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第148話 以前の俺ならどうだっただろうか?


「では、マルティナさん、次にこの銅鉱石から銅を抽出してみてください。もちろん、すべてを抽出していては時間が足りませんし、少しで構いません」


 ハイデマリーがそう言って、銅鉱石を取り出し、テーブルに置く。


「え? こ、これをですか?」

「はい。わたくしはこの銅鉱石から銅を抽出しろと言いました」

「えーっと……薬の授業ですよね?」

「はい。薬の授業です。どうぞ」


 ハイデマリーがまったく笑っていない目で笑い、マルティナに勧めた。


「や、やってみます」


 マルティナは銅鉱石に手をかざす。


「ジーク、お茶のお代わり」

「エーリカー」

「はいはーい」


 エーリカを呼ぶと、すぐにエーリカがやってきて、ハイデマリーのコップを持っていった。


「お前に頼んだのにあの娘?」

「エーリカは上手なんだよ」

「もう完全に嫁ムーブね。呆れる」

「エーリカは優しいんだよ」


 そう言っていると、すぐにエーリカがお茶を持って戻ってくる。


「どうぞー」

「はい、どうも」


 ハイデマリーがお茶を一口飲み、お菓子を食べ始めた。


「テレーゼにも持って帰ってやれ」


 甘いものでも食べて、癒されてくれ。


「そうする……さて、マルティナさん、もういいわよ」

「え?」


 ハイデマリーの言葉にマルティナが驚いたように顔を上げる。


「もういいわ。十分にわかったから」

「で、でも、まだ何も……」

「ええ。何もできていないってことがわかれば十分だから」


 もうちょっと待ってやれよ……

 まあ、俺も10秒でこいつができないってわかったけど。


「す、すみません……」

「謝る必要はありません。あなたはまだ学生ですし、当然です」


 俺はできたけどな。


「マルティナ、落ち込むことはない。できなくて当然だし、あそこにいる9級、8級のお姉さん達もできなかった。それが当たり前だ」


 俺はできたけどな。


「わ、私、鉱物系は得意じゃなくて……」

「うんうん。わかるわ。誰にだって得意不得意はあるもの」


 ハイデマリーが笑顔で頷く。


「で、ですよね」

「当然よ。で? その不得意分野をどうしたいの?」


 ハイデマリーが真顔になった。


「え? そ、その、私は薬を作りたいと思ってまして……」


 マルティナはハイデマリーから目を逸らしながらおずおずと口を開く。


「薬専門の錬金術師でしたね……」

「そうです!」


 マルティナが正面を向いた。


「無理ね」

「え?」

「むーり。まずもって10級に受からないから錬金術師になれない」


 さすがはハイデマリー。

 俺が思っていても口に出さなかったことを平気で言う。


「で、でも、10級くらいなら……」


 わーお!


「くらい? 毎年、何千人も落ち、わたくしが毎日寄り添って教え、寝る間を惜しんで勉強してきた弟子達ですら平気で落ちる試験をくらい?」


 まあ、それが国家錬金術師だ。

 あの若さで受かった3人娘ははっきり言えば、それだけでエリートなのだ。


「す、すみません……言葉を間違えました」

「ハイデマリー、学生ではよくあることだ」


 一応、庇っておこう。

 俺自身もくらいって思ってたしな。

 まあ、事実としてくらいだったけど。


「まあいいでしょう。しかし、くらいと言うのなら受ければいいでしょうに」

「まだ学生ですし……」

「ジーク。お前は在学中に取りましたよね?」

「5級までな」


 本当はもっと取れたけど、魔術師資格の方を取っていた。


「ご、5級!?」

「そういう人間もいます。わたくしも8級まで取りました」


 クリスは7級だぞー……


「す、すごい……」

「わたくし達のことはどうでもいいです。環境のおかげもありましたし、良い師に巡り合えたこともあります」


 ハイデマリーは本部長のことだけは尊敬している。

 だからリスペクトで魔女っぽいのだ。


「は、はい……」

「話を戻します。マルティナさん。あなたは何故、苦手分野を放置するのか……理由は容易に想像ができます。薬を作るのに鉱物は関係ない。物理学なんか覚えても意味がない」


 そうだろうなー。


「そ、それは……」

「何も知らないし、何も調べていないあなたに教えてあげましょう。薬を作るのにも鉱物の知識は必要ですし、物理学も必要です。それを学んでいない錬金術師など、この世にいません」


 いないね。

 少なくとも、国家錬金術師にはいない。


「で、でも、薬ですよ?」

「鉱物から得られる成分が薬の材料になることもありますし、触媒として効果を上げられることもあります。また、物理学は万物に関わる学問であり、基礎と呼ぶのすらもおこがましい自然現象です。これを学んでいない錬金術師など歩けない人間と同義」


 薬が好きでステンレス鋼に飽きたって言ってるレオノーラー、聞いてるかー?


「すみません……」


 マルティナがガクッと落ち込む。


「謝る必要はありません。無知は恥でもないですし、当然のことです。偉そうにしゃべっているわたくしだって、法律のこと、芸術、戦争、政治……この辺りはまったくの無知と言えるでしょうし、知らないことの方が多いです。ですが、人生は学びです。毎日、学んでいけばいいことなのです」


 良いことを言ってるが、法律のことは知っておけ。


「学び……」

「そうです。さて、マルティナさん。あなたは何故、薬専門の錬金術師になりたいんですか?」


 なんか帰りたくなってきたな。


「実家が薬屋なんです。でも、昨年、お爺ちゃんが亡くなって、今はお母さんがやっています。でも、お母さんは専門の人じゃないですし、何とかしなくちゃと思って……」

「専門の人じゃない? お母さんは薬剤師の免許は?」


 もちろん、薬師にも資格はある。


「持ってないです」

「じゃあ、あなたが気にする必要はありません。すぐに潰れますから」


 ゾフィー……ゴミカスマリーで合ってたわ。


お読み頂き、ありがとうございます。

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また現在、本作の1巻が予約受付中なのでそちらの方もよろしくお願いします!

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