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第142話 基本的にインドア


「さて、ハイデマリーか」


 テレーゼに教えてもらった番号で電話をかける。

 もしかしたらもうバカンスに行ったのかもしれないなと思いながら呼び出し音を聞く。


「出てほしいような、出てきてほしくないような……」


 微妙だなーと思いながら待っていると、呼び出し音がやんだ。


『誰?』


 不機嫌そうな女性の声が聞こえてくる。


「ハイデマリーか? ジークヴァルトだ」

『はい? え? ジーク? 左遷の?』


 左遷のジークってひどいあだ名だな。


「そうだ」

『え? 電話番号知ってたっけ?』

「テレーゼに聞いた。ちょっと話があってな」

『ふーん……何の用かしら? わたくしは忙しいのですけど』


 休んでるくせに。


「バカンスか? 弟子達も誘ってやれよ」

『皆が休んだら回らなくなるでしょ。ちゃんとあの子達でも回せるところまではやってます。これはあの子達の成長を促すためでもあるのです』


 嘘くせ。


「忙しいのか?」

『そのテレーゼほどではないですけどね。北の戦争のせいでポーションの需要が高まってます』


 必須だもんな。

 とはいえ、ポーションはどこでも作ってるから休める程度には余裕があるって感じか。


「まあ、頑張ってくれ」

『そうします……ジーク? そんなことを言うためにわざわざ電話してきたんですの?』


 そんなわけないだろ。


「バカンスに行くって言ってたな? どこに行くのか決めたのか?」

『西の海か北の避暑地ですかね?』


 まだそんなに暑くないだろ。


「リートが良いぞ。海も森も川もある。それでいてそんなに田舎じゃないし、過ごしやすい」

『リートねぇ……確かに雑誌にも載ってますね』


 ペラペラと紙をめくる音が聞こえてくる。


「海とか本当に綺麗だな。普段の激務や弟子の面倒なんかで疲れた心が洗われるぞ」

『ふーん……まあ、悪くはないですわね』

「だろ? ちょっと来い。見て欲しい人間がいる」

『それが狙いですか……しかし、人間? 誰よ? あんたの自慢の女?』


 たとえ、自慢の女がいたとしてもお前に見て欲しいとは思わん。


「違う。かなりの逸材を見つけたんだよ」

『逸材ねー……たまにそういう話を聞くこともありますけど、実際に見ると、たいしたことなかったり、ただの勉強ができるだけのボンクラだったりするんですよねー……』


 まあ、そういうこともあるだろう。

 推薦する人も色眼鏡で見ることが多いし。


「魔力が突出しているし、質も良い。お前やクリスより上だな」

『へー……それはすごい。天才じゃないの』

「俺以下だけどな」

『左遷野郎』


 ハイデマリーがご機嫌に笑う。

 どうやら休みだから相当、機嫌が良いみたいだ。


「とにかく、バカンスついでに見てくれよ。正直、俺の手には余る」


 バカだし。


『弟子を取ったんでしょー。テレーゼに聞きましてよ?』

「3人で精一杯なんだよ」

『リーゼロッテが自分の女を弟子にしてるだけって笑ってましたわね』


 つまりテレーゼもそう思っているわけだ。


「何でもいいわ。リートなら偽出張で来れるだろ。旅費がかからんぞ」

『それ、いいですわね。リート支部からの要請があったということにします』

「そうしろ。じゃあ、頼むわ。いつ来る?」

『来週。海なら水着とかの準備がいります』


 水着?


「こっちもさすがに海に入れるほど暑くはないぞ」


 まだ春だし、さすがに海は冷たい。


『ハァ? 海に行って、海に入るわけないじゃないの』


 え? 俺が間違ってんの?

 海って泳ぐために行くんじゃないの?


「じゃあ、何のための水着なんだ?」

『浜を彩るためよ』


 わからない……


「そうか……あ、そうだ。3級試験はどう、だった…………切れた」


 ガチャ切りがウチの流儀なのかね?


 電話を終えた俺は席に戻った。


「どうでしたー?」


 エーリカが作業をしながら聞いてくる。


「来週、バカンスをしにリートに来るってさ」

「おー、バカンスですか。良いですねー。おすすめは海と西にある山の登山ですね」


 登山……

 絶対にハイデマリーはせんな。


「なあ、海で水着になって泳がないってあるか?」

「海? うーん……寒いですし、そういうこともあるんじゃないですか? 私も何回か海に行ったことありますけど、水際でパチャパチャしてただけですね。泳げませんので」


 あー、なるほど。


「泳げないんだ? 海の地方出身なのに」

「運動神経が良くないんですよねー」


 50メートル12秒だもんな。


「私も港町の生まれだけど泳げないよー」


 知ってる。

 貴族令嬢の15秒さんが泳げるとは思えんし。


「私もね。そもそも山ばっかりで川しかなかったし、川で泳ぐのは危ないのよ」


 なんとなくだけど、アデーレもそうなんだろうなとは思っていた。


「全員、泳げないわけか」

「そういうジークさんは?」

「泳げるわけないだろ」


 全員は自分も含んでいる。


「もし、4人で海に行って、誰かが溺れても誰も助けられないわけね……」

「海は見るもんだ」

「あと釣りー」

「砂浜でお城を作るのも楽しいですよ? 錬金術で素晴らしいお城を作れます」


 楽しみ方は人それぞれだな。

 だからハイデマリーの言っていたこともそういうことなんだろう。


「ちなみに、西にある山の登山とやらはしたことあるのか?」

「ないです」

「山は疲れるよ」

「こう言ってはなんだけど、山って嫌い」


 アデーレは故郷をディスるな。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

本作ですが、発売日が5/10に決定し、現在、予約受付中です。

改稿、加筆も行って本作の魅力をさらに引き出し、web版を読んでいる方も楽しんでいただける内容となっておりますのでぜひともお手に取ってもらえると幸いです。(↓にリンクあり)


これからもよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
嫌いあってても必要な時はちゃんと話し合えるのはちゃんと姉弟弟子してていいな
ジークが泳げないの意外だな 運動の方はそうでもないのか
学校の水泳の時間だけで、どれくらい泳げるようになるかは、本人次第かなあ
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