第162話 新たなる依頼
俺達は仕事を終えると、いつものようにエーリカの家に集まり、夕食を食べる。
「ジークさん、そろそろ軍や役所からもらった依頼を終えるけど、どうする?」
隣にいるアデーレが聞いてくる。
俺がちょこちょこ受けている依頼はその都度、達成して納品しているのだが、こいつらが担当している難易度が高いキュアポーション、ステンレス鋼、風魔石もそろそろ終わりそうなのだ。
「そうだなー……役所や軍に営業の電話をしてみるか」
電話するのは3人娘。
俺はやんない。
「あ、そういえば、病院も依頼をしたいみたいなことを言っていませんでした?」
エーリカが思い出したように言う。
「そういや、看護師がそんなことを言ってたな」
マルティナの母親であるギーゼラさんの見舞いに行った時に聞いたのだ。
「そっちも営業の電話をかけてみましょうか?」
「頼むわ。俺は営業の電話なんかできん」
めちゃくちゃ苦手。
「ジーク君はそういうのが嫌で協会に入ったって言ってたしねー……私達がかけるよ」
レオノーラは良い奴だなー。
俺達はその後も今後のことを話しながら食事を続ける。
そして、食事を終えると、勉強会をし、いい時間となったので就寝した。
翌日、出勤すると、エーリカ、レオノーラ、アデーレがそれぞれ病院、軍、役所に営業の電話をかけてくれる。
「――はい、はい……わかりました。では、今からそちらに伺います。失礼します」
最後に役所に電話したアデーレが受話器を置く。
「やっぱり依頼があるから来てほしいんだって」
「そうか……」
エーリカとレオノーラも電話をしたのだが、同様に来てほしいと言われていた。
つまり仕事があるということだ。
「じゃあ、私達が聞いてきますよ」
「任せたまへー」
「留守番お願いね」
3人はそう言って、支部を出ていった。
「心強い3人だな」
そう言いながらヘレンを撫でる。
「いや、依頼を聞きに行っただけじゃないですか」
まあ、そうなんだがな。
「営業っていうのが嫌いなんだ。本来、依頼関係というのは対等でなければならない。でも、営業って下手に出ないといけないだろ? なんでそんなことをしないといけないんだ?」
「あ、支部長さんですよ」
聞けよ……
まあ、どうでもいいかと思いつつ、入口の方を見ると、相も変わらず、支部長が重役出勤していた。
「おはようございます」
「おう、おはよう。ん? 他の3人はどうした?」
支部長がこちらにやってくる。
「ちょっと病院、軍、役所に依頼内容を聞きに行ってます」
「病院からも依頼が来そうなわけか……ジーク、実はな、町長から船の製造の依頼が来るみたいだ」
はい?
「船ですか? 軍用船?」
「その辺りは聞いていないが、そういう話があったのは確かだ」
船って……
「あのー……ウチ、4人ですよ? 船なんか10人以上のチームを組んで製造するものですけど」
ましてや経験の浅い3人娘にできることじゃない。
「まあ、俺も4人で作るのは難しくないだろうかと思っている。ただ、相手が町長だし、話も聞かずに断るのはな……」
「それはそうですけど……具体的な話はいつ?」
「来週くらいに人を寄こすそうだ」
話を聞いてからだな。
「わかりました。まずは話を聞いてみます」
「頼む」
支部長は頷くと、支部長室に入っていった。
「うーん……」
「船って難しいんですか? ジーク様は元々、飛空艇製作チームでしたよね?」
ヘレンが聞いてくる。
「船は飛空艇よりかは簡単だ。というか、飛空艇は人類の最高傑作であり、最高の難易度と言われてるからな」
「まあ、落ちたら死んじゃいますしね」
「空を飛ぶっていうのはそういうことだからな。一方で船は古来よりある。丸太をくくっただけの筏だって立派な船だ」
海に浮けば船でいいだろ。
「でも、そういうのじゃないんでしょうね」
「錬金術師協会に依頼が来てるからな……さて、どうするか……」
うーん……
腕を組みながら悩んでいると、アデーレとレオノーラが一緒に戻ってきた。
「ただいま」
「エーリカさんはまだみたいね」
2人が席につく。
「病院はちょっと距離があるからな。依頼はどうだった?」
「この前と一緒。リストをもらってきたからジークさんが選んで」
「はい」
2人が手を伸ばし、紙を渡してきたので見てみた。
「ふーん……この前のリストと一緒だな」
まったく一緒だ。
民間は受けないのかな?
それとも民間用のリストもあるのかもしれない。
「もうステンレス鋼は嫌だよー」
「私は風魔石でいいけどね」
どうすっかなー?
「ただいま戻りました」
悩んでいると、エーリカが帰ってきた。
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「早いな」
もうちょっとかかるかと思った。
「すぐでしたね。ぱっと用件を言われました」
じゃあ、電話で言えよ。
どうせ口頭発注なんだから。
「何て?」
「メスを10本、ポーションを100個、ガーゼを50メートルだそうです」
普通だな。
「なるほどね……」
さて、どうしようか。
悩んでいるのはもちろん、船のことだ。
船は難しい。
でも、こういう依頼は滅多にないし、町長からの依頼は断りにくい。
さらには船製作は絶対にこいつらにとって自信になる。
だからこそ、難しいとは思うが、受けてやりたいと思う。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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