第145話 ジーク王
週末の夜も4人で過ごし、翌日の休みの日は朝から本屋に出かけた。
「何を買うんですー?」
本屋で本を物色していると、ヘレンが聞いてくる。
「【職場での人間関係 ~上司編~】だな」
「ああ、例のシリーズですか……あります?」
「ないな。この前はあったんだが……」
買っておけば良かったな……
「店員さんに聞いてみましょう」
そうするか。
「なあ、【職場での人間関係 ~上司編~】ってあるか? この前はあったんだが……」
受付に行くと、馴染みの店主に声をかけた。
「申し訳ございません。その本は切らしております。実はシリーズの中でも一番の人気なんですよ」
上司との関係に悩んでいる人間が多いんだな。
「そうか……」
「もし、良かったら新作をどうですか?」
新作?
「シリーズのか?」
「ええ、こちらです」
店主が本を見せてくれる。
「ほう? 複数の女性と付き…………いや、これはいいや」
「さようですか? これも王都では人気らしいんですけどね」
へー……こんなのが?
「子供と話せる本はないか? どうも怖がられているんだ」
「でしたらこちらがよろしいのでは?」
店主が本を見せてくれる。
「子供との接し方……こういう本もあるんだな」
「ええ、もちろんですよ」
これ、いいかもな。
「じゃあ、これをくれ」
「承知いたしました」
本を購入すると、店を出て、アパートに帰る。
すると、アパートの前の広場でレオノーラとアデーレがレンガを積んでいた。
「何してんだ、お前ら?」
腰を下ろしてしゃがんでいる2人に声をかける。
「あ、帰ってきた」
「おかえりなさい」
2人がこちらを振り向く。
「ただいま。んー? またバーベキューか?」
三方を囲むようにレンガを積んでおり、練炭も置いてある。
「そうそう。実はさっき支部長が来て、知り合いからお肉をもらったけど、量が多いからお前らにやるって分けてもらったんだよ」
「高いやつね」
すごいな。
「そんなものをもらえるんだな」
「言いづらいけど貴族だし」
「支部長は特に付き合いも多いだろうしね」
確かにそんなイメージはあるな。
「まあ、役得か」
「そうそう。今、エーリカが下ごしらえをしてくれてるから昼はこれね」
「ジークさん、鍵貸して」
飲む気か……
「昼間っから?」
「バーベキューってそんなものじゃない? 休みだし、別にいいでしょ」
まあ、こいつらはたしなむ程度だしな。
「俺のも頼むわ」
そう言って、アデーレに鍵を渡す。
「はいはい」
アデーレが俺の部屋に入っていったのでレオノーラを手伝う。
そして、しばらくすると、下ごしらえを終えたエーリカと酒を持ったアデーレがやってきた。
「なんかすごい肉だな」
霜降りも見え、高級そうな牛肉だ。
「野菜もありますよー」
「そうだな……」
まあ、箸休めか……
俺達は肉や野菜を焼いていき、肉を食べる。
「おー! すごいです!」
「おいひーね」
「確実にこっちに来てから食生活のレベルが上がったわ」
確かにな。
エーリカが作ってくれる料理は美味いし、地域的に食材の種類も多いので料理が多彩だ。
さらにはこういう役得もあり、リートに来て良かったと思える。
「ヘレン、美味いか?」
無言で食べることに集中しているヘレンに聞く。
「もう元の生活には戻れませーん」
いつも安いキャットフードを食べている猫が高いキャットフードの味を覚えてしまうと安いキャットフードを食べなくなるという話を思い出した。
そして、それは猫に限った話ではない。
「俺、よくパンとサプリメントだけで生きてきたな……」
バカかな?
「サプリメントはサプリメントで良いですけどね。なんか体調が良くなった気がしますし」
「肌艶も良いよね」
「私は寝つきが良くなった…………いや、普段の話ね」
まあ、効いているのならいいわ。
「しかし、美味いなー……ヘレン、キャベツ食べるか?」
「すみません。私、肉食動物なんです」
お前、何でも食べるじゃん……
俺達は肉に舌鼓を打ち、たまに野菜を食べながら酒を飲んだ。
「ジークさん、ジークさん」
隣にいるアデーレが肩を叩いてきた。
「何だ? たまねぎ食べるか?」
「いらない……じゃなくて、あれ」
アデーレが支部の方を指差したので見てみると、そこには2人の女性が立っていた。
1人は膝までありそうな長い黒髪の女だ。
そして、もう1人は……
「あれ? テレーゼさんじゃないですか」
「ホントだ。テレーゼさんだ」
エーリカとレオノーラも気付く。
「もう1人はハイデマリーさんよね?」
アデーレが聞いてくるが、どう見てもあの長い髪はハイデマリーだ。
「何してんだ、あいつら?」
2人はこちらを見ているが、近づこうとしてこない。
「さあ?」
「ちょっと待ってろ」
立ち上がると、2人のもとに行く。
「よう」
「どうも」
「ジーク君、久しぶり……」
挨拶をすると、挨拶を返してくる。
しかし、見ているのはバーベキューの方だ。
「何?」
「いやー、話には聞いてましたけど、いいご身分ですね、あなた」
「昼間からバーベキューでお酒ですか……」
別にいいだろ。
「ウチの支部長に肉をもらったんだよ」
「それにしてもねー……女を侍らせ、肉と酒……酒池肉林じゃないの」
「ごめんね。いいご身分という言葉しか思い浮かばない」
いや、そんなに引くか?
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