第154話 レオノーラ以外わかっていない
何か知らないけど、ゾフィーが来るらしい。
「ゾフィーかー……」
「嫌いなんだっけ?」
「キャンキャン騒ぐ子犬だろ。ハイデマリーと一緒で自分が一番と思っているガキンチョじゃねーか」
そのくせ6級。
「ジーク君もそう思っているもんね」
「俺は自意識過剰でもないし、自分のことを過大評価しているわけでもない。ただただ事実だ」
「謙虚になろうよ。だからハイデマリーさんとゾフィーちゃんとケンカになるんだよ。ゾフィーちゃんなんかまだ20歳だよ?」
よく考えたらエーリカと一緒だ。
そう思って、振り返り、エーリカを見る。
「随分と人間性に差があるな……」
エーリカは人間ができているし、大人だ。
「個性だってば。温かい目で見てあげてよ。根はとっても良い子なんだよ?」
良い子は姉弟子のことをゴミカスマリーとは呼ばんわ。
「しかし、なんであいつが来るんだよ」
「さあ?」
「まさかウチに異動じゃないだろうな? 人手不足だが、嫌だぞ」
王都で色んな奴に声をかけたが、ハイデマリーとゾフィーには声をかける気はなかった。
「それはないんじゃない? ゾフィーちゃんは今、乗りに乗っているからね。あ、先日の試験に合格し、5級になったんだよ」
「ほう?」
それはすごいな。
まだ20歳だというのに5級は本当にすごいし、なんならハイデマリーよりも早い。
俺より遅いけどな!
「その自慢に……来ないか」
そんなしょうもないことのために来ないだろ。
あいつは精密機械製作チームだったはずだし、魔導石製作チームほどじゃないが、忙しいのに変わりはない。
「ジークさん、もしかして、抽出機と分解機じゃない?」
アデーレが声をかけてくる。
「あー、サシャが今週って言ってたし、それかもな……」
調整って言ってたし、その分野は精密機械製作チームの領分だ。
しかし、わざわざあいつが来るかね?
送るだけなら誰でもできるし、何なら業者に任せればいい。
「テレーゼ、何時の便だ?」
「昼前って言ってたから11時半かな?」
30分後か。
「抽出機と分解機ならウチに用か」
「一緒に行く? ゾフィーちゃんも喜ぶと思うよ」
ねーよ。
「本気でそう思っているか?」
「うん。5級を自慢したいだろうし」
そっちね。
俺は在学中に取ったんだけどな。
「まあいいわ。じゃあ、行くか……ちょっと出てくるわー」
3人娘に声をかける。
「はーい」
「いってらっしゃーい」
「気を付けてね」
俺とテレーゼは立ち上がると、支部を出て、空港に向かう。
そして、空港のゲートの前でゾフィーを待つことにした。
「ハイデマリーとは会わせないようにしたいな」
どちらも自分が一番と思っているので仲は良くない。
というよりもハイデマリーがゾフィーをからかうため、ゾフィーの方が嫌っている。
だからゴミカスマリー。
「ハイデマリーさんも知っているけどね。電話した時にその場にいたし」
「ケンカしてたか?」
「うーん……電話してたら背後からハイデマリーさんの髪の毛アタックで受話器を奪われ、『背伸びた?』って聞いてたね。ガチャ切り」
ウチの一門は皆、ガチャ切りだな。
「めんどくさいなー」
「ハイデマリーさんはゾフィーちゃんが可愛いんだよ」
歪んだ愛だな。
さすがはドS。
俺とテレーゼが話をしていると、王都からの便の飛空艇が上空に現れた。
「来たか」
「ジーク君、俺は在学中に取ったとか言わないでね」
5級ね……
まあ、自慢はしてくるだろうからな。
「わかった」
俺も成長したなーと思いながら飛空艇を見上げていると、飛空艇が空港内に入り、見えなくなった。
そして、しばらくすると、乗客らしき人達が降りてきたのだが、その中に赤みがかかった金髪の背の低い女の子が見えた。
「ゾフィーちゃーん!」
テレーゼが呼ぶと、女の子がこちらを見て、歩いてきた。
その顔は不機嫌そのものである。
「テレーゼ……ゴミカスマリーは?」
開口一番でそれか。
「買い物に行った」
「あっそ。それは良かったわ。で? なんでこの男がいるの?」
ゾフィーが睨んでくる。
「とんだ挨拶だな。俺はお前が5級に受かったと聞いて、おめでとうを言いに来たんだ」
ということにしておこう。
これが俺が弟子から学んだ良い人クオリティ。
「は? 何言ってんの? あんたがそんなことするわけないでしょ」
「心外な。お前の歳で5級は素直にすごい。お前の日々の努力が見えるな」
あんまり知らないけど。
「ハァ? あんたは在学中に取ってたじゃん」
「俺と比べるな、凡夫」
「ああ……あんたね。3級の余裕ってやつだわ。まあ、正直、ギリギリ合格だと思うわね」
多分、そうだろうな。
「100点だろうが、80点だろうが合格は合格だ。おめでとう」
「ありがとう…………ねえ、こいつ、本当にジーク? 別人じゃない?」
ゾフィーがテレーゼに確認する。
「お弟子さんを持って、配慮ができるようになったんだよ」
あと、事前にテレーゼに言われたから。
「ふーん……ジークの弟子なんて苦行をするバカが3人もいると聞いて、同情してたけど、ちゃんとしているのね」
「ジーク君もこの地に来て、変わったんだよ」
それはそう。
「あっそ。まあいいわ。それよりジーク、抽出機と分解機を持ってきたわよ」
やっぱりそれか。
「悪いな。でも、わざわざお前が持ってきたのか? 暇じゃないだろ」
「配達後の最終調整をしないといけないのよ。本来ならそんなことしないんだけど、本部長がやれって。ついでにあんたの女共を見てこいってさ」
本部長もしつこいなー。
自分で見ただろ。
「女共という言葉のチョイスはおかしいが、どうせ支部に来てもらわないといけないから勝手に見て、本部長に報告してくれ」
「そうするわ。あ、その前に昼食にする。ジークはどうでもいいけど、テレーゼは付き合ってよ。私、この町のことを全然知らないし」
もうそんな時間か。
「私もあんまり知らないよー。ジーク君、知ってる?」
「俺も知らん。その辺にあるだろ」
「なんであんたが知らないのよ。相変わらず、パンだけ生活を送ってるの?」
「いや、同僚が作ってくれるからあまり外食はしないんだ」
サイドホテルかいつも歓迎会で使う店くらいだ。
「女共で合ってんじゃん。食事まで作らせてるじゃん」
うーん、説明が非常にめんどくさいな。
「何でもいいわ。確か、海の方に行けば海産物を食べられる店もあったと思うぞ」
行ったことはないが、何度か見かけた。
「それ、良いかもね。海の町に来たら海産物よ。王都はあまりないし」
「そうしろ。俺は弁当があるから2人で行ってくれ」
「その弁当も弟子が作ったんでしょうね。奥さんじゃん」
いやー、エーリカはレオノーラの奥さんなんだなー。
これを言ってもまったく理解できないだろうけどな。
俺もできてないし。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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