんじゃねーか! 設計図を描いた奴、誰だよ! あとで確認書と共に赤字を入れた設計図を提出してやろうか……」
これだから田舎の設計者は……あ、ここも間違えてる!
ったく、まずは設計図の修正設計業務を出せよ。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!