第165話 好き嫌い
マルティナの勉強を見ていたが、終業時間となったのでマルティナを帰らせ、俺達も家に帰った。
そして、エーリカの家に集まり、料理ができるのを待つ。
「うーん……」
「どうだったの?」
一緒に席についているレオノーラが聞いてくる。
なお、アデーレはエーリカの手伝い……手伝いっぽいことをしている。
「微妙……参考書を見ながらテストを受けさせても半分も取れてない」
相変わらず、ひっでー……
「まあ、参考書も難しいやつは難しいからね。あの子はそもそも基礎ができてないんだと思うよ」
この程度は基礎と言ってもいいんだがなー……
小学生は辛いわ。
「化学への興味を少しでも物理に振ってくれればいいのに」
「家業がある子あるあるだね。そういう子は多いよ。ジーク君、どこまで見てあげるの?」
どこまで……
「化学やポーションなんかの薬関係はハイデマリーの領分だし、せめて物理をちょっと苦手くらいなところまでは持っていきたい。あと銅鉱石を銅のインゴットにしたいな」
マルティナは明日からもほぼ毎日、夕方に来るらしいし、できるとこまではやろう。
「よくやるね。デスクについていた私達のところまでジーク君の負のオーラが届いていたよ?」
「一応、一門だからなー……姪弟子って言うのか?」
「聞いたことないし、多分、違うんじゃない? テレーゼさんやハイデマリーさんを伯母弟子って呼んだらキレられそうだよ」
テレーゼは口元を引きつらせ、ハイデマリーは髪の毛アタックだな。
「ハァ……俺は本当に弟子に恵まれたわ。お前らは教えたらできるし」
勉強を教えていると、よく『こんなこともわからないのか?』って思うが、この歳で9級、8級の才女だ。
教えればすぐに理解してくれる。
「でしょー」
レオノーラが嬉しそうにうんうんと頷く。
「レオノーラ、ステンレス鋼はどれくらいで終わりそうだ?」
「明日には終わると思うよ」
「あ、私もー」
キッチンのアデーレはこちらを振り向き、報告してきた。
「そうか。エーリカはどうだ?」
「今日で終わりましたよ。と言っても私は同じですから引き続きです」
じゃあ、明日で全員が終わるわけだな。
「頼むわ」
「ジーク君、お疲れだねー。明後日の休みにでもどこかに出かける? デートしよーよ」
レオノーラはデートが好きだなー。
エーリカからのお使いでもデートらしいけど。
「出かけると余計に疲れんか?」
「うーん、まあねー……」
基本的に俺達はインドアなんだ。
まあ、デスクワークの錬金術師は大抵そう。
「だったらジークさんにもらったレシピに書いてあったプリンを作りますから皆で食べましょうよー」
エーリカが完成した料理を持ってきながら提案してくる。
「プリンって何?」
同じく料理を持ってきてくれたアデーレが首を傾げた。
「卵を使ったお菓子です」
「へー……気になる」
「ですよねー……あ、そういえば、プリンにも付いてましたが、レシピ本にたまに可愛い肉球マークが付いてるのは何です?」
エーリカが聞いてくる。
「ヘレンが好きなやつだな」
わかりやすくアピールしてただろ。
「あ、なるほど……優先して作るようにします」
作れ。
俺達は料理を食べ始め、話をしながら食事を続けていく。
そして、夕食を終えたらいつものように勉強会をし、就寝した。
翌日、出勤した俺達は朝からひたすら仕事をしていく。
「できたー」
レオノーラが嬉しそうにラス一のステンレス鋼を掲げる。
「ランクは?」
「D!」
確かにDだな。
「じゃあ、役所に納品してこい」
「あ、待って。私ももうすぐ終わるから一緒に行きましょう」
アデーレの風魔石の方も終わるらしい。
「了解。ジーク君、待ってる間にガーゼを教えて。普通の布でいいの?」
「ダメ。医療用だし、ちゃんと規定がある」
「規定……」
「依頼は50メートルだが、幅は5センチって決まっている」
これは協会と病院の協定で決まっているのだ。
「ふーん……材料は?」
「それは木材や布ならなんでもいい。ただ、ランクはCランク以上でBランクが望ましい」
「材料は安価なわけだ。でも、代わりに必要なのは技術か」
ああ……なんて賢い奴なんだ。
マルティナとは大違い。
「薄く作るのが難しいんだ。しかも、均一にな」
「へー……」
「3日で作れよー。お前は次のハイポーションが待ってるからな」
「おー! ポーション!」
こうやって人参を吊るすのが大事。
「良い旦那様を持ったなー」
そうか?
そうは思えんが……
「できた……ジークさん、どう?」
アデーレが完成した風魔石を見せながら聞いてくる。
「お前はどう思う?」
「C……いや、D? でも、私だし……E!」
ネガティブな奴……
「出来を聞いているのではなく、鑑定しろって言ってるんだがな……Cランクはあるぞ」
「おー……Cランク……リートに来て良かった」
良かったな。
こいつの鑑定はエーリカ以上に時間がかかりそうだわ。
「じゃあ、納品してきてくれ。あ、ついでにエーリカが作ったキュアポーションも頼む」
「わかった!」
「よし、行ってくるわ」
2人は立ち上がると、共同アトリエを出ていった。
「うーん……Eランクですかね?」
エーリカが作ったキュアポーションを見せてくる。
「Dランクだな」
「難しいです……」
「鑑定士も国家資格になるくらいだからな。でも、エーリカなら地道にやっていけば必ず取れる資格だ。頑張れ」
アデーレいわく、エーリカは断言する方が良いらしい。
「はい!」
こいつらは簡単なのになんでマルティナは難しいんだろ?
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