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第146話 ハイデマリー


「まあいいわ。お前らも食べるか? 結構な量があるんだよ」

「せっかくなのでいただきましょう」

「そうだね……」


 2人を連れて、3人娘のところに戻ると、椅子を用意し、座らせた。


「ハイデマリー、こいつらがリート支部のエーリカ、レオノーラ、アデーレだ。アデーレは知ってるな?」


 顔だけ呼ばわりしていたらしいし。


「ええ、そうですね。エーリカさん、レオノーラさん、本部の薬品生成チームのハイデマリーです」

「はじめまして、エーリカです」

「どうもー」


 3人が頭を下げ合い、自己紹介する。


「それでハイデマリーはわかるんだけど、なんでテレーゼがいるんだ?」


 そこが気になっていた。


「なんか連れてこられた」

「は?」


 どういうこと?


「本部長にリートに行ってくるって報告したんですよ。そうしたらテレーゼを連れていけって言われたんですの」


 あー……もしかして、俺が休ませろってリーゼロッテに言ったからか。

 本当に本部長に報告したんだ。


「テレーゼ、休め。ほら、肉食え」

「仕事が溜まっているんだけどな……」


 テレーゼはそうつぶやきつつ、肉を食べる。


「美味しいね……あれ? ジーク君との生活の差を思うと涙が……」


 肉を食って泣いちゃった……


「お前、休まないと逆に効率が落ちるぞ」

「そうですよ。ただでさえ、体力も精神力もないのに頑張りすぎです。本当に過労死しますよ?」


 さすがのハイデマリーもドン引きしている。


「戦争がー……人はなんで争うのかー……」


 もう手遅れかもしれない……


「ハイデマリー、こいつを休ませろ」


 ダメだこれ。


「そうします。ほら、テレーゼ、食べなさい」


 ハイデマリーが勧めると、テレーゼは泣きながら肉を頬張り、俺のウィスキーのロックをイッキ飲みした。


「お前は食ってろ……ハイデマリー、早かったな。明日かと思ってた」

「明日だったらテレーゼが仕事に行っちゃうでしょ。今朝も休日出勤しようとしたテレーゼを捕まえて無理やり連れてきたんですよ」


 休日出勤……

 こいつ、いつから休んでいないんだろう?


「よくやったと言わざるを得ないな」

「まあね……自分でもそう思います」


 俺とハイデマリーはドン引きしている3人娘に見つめられながら肉を食べるテレーゼを見た。


「まあいい。お前も何か飲むか?」


 ウィスキーがなくなってしまった。


「わたくしはワインを」

「あ、取ってきます」


 エーリカが立ち上がり、アパートの方に向かう。


「俺、ロックなー。あと、テレーゼ用の水を持ってきてくれー」

「はーい」


 エーリカは返事をし、自分の部屋に入っていった。


「よく働く子ね。本当にいいご身分だわ、あなた」


 まだ言うか。


「ほっとけ。気遣いができる子なんだよ」

「ふーん……」


 ハイデマリーは足を組み、アデーレとレオノーラをじーっと見る。


「何だよ?」


 そんなぶしつけな目で見るな。


「あなたの弟子?」

「そうだが?」

「なるほど……」


 ハイデマリーがフッと笑った。


「何が言いたい?」

「言いたいことはすでに言いましてよ? それよりも確かに良いところですね、ここ。飛空艇から見ましたけど、自然も多いし、思ってたよりずっと都会です」

「だろ?」

「当分、ここでバカンスを楽しむことにしましょう」


 バカンスねー……


「なあ、本当にひと月も休んで大丈夫か?」

「実際は3週間程度でしょうね。ちょっと考えたいことがあるんですの。それぐらいの期間ならばわたくしの弟子達で十分に対処できますし、そうなるように普段から鍛えてきました」

「ふーん……」


 まあ、こいつがそう言うならそうなんだろうな。


「お持ちしましたー」


 エーリカが戻ってきて、テーブルに持ってきたものを置き、グラスにワインを注ぐ。


「どうぞ、ハイデマリーさん」

「どうも」


 ハイデマリーはワインを受け取ると、口につける。

 そして、エーリカが空いたグラスに氷を入れ、ウィスキーを注いだ。


「ジークさんもどうぞ」

「悪いな」

「テレーゼさん、ここに水を置いておきますからね」

「あひがほー」


 まだ食うか、こいつ……


 テレーゼに呆れながらもウィスキーを飲む。


「ジーク、ここでの生活は楽しいですか?」

「見ればわかるだろ」


 お前らの言ういいご身分だ。


「そうですか……ふむふむ」


 ハイデマリーが何かを考えだした


「どうした?」

「いえ……それよりもあなたが言っていたわたくしよりも魔力が上という天才とやらは?」


 それを忘れてはいけない。

 わざわざこいつに電話してまで呼んだのはマルティナのことだ。


「そいつはおらん。職場の人間ではなく、学生なんだ」

「学生……女生徒ですか?」

「ああ。マルティナ・キルシュ。この町の薬屋の娘だ」

「ほう……薬屋ですか。歳は?」


 弟子候補なら年齢を気にする。

 年寄りを弟子にしてもしょうがないからだ。


「高等部の2年だから16、7だな」

「若い……しかし、あなたが弟子にしない理由がわかりませんね。いや、そもそもあなたが弟子を取ったこと自体が驚きなんですけどね。自分の好みの女じゃなかったんですか?」


 なんで好みが出てくる?

 あ、いや、リーゼロッテが笑ってたやつか……


「そこは関係ない。単純に魔力が素晴らしかろうが、バカは弟子にしたくないだけだ」

「バカ? あなたのその判定基準は高すぎるので参考になりませんね。自分以外はバカと思っているでしょ」


 そんなこと……あるけども。


「程度の話だ。3人娘だって全員、俺より成績は低いんだろうが、バカではないし、むしろ賢いと思う」


 マルティナを見ていると、それを強く再認識した。


「そうですかね?」

「褒め上手になったもんだね」

「どうせあの本じゃない?」


 ナンパ本邪魔だなー……

 相手にも読まれてるから効果がないどころか逆効果だわ。


「はいはい。王様とその女共のいちゃつきなんかを見にわざわざここまで来たんじゃないわよ。そのマルティナとやらはどんなバカなんですの?」

「ほれ」


 ハイデマリーにマルティナの成績表を渡す。


「あらまあ……」


 ハイデマリーが苦笑いを浮かべた。


「な? ひどいだろ?」

「かつて、50点以下を取るバカは学校を退学にすべきと思っていたことがありましたが、それよりもさらに下ですか……」


 まあ、それは何とも……


「でも、化学は良いんだ」

「ですね。薬を作るのに物理なんかいらないという浅はかな考えでしょうね。実に子供らしい」


 数学の公式なんて社会では使わないと勉強を嫌がる子もいるが、そもそも知識というのは9割以上が使わないのだ。

 しかし、知識というのは並列させるものではなく、積み重ねていくものである。

 それで大事になるのが基礎であり、そこを頑丈にしなかったら簡単に崩れ落ちるもろい人間になってしまう。

 だからこそ、基礎を大事にし、勉強するのだ。


「どう思う?」

「本人を見ないとわかりません」


 まあ、そうだな。


「明日の夕方にはウチの支部に来ると思う」

「わかりました。そのくらいに行きますので会わせてください。話はそれからです」

「頼むわ」

「ええ……しかし、美味しい肉ですね」


 ホントにな。


「お前、どこに泊まるんだ?」

「テレーゼとサイドホテルですね」


 やっぱりそこか。

 バカンスって言ってたしな。


「来週末は外で食べた方がいいぞ。その日は人が多いらしい」

「へー……わかりました」


 よし、これでアデーレとサイドホテルに行く日にこいつらと鉢合わせることがなくなったぞ。



お読み頂き、ありがとうございます。

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また現在、本作の1巻が予約受付中なのでそちらの方もよろしくお願いします!

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面白い。
今のところハイデマリーはまともそうに思える。ちょっと辛辣な部分はある様だけど。 あの本のせいで誉め言葉を素直に受け取ってくれないw 週末のホテルでどんなふうにウォッチングされるんだろう?www
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