第143話 3回目のサイドホテルへ
ハイデマリーとの電話を終えた後も作業を続け、この日も夕方にマルティナが訪ねてきたのでエーリカの指導の下でポーションを作らせてみた。
できたのはランクもつけられないような粗悪品だったが、それでも一発で作れたのはすごいと思う。
「これ、もらってもいいですか?」
マルティナが自分で作ったポーションをじーっと見ながら聞いてくる。
「いいぞ。売り物にはならんが、お前が初めて作ったものだ。大事にしろ」
「はいっ!」
まあ、誰だって嬉しいものだろう。
俺は前すぎて、もう何を作ったのかすら覚えてないがな。
「マルティナ、来週も来るか?」
「はい。家の手伝いもあるので毎日は来れませんが」
「ああ。そっちを優先しろ。それでな、来週、王都から薬を専門にしている錬金術師が出張で来るんだが、会ってみるか?」
偽出張だけど。
「そうなんですか? 会ってみたいです!」
「わかった。でも、これだけは言っておくが、そいつはちょっとだけ過激だから多少の暴言は流してくれ。悪い奴では……悪い奴なんだ」
ダメだ、庇えない。
「ハ、ハァ?」
「腕は確かだ。本部の薬品生成チームのリーダーで4級国家錬金術師になる」
「よ、4級!? すごいです!」
あれ? 俺、3級……
「話を聞くだけでも勉強になるだろう」
「わかりました! 絶対に来ます!」
「ん。じゃあ、今日は終わりだ」
「はい! ありがとうございました!」
マルティナは一礼すると、立ち上がり、帰っていった。
「来週からはハイデマリーさんに任せるんですね?」
「ハイデマリーがどういう判断をするかによるがそうなるな」
「わかりました。では、来週ですね。アデーレさん、帰りましょうか」
エーリカがアデーレを誘う。
「そうね。では、楽しんでらっしゃい」
アデーレはそう言って、レオノーラの背中に触れ、立ち上がった。
そして、エーリカと共に帰っていく。
「多分、来週も言うと思うんだが、一緒に帰ればいいだろ……」
「いいじゃないかー。惰性の愛はつまらないよ?」
言わないけど、俺は3回同じ場所に行くんだからな。
「まあいい。帰ろう」
「はいはーい」
俺達は戸締りをし、支部を出ると、裏に回り、アパートの前で立ち止まる。
「じゃあ、6時半にここな」
「いや、時間がかかるのは私だろうし、準備ができたら訪ねるよ」
あー、確かにそれがいいか。
「わかった。待ってる」
「うん」
レオノーラが頷いて階段を昇っていったので俺も部屋に入り、一息ついた。
「サイドホテルか……ホテルマンの目が怖いな」
数日前にエーリカと行ったばかりだ。
「向こうもプロですよ」
もちろん、何も言ってこないと思うが、ちょっと気になってしまう。
「まあいいか」
「そうですよ。お気になさらずに楽しんでください」
「はいはい」
俺達はそのままレオノーラが来るのを待つ。
そして、6時半前になると、チャイムが鳴った。
「来たか」
「褒めましょうね」
「わかってるよ」
立ち上がると、玄関に行き、扉を開ける。
すると、そこには当然、レオノーラがいたのだが、いつもとかなり違う。
というのも、いつもの魔女っ子ではなく、黒っぽい薄着のドレス姿であり、当然、帽子も被っていない。
長い金髪も纏めており、背が低いものの子供には見えなかった。
「どうしたの? 似合ってない?」
レオノーラが首を傾げる。
「いいや。例のナンパ本じゃないが、大人っぽくて良いと思うぞ」
ナンパ本の褒め方の例文にそう書いてあるのだ。
「初めてあの本が邪魔だなって思ったよ」
「まあな。普段が普段だからお前が一番見違えて見えるわ」
「そうかい? まあ、たまにはね。行こうか」
レオノーラが満足そうに笑った。
「表に車を用意しているが、そこまでエスコートはいるか?」
「嬉しいね」
レオノーラが手を差し出してきたのでエスコートしながら表に回り、車に乗り込む。
「明日は休みとはいえ、そんなに飲むなよ」
「飲まないよ。ワインを1杯だけにするから残りはジーク君が飲んでね」
レオノーラはいつも飲む時は2、3杯飲む。
潰れるなって思う時は5杯目になった時。
「まあ、飲めないこともないな。俺は酔わないし」
「ジーク君、全然変わらないもんね」
「元々、そんなに裏表がないからな。気遣いができなくなって辛辣なことを言うくらいだろう」
「そんなこともないけどねー……」
どうかな?
この前、アデーレを2、3回泣かしたわ。
ほぼ勝手に泣いてたんだけど。
「レオノーラ、鑑定士の資格試験の方はどうだ?」
「順調だね。この前の9級試験よりかは楽かな」
鑑定士も難しい試験だが、さすがに国家錬金術師試験の方が難しい。
「王都のレストランかー……」
「良いじゃん。というかさ、エーリカやアデーレは受けなくてもいいの?」
エーリカとアデーレか……
「俺はできないことをやれとは言わないんだ」
「あの2人はできない?」
「できないことはない。だが、現状、鑑定士はそこまで必須じゃない。俺とお前がいれば十分なんだ」
鑑定士の資格があるとないとではスピードに差がつくからあった方がいいのは確かだ。
でも、今のリート支部においてはそこまでスピードを要求されるような依頼はないし、緊急依頼以外でそういう仕事を受ける気もない。
「いずれは取らせるつもりではいるの?」
「それはあの2人次第だな」
レオノーラまで含めて、どこまで伸びるか……
こればっかりは本人達にしかわからない。
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