第153話 悲報
俺達はその後も仕事を続けていく。
3人娘の仕事も順調だし、このままいけば来週かその次の週には納品できそうな感じだった。
そして、翌日も同じように仕事をしていく。
俺もマナポーションを黙々と作りながら3人娘の次の仕事を何にしようか考えていた。
すると、受付の方にテレーゼが見えた。
「あれ? テレーゼさん?」
アデーレもテレーゼに気付くと、エーリカとレオノーラも受付の方を見る。
「あ、ホントですね」
「1人だね?」
レオノーラが言うようにテレーゼは1人であり、ハイデマリーの姿はない。
「ちょっと行ってくる。エーリカ、悪いが、あいつの分のお茶」
「わかりましたー」
エーリカが立ち上がり、お茶セットが置いてある台に向かったので俺も立ち上がり、受付の方に向かった。
「ジーク君、こんにちは」
テレーゼが笑顔で挨拶をしてくる。
しかし、何故か前かがみであり、カウンターに腕を置いていた。
「ああ……1人か? ハイデマリーは?」
「お弟子さん達のお土産を買うって言って、朝から出かけたね。それで暇になっちゃったんで挨拶しておこうって思ってさ」
挨拶ね。
休みの日に会っただろうに。
「そうか。まあ、入れよ。お茶くらいは出してやる」
「ありがとー」
テレーゼが礼を言うと、受付を回って、中に入ってくる。
しかし、その動きはぎこちなく、足を引きずっているように見えた。
「どうした?」
「筋肉痛。昨日、何故かハイデマリーさんに山に連れていかれたんだよ」
あー……それでか。
「お前を元気づけようとしたらしいぞ」
「元気じゃなくなったけどね。朝起きたら全身がバキバキで動けなかった」
人のこと言えないが、運動不足だな。
「ポーションでも飲めば?」
「ハイデマリーさんに頼んだんだけど、『それが人の痛みですわよ』という謎の言葉でくれなかった」
何言ってんだ?
「でも、あいつは飲んだだろ」
「うん」
性根が悪いわ。
テレーゼはひょこひょこと歩きながら共同アトリエに入り、ソファーに腰かけた。
すると、すぐにエーリカがお茶を持ってきてくれる。
「どうぞー」
「ありがとー」
「いえいえー」
エーリカはお茶をテーブルに置くと、自席に戻っていった。
「それでお前、大丈夫か? 職場の支部に来て、問題ないか?」
「うん、心配かけてごめんね。ちょっと疲れてたんだよ。でも、美味しいもの食べて、よく寝たらだいぶ良くなったよ」
あと運動な。
ハードすぎな気もするけど。
「無茶するなよ」
「うん……ちょっと反省した。昨夜、コリンナ先輩に電話して、今週いっぱいはお休みをもらうことにしたよ」
1週間か。
もうちょっと休めよとも思うが、今度ヤバそうになったら周りが止めるだろう。
「ほどほどにな」
「そうする。それでなんか面倒なことになっているみたいだね?」
ハイデマリーに聞いたか。
「面倒ってほどでもないけどな。はっきり言えば、俺達には関係ない他人様の人生だ」
「それでも才能ある若者が潰れるのは忍びないよ」
そうは言うが、そういう奴はたくさんいる。
才能があっても努力しない奴、金がない奴、上司に嫌われる奴、精神が弱い奴など様々だ。
いちいち気にかけていたらキリがない。
「まあな。だからハイデマリーを呼んだんだ」
半分は嘘だ。
もし、支部がこんな状況でなく、さらにはマルティナがエーリカの後輩じゃなかったら見捨てていたと思う。
「ジーク君、優しいね。ハイデマリーさんと仲良くないでしょ」
「もうそうでもないらしい」
「敵ではなくなったんだっけ?」
それも聞いたか。
「お前、ハイデマリーに付くのか?」
「いやー……昨晩、『わたくし達、友達ですわよね!?』って詰められたけど、そういうことではなくない?」
嫌な友達。
「クリスの方がいいのか?」
「というよりも、どっちを応援するとかないよ。どっちも同門だし、どっちが次の本部長になろうと一緒じゃん」
まあ、何も変わらんわな。
これが同門じゃない奴との争いだったら俺も考えないといけない。
次の本部長が俺達の排除に動くことも考えられるのだ。
それだけ本部長は敵も多い。
「まあな。でも、俺はクリスの方が良いと思うがな。ハイデマリーは好き嫌いが多すぎる。本部長以上に敵を作るぞ」
「まあ……じゃあ、ジーク君はクリスさんに付くの?」
「いや、どっちも付かん。そもそも辺境にいる俺には関係ないことだ」
本部で勝手にやってくれ。
「気楽でいいねー」
「そう思ったからここにいるんだ。お前も来るか?」
「いやー、私は本部でいいや。なんだかんだで魔導石を作るのが楽しいからね。さすがに最近は忙しすぎたけども」
まあ、そうだろうな。
それにこいつには王都志望の弟子のリーゼロッテがいる。
「ホント、無理だけはするなよ」
「わかってるよ。でも、戦争がねー……北部の方の町の支部もすごいことになっているらしいよ」
戦争は金を食うからな。
一応、俺達的には儲かるんだが、人手が足りてない。
「ご愁傷様としか言えんな。この地は良いわ。海と山と森で敵国に面してないし」
まず戦争なんて起きないだろう。
「私も老後はここに来ようかなー」
先の話だなー……
「とりあえず、今週はリートでゆっくりしろよ。釣りでもするか? 俺は仕事だが、釣竿を貸してやるぞ。めっちゃ釣れる」
「釣りかー。子供の頃、川でやって以来だね。でも、今日はちょっと無理かな。これから空港に行くんだ」
空港?
「どこか行くのか?」
「ううん。なんかよくわからないけど、ゾフィーちゃんが来るんだってさ。昨日、ホテルに電話があったんだよ。だから迎えにいく」
は?
「ゾフィー? ウチのゾフィーか?」
「うん。妹弟子のゾフィー・アイスラーちゃん」
一門の会いたくない奴トップ2のハイデマリー、ゾフィーが揃っちゃったよ。
俺、何かしたかな?
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