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第161話 師と弟子 ★


 私は昼の休憩時間に個人のアトリエで錬金術の本を読んでいる。


「これが4級、か……」


 自分のことだからわかっていたが、厳しい。

 5級だって運が良かったと思っている。

 10回やれば9回落ちたと思う。


「うーん……ん?」


 悩んでいると、ノックの音が部屋に響いた。


『ゾフィー、私だ。ちょっといいか?』


 ほ、本部長だ!


「どうぞ!」


 そう答えると、扉が開き、本部長が入ってきたので慌てて本を置いて立ち上がる。


「昼休憩中にすまんな」


 本部長はそう言いながらも応対用兼臨時ベッドとなっているソファーに座った。

 この辺りは本部長らしい。


「いえ。どうかされましたか?」

「ゾフィー、リートはどうだった?」


 あー……その件か。


「えーっと……」

「まあ、座れ」

「はい」


 ここ、私のアトリエなんだけどね……


 そう思いつつも本部長はこういう人だから仕方がないと思い、本部長の対面に座る。


「それで?」

「あー……良いところでしたよ。自然豊かでしたし、思っていたよりも都会でした。それに料理も美味しかったですね」


 魚料理しか食べていないが、絶品だった。


「ふむ……リート支部は?」


 回りくどいな……


「ジークの同僚は感じのいい子達でしたよ」


 めんどくさいから本部長が聞きたいであろうことをさっさと言ってしまうことにした。


「ほう? 具体的には?」


 話してないし、知らないわよ……


「本部長も話されたんじゃないですか?」


 食事に行ったと聞いている。


「まあな。でも、お前の目から見て、どう思うかを知りたいんだ。ジークって人付き合いが下手だろ? 気になってな」


 この人はいつまでもジーク、ジークね……

 子離れしなさいよ。


「問題ないように見えましたね。悪い人達には見えませんでしたし、ジークも変わったと思います」


 テレーゼもそう言っていた。


「そうか……わかった。それでお前は何を読んでいたんだ?」


 目ざといな……


「4級対策の本です」

「ほう? もう次を見据えているのか。さすがはゾフィーだな」


 師である本部長に褒めてもらうのは嬉しい。

 でも……


「いえ……私はここが限界のような気がします」

「何を言うか。お前はまだ20歳になったばかりだろ」

「昔、ジークが6級以上は才能でわかると言っていた意味がわかります。このレベルになると自分の限界が見えるんです」


 私に4級は厳しい。


「ロクなことを言わんな、あいつ……」


 それはそう。


「ジークには関係なく、なんとなくわかるんです。ウチではクリス、ハイデマリー、テレーゼ……これがトップでしょう」

「ジークは?」

「あれを頭数に入れる気はありません」


 ジークはムカつく奴だが、その実力と才能は誰もが認める本物の天才だ。

 私はもちろんだが、クリス、ハイデマリー、テレーゼの遥か上をいっている。

 いや、本部長よりも……

 私にはあれがバケモノにしか見えない。


「皆、そう言うな」

「私にとってあいつは魔法学校の先輩になりますけど、別格でしたよ。学校もウチの一門も皆が2位を目指すようになりました」

「まあ、能力が偏った奴だからな」


 才能に全振りしたから人の心がなくなったんだとクラスメイトとよく話していたのを思い出す。


「本部長……師匠の目から見て、私はどう見えていますか? どこまでいけると思います?」

「お前ならどこまでもいけるだろ」


 この人はわかりやすい。

 誤魔化す時は目を合わせないから。


「本気で話しています」

「5級か4級だ……正直、お前が5級に受かったのはびっくりした」


 やっぱりか……

 私は天才だ。

 誰よりも優れている。

 ずっとそう思ってきた……


「ギリギリでしたかね?」

「ああ……合格ギリギリのラインだった。はっきり言うが、お前が私の弟子じゃなかったら結果はわからん」


 審査員は公平だ。

 でも、人の子だし、自分のところのトップの弟子がギリギリのラインだったら甘くもなる。


「ですか……」

「ゾフィー、5級でも立派だぞ?」

「わかってます……」


 わかっている……

 私がもう……上にはいけないことは十分にわかっている……

 才能がないのは十分にわかっている……




 ◆◇◆




 こいつら、才能ねーなー……


 俺はソファーに座りながら自作したエーリカとアデーレのテスト結果を見て、呆れた。

 だが、けっして口には出さない。

 俺は成長して、人間性が35点になったのだ。


「どうです?」


 対面に座っているエーリカが聞いてくる。


「表情を見ればわかるでしょ」


 同じく対面に座り、エーリカの隣にいるアデーレはジト目だ。


「まあ……マルティナちゃんの成績表を見た時と同じ表情ですし……」


 わかったらしい。

 表情を言われると辛いな。


「えーっと、エーリカが3個正解でアデーレが2個だな」


 俺達は職務中だが、ちょっと時間が空いたので鑑定資格の試験勉強をすることにした。

 それで適当な魔石を10個取り出し、ランクを当てさせる試験をしてみたのだ。


「すみません……全然、わからなかったのでほぼ適当です」

「私も……」


 だと思った。

 2人共、Eランクの魔石をBランクって書いてるしな。


「魔力の量や質、純度、均一性を見ればいいだけなんだがなー……」

「だけ……」

「無理言わないでよ」


 まあなー……


「仕方がない。こればっかりは長い目で見よう。錬金術の方は才能があるわけだし、それ以上を求めるのは贅沢ってもんだ」


 うんうん。

 俺も成長したもんだわ。


「ジークくーん……私も仲間に入れてよー……」


 1人でデスクの方にいるレオノーラが寂しそうな声を出す。


「ステンレス鋼もあと少しだろ。頑張れ」


 お前は受かるだけの目を持っているから大丈夫だっての。


「はーい……」


 レオノーラはマルティナほどじゃないが、好き嫌いが多いし、ムラがあるのがなー……

 エーリカは一つ一つ丁寧な仕事をするが、全体的に遅い。

 アデーレは勉強はできるんだが、魔力をコントロールするのが苦手。


 こうやって考えると、それぞれ個性がある。

 師である俺はこいつらの個性にあった指導をしていかないといけない。


 うーん……弟子の多い本部長やハイデマリーはすごいと思うわ。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


東京などの早いところではもう並んでいるかもしれませんが、いよいよ明後日、本作の1巻が発売となります。

改稿、加筆も行い、本作をお読みいただいている皆様も楽しめるようにしておりますのでぜひとも手に取っていただけると幸いです。

品切れだったゲーマーズさんとメロンブックスさんの通販も補充されております。


よろしくお願いします!

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