第167話 電話、買おうかな……
本日も仕事が終わり、エーリカの家で夕食を食べると、勉強会をする。
そして、明日が休みのため、カードゲームをしたり、少しお酒を飲んだりしながら話をし、いい時間となったので自分の部屋に戻った。
「ふぅ……今週も1週間、頑張ったな」
風呂から上がると、ウィスキーのロックを一口飲み、つぶやく。
「お疲れ様です。でも、お弟子さんも少しずつ成長しているように見えますし、ジーク様の苦労も報われていると思います」
確かに3人娘は着実に成長している。
「そうだな。人を集めるのは一苦労だし、あいつらを成長させ、当分は少数精鋭でいこうと思う」
「よろしいと思います。御三方も真面目ですし、ジーク様の期待に応えようと頑張っていると思います」
それはそう。
愚痴を言うレオノーラですら真面目にやっている。
「そうだなー……ん?」
ヘレンと話をしていると、チャイムが鳴った。
しかも、ノック付きだ。
「レオノーラだな」
「ジーク様に言われて、私もわかるようになってきましたよ」
立ち上がると、玄関に行き、扉を開ける。
すると、予想通り、レオノーラが立っていたが、寝間着姿だ。
「どうした? 寝られないのか?」
音痴だから子守歌は歌えんぞ?
「私はアデーレと違って、そんなデリケートじゃないね。ジーク君に電話だよ」
はい?
「電話? こんな時間に?」
「うん。本部長さんから」
あの人か。
「こんな時間にすまんな」
俺は悪くないけど、ウチの師匠なので謝罪する。
「いいよ、いいよ」
俺達は部屋を出ると、2階に上がり、レオノーラの部屋にお邪魔する。
レオノーラの部屋は珍しく片付けられていた。
「綺麗だな」
「たまにはね」
「電話を借りるぞ」
「どうぞー」
許可を得たので受話器を取り、耳に当てる。
「もしもし? 本部長です?」
『おー、ジーク! こんな時間に悪いな』
ホントだよ。
「それはレオノーラに言ってくださいよ」
『それは言った』
あっそ。
本部長にもそういう心があったわけね。
あんまり人のことを言えないけど。
「なんでこんな時間なんです?」
『忙しいんだよ。例の件のこともあるし、色々あってな』
アウグストかな?
「ふーん……レオノーラの家の電話番号をよく知ってましたね?」
『この前、王都に来た時に聞いた。アデーレもだな』
いつの間に……
「うざい電話とかしてないですよね?」
『しとらんわ。私もそこまで暇じゃない』
ならいいけど……
「頼みますよ……それで何の用です?」
『まずだが、例の魔剣な。陛下に納品したわ』
お、ようやくか。
「大丈夫でした?」
『ああ、大層喜んでいたし、満足そうだった。助かったわ』
「いえいえ。魔剣作りは得意ですから大丈夫ですよ」
あの依頼がなくて、王都に行かなかったらよくわからずにレオノーラだけが落ちていた可能性もあるのだ。
『陛下も相当、自慢して回っているらしいから何かあったらまた頼むわ』
ホント、ガキだな。
「こちらの状況によりますね」
『なんだ? 忙しいのか?』
「4人ですからね。それにちょっと船の依頼を受けるかもしれないんですよ」
優秀な奴を誰かよこせよ。
『船? あー、リートは港町か……なるほどな』
「どうしました?」
『あー、すまん。なあ、ジーク、ちょっと相談に乗ってくれないか?』
は?
「相談? 本部長が? 相談相手を間違えていますよ」
俺は絶対にない。
クリスにしてくれ。
『まあ、聞いてくれ。お前、ゾフィーのことをどう思う?』
妹弟子のゾフィー?
この前、抽出機と分解機を持ってきてくれたな。
「キャンキャンと騒ぐ子犬ですね」
『それは昔だろ……今はちゃんと落ち着いている。あいつも20歳だぞ』
そうかねー?
同じ20歳の聖女さんとは大違いだ。
「ゾフィーのことはそこまでわかりませんよ。テレーゼかハイデマリーに聞いてください」
俺が知るわけないだろ。
同門でも仲の良い奴なんていないんだから。
『いや、能力についてだ。あいつの錬金術師としての能力をどう思う?』
んー?
「20歳で5級でしょ? 十分にすごいと思いますよ。ハイデマリーやクリス、テレーゼよりも早いじゃないですか」
俺より遅いけどな。
『まあな……お前もウチではその3人が優れていると思うか?』
この人は何を言っているんだろう?
「そりゃそうでしょ。皆わかってますし、本人達もそう思ってますよ」
だからこそ、ハイデマリーとクリスが争っているんだ。
テレーゼは争いを好まないし、人の上には立てない。
立つ気もないだろう。
『ゾフィーはその3人から1枚落ちるか?』
「落ちますね。まあ、年齢や経験のこともあります」
ハイデマリー、クリス、テレーゼは20代後半だ。
20歳のゾフィーと差があって当たり前。
俺は以下略。
『ぶっちゃけ、あいつはどこまでいけると思う?』
んー……
「3級ですかね? 最低でも4級にいかないと何してんだって思います」
そんなところだろう。
『ほう……あいつが3級にいけるか?』
「いけますって。あいつは魔力がそこまで高くありませんが、コントロールは上手いです。それで十分に補えます。まあ、筆記は知りませんよ。あの程度の問題で落ちる奴の気が知れないんで」
4級も3級もたいした問題じゃなかった。
もっとも、2級も1級もだろうがな。
「ジークくーん、こっちにもダメージがー」
テーブルについて、ヘレンを抱えているレオノーラが不満を漏らす。
「あ、すまん。俺は勉強が得意だからそう思うだけだ」
「知ってるー。ねー?」
「ジーク様は賢いのです!」
はいはい。
『仲が良さそうで何より……なあ、ジーク、ちょっとゾフィーの面倒を見てくれないか?』
は?
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