第155話 これで仕事が楽になる
テレーゼとゾフィーと別れると、支部に戻り、席についた。
「あれ? テレーゼさんとゾフィーさんは?」
エーリカが聞いてくる。
「昼食を食べてから来るってさ。やっぱり抽出機と分解機を持ってきてくれたみたいだ」
「おー、ついにですか!」
「だな。俺達も昼食にしようぜ」
ちょうど12時だ。
「はーい。お茶淹れます」
「あ、手伝うわ」
エーリカが立ち上がると、アデーレと一緒にお茶セットが置いてある台に向かった。
「ジーク君、そのゾフィーは抽出機と分解機を持ってくるためにわざわざ来たの?」
レオノーラが聞いてくる。
「いや、本部長の命令だそうだ。お前らを見てこいってさ」
「嫌な義母だなぁ……」
放っておいてほしいわ。
俺達は昼食を食べ、休み時間にまったりと過ごす。
その間、この前買った本を読んでいたのだが、子供相手は本当に大変なことがわかった。
そうこうしていると、1時を回り、昼休憩が終わる。
そして、そのタイミングで受付にテレーゼとゾフィーが見えた。
「めんどいから勝手に入ってくれ」
迎えにいくのが億劫だったので手招きする。
すると、2人が受付を抜け、こちらにやってきた。
「良いところじゃないの。さすがは新築」
「だよね」
ゾフィーがキョロキョロと見渡すと、テレーゼが同意する。
「燃えたからな」
しかも、アウグストのせい。
「ふーん……あ、抽出機と分解機を持ってきたけど、どこに出せばいいの?」
「奥の隅に置いてくれ」
立ち上がり、ゾフィーを奥に連れていく。
「ここでいいの?」
「ああ」
「じゃあ、セッティングするわ」
ゾフィーは空間魔法で2つの機材を取り出すと、最後の調整とやらをしていく。
「調整って何だ?」
「別に……ただの確認よ。このためだけに出張に来た私を褒めてほしいわ」
大変だな。
「日帰りか?」
「日帰り。夕方の最終便に乗って王都に着くのは夜よ。そして、明日も仕事」
「休めよ」
「同僚が産休に入ったから無理」
どこも大変だわ。
「ウチもだけど、人手不足が深刻だな」
「試験が難しすぎるのよ。そりゃ民間に流れるわ」
まあ、それはなー……
「それでいて、産休か。きっついな」
錬金術師は女性ばっかりだからそういうこともある。
「仕方がないわよ。あんたには関係ないけど、女性はそうなる。私はそんな気が一切ないけど、将来はわからないし、こういうのは助け合いよ。じゃなきゃ国が滅んじゃうじゃない」
オーバーだが、言ってることは正しい。
「彼氏いないのか?」
「あんたにそんなことを聞かれる時が来るとは思わなかったわ……いたら5級に受かってないわよ。この数ヶ月は仕事と勉強しかしてない」
それだけ頑張ったわけだ。
「無理してテレーゼみたいになるなよ」
「なんない。5級も受かったし、当分は遊ぶ……はい、抽出機はこんなものね」
どうやら抽出機の調整が終わったらしい。
「エーリカ、毒消し草をくれ」
「はーい」
「使うの? 見せて、見せて」
「私も見たい」
3人娘がやってくる。
「ゾフィー、使い方を教えてやれ」
「あんたの弟子でしょ。私は分解機の調整で忙しい」
ゾフィーが今度は分解機の方をごそごそし始めた。
「まあ、使い方と言っても素材を入れて、スイッチを押すだけだけどな。エーリカ、毒消し草をフラスコに入れて、やってみろ」
「はーい」
エーリカが電子レンジみたいな機材の扉を開け、毒消し草入りフラスコを入れ、閉めた。
「このスイッチですか?」
「そうそう」
「じゃあ、押します」
エーリカがスイッチを押すと、機械がウイーンという音を出し、起動し始めた。
「これで毒消し草の要素を抽出できるわけだ。分解機は鉄鉱石を鉄にできるぞ」
「時短になりますね」
「文明の利器だねぇ」
「どういう原理かしら?」
原理は機械の専門家ではないので知らない。
説明をしていると、抽出機からピー、ピーという機械音が聞こえてきた。
「できたな」
「早いですねー……お、ホントだ! すごい!」
エーリカが抽出機を開けると、フラスコ内に紫色をした液体が入っていた。
「まあ、こんな感じだな。適当に使ってみろよ」
「魔力草がなかったでしたっけ?」
「上にあるね。取ってくる!」
「薬草を入れてみましょうよ」
3人娘が遊びだしたのでテレーゼが座っているソファーの方に行く。
「楽しそうだね」
テレーゼが微笑ましそうに3人娘を見る。
「これまでは完全に手作業だったからな」
「最初はそれがいいよ。機械に慣れると技術が落ちちゃうし、6級に受かるまでは手作業が一番」
確かにな。
まあ、簡単な鉄鉱石や魔力草なんかはもうやらなくていいから機械でいいだろ。
「あー、疲れた。なんでこのゾフィー様がこんなことしなくちゃいけないのよ」
調整を終えたゾフィーがドロテーみたいなことを言いながらテレーゼの隣に座った。
「ご苦労さん。空の旅でも楽しめよ」
「寝てたわ。そして、帰りは暗い」
楽しくない旅だな。
「せっかくだから泊まっていけばいいのに。飯が美味いんだぞ」
「それはさっき思ったわ。やっぱり新鮮な魚は美味しいわね」
昼食は魚を食べたらしい。
「王都は川魚か塩漬けだろ」
「そんなところね……ねえ、ジーク。あんたは本部に帰ってこないの?」
「多分な」
少なくとも、今のところは帰るつもりはない。
「ハァ……それでか」
ん?
「どうした? ハイデマリーとクリスか?」
「それよ、それ。うざったい」
「ほっとけよ。どっちが次の本部長になろうと変わらんだろ」
「私達はね。でも、一門じゃない奴らの方が圧倒的に多いのよ。それで本部全体がざわざわしてるわ」
まだ本部長は健在だし、バリバリやってるのになー……
もうすぐ死ぬみたいだわ。
「別にどっちがなろうがそんなに変わりはしないと思うがな」
「どうかしら? これならあんたが次の本部長になってくれた方が遥かに楽よ」
「そうか? 嫌われてるだろ」
「上は嫌われてなんぼよ。それにあんたは本部長以上に完全な実力主義だから余計なことを考える必要がない。媚びを売ったって何の意味もないし」
ないなー。
飲み会にも参加せんし、そんな暇があったら仕事しろって思う。
「一門で方向性を決めるのはどうだ? 俺はクリスで良いと思うぞ」
「私はハイデマリーを推すわ。クリスは貴族の力が強すぎる」
もう割れたわ。
「ハイデマリーのことが嫌いじゃないのか?」
「嫌いよ。でも、それとこれとは違う。そんな大事なことに私情なんか挟まないわよ」
立派だね。
まだ小さいのに。
「もう放置でいいな。俺らまで割れる必要はないだろ」
「その通りね。勝手にやってほしいわ。じゃあ、私は夕方の便まで観光して、帰る。邪魔したわね」
「あ、私も付き合うよ」
ゾフィーとテレーゼが立ち上がった。
「おすすめは西にある山だぞ」
登山しろ、貧弱娘。
「2日連続は死んじゃうよー」
「あ、だからあんた、歩き方が変なのね……」
ゾフィーが呆れる。
「ハイデマリーさんに連れていかれた」
「ゴミカスマリー……あいつ、魔法が使えるから多分、飛んでたか、髪で楽してたわよ」
「なんか登るのが速いと思った……」
ご愁傷様。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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