第132話 病院に行くと体調が悪くなる気がするよね?
翌日、支部に出勤すると、いつものように3人娘は先に来ていた。
そして、午前中は昨日と同じように各自が作業をし、午後になると、エーリカと出かけることにした。
「エーリカ、病院ってどこだ?」
「あっちですね。行きましょう」
俺達は支部を出ると、街中を歩いていく。
「エーリカ、お母さんと話をするわけだけど、こちらはあくまでも頼まれればというスタンスでいこう」
「んー? どうしてです?」
「マルティナが代々薬屋を営んでいると言っていただろう? 要は老舗だ。プライドが高かったりするし、歴史があるからそれを否定するようなことを言うと、トラブルになる」
民間はそういうのがあるからめんどくさい。
「なるほど……まずはお母さんの意思を尊重した方がいいわけですね」
「ああ。マルティナは所詮、親の金で学校に通わせている子供にすぎん。どれだけ熱意があろうと、どれだけ正しいことを言おうと、こればっかりは俺達が立ち入っていいことではないし、立ち入る必要性がない」
「確かに私達にはマルティナちゃんの人生を背負う責任も権利もないですからね」
俺は3人娘の錬金術人生の責任を負わないといけない。
師弟関係というのはそういうものであり、弟子が生活に困れば面倒を見ないといけないのだ
実際、俺自身がそうだった。
孤児だった俺は師である本部長に生活を保障してもらい、学校にも通わせてもらっていた。
だから頭が上がらないし、恩に報いなければならない。
そして、師となった今、もし、3人娘に何かがあり、生活に困るようなことになったら俺が面倒を見ないといけないし、当然、その覚悟もある。
だが、俺達とマルティナにはそういう関係性がないのだ。
「そういうスタンスでいく。頼むぞ」
「あ、私が話すんですね」
「お前が一番だ」
俺はエーリカ以上に人間性に優れた人を知らない。
「ジークさんだって新聞に載って有名になるくらいには評判が良いじゃないですか」
「だからこそ、ギャップがな……」
正直、作りすぎたわ。
「大丈夫だと思いますけどねー。ジークさん、優しいですし」
これがエーリカの欠点だ。
見る目がない、善性すぎて物事を良いようにしか取らない。
「とにかく、頼むわ。苦手なんだよ」
「わかりました。でも、ジークさんもしゃべってくださいよ」
「わかってるよ。ヘレンも頼むぞ。空気が悪そうになったら猫のフリをして皆を笑顔にするんだ」
この前のマルティナのように。
「もうジーク様は大丈夫ですよ。ちゃんと言葉を選ぶようになりましたし、立派な大人です」
それが慢心を呼ぶんだ。
何故なら俺はマルティナの話を聞いただけなのにまだ会ってもいないマルティナの母親をバカだと思っているからだ。
「とにかく頼むぞ」
「はーい」
俺達は方針を決めると、そのまま歩いていった。
そして、病院の前に着くと、見上げる。
「結構大きいな」
5階建ての建物であり、王都の本部くらいはある。
「ここがリートの中央病院ですね。私も子供の頃に入院したことがあります」
「怪我か?」
「いえ、ただの食当たりです。牡蠣を食べたんですけど、当たっちゃいました」
「そらきついな」
俺も生前、1回だけ当たったことがある。
しかも、何がすごいって長い人生で牡蠣を食べたのはその1回だけということ。
どうやら俺は牡蠣にすら嫌われていたらしい。
「きつかったですね。ですので、私の家には牡蠣料理が一切出ません。食べたかったら皆さんで外食しに行ってくださいね。私は絶対に行きませんので」
こら相当、きつかったんだな。
「安心しろ。俺も行かないから2人の貴族令嬢に行ってもらおう」
「そうしましょう」
俺達は頷き合うと、病院に入り、受付に向かう。
「すみませーん」
エーリカが受付の奥にいる看護師に声をかけた。
すると、すぐに年配の女性の看護師さんがやってくる。
「はいはーい。どうしましたか?」
「私達は錬金術師協会の者なんですけど、こちらにギーゼラ・キルシュさんが入院してないでしょうか?」
マルティナのお母さんの名前ね。
「あー、錬金術師協会の人ね。そういえば、新聞で見た2人と猫ちゃんだ」
あの新聞すごいな。
皆、読んでる。
「あ、この子は使い魔ですんで」
病院に動物はダメな気がするので先に言っておく。
「魔法使いさんならそうだろうね。ギーゼラさんだっけ? ちゃんと事前に聞いてるからわかってるよ。205号室に行っておくれ」
「ありがとうございます」
205ってことは2階かな?
「あ、そうそう。あんたらってウチの仕事は受けないのかい?」
ん?
「いや、依頼があれば検討しますよ。ウチは国の機関なんでどこだろうと関係ないですからね」
そもそも依頼が役所と軍からしかないっていうのがおかしい。
「そうかい……最近は民間も高くてねー。ウチの院長が頭を抱えていたんだよ」
「それはウチが不甲斐ないせいですね。依頼なら受けられるものは受けますよ」
4人しかいないから無理なものは無理だけど。
「じゃあ、それを院長に伝えておくよ」
「よろしくお願いします」
「ああ。邪魔して悪かったね」
「いえいえ。では……」
俺達は受付を離れ、階段を昇っていった。
そして、2階に上がると、205号室を探す。
「えーっと……」
どこだ?
「あ、ジークさん、ここですよ」
エーリカが指差したネームプレートには205号室と書かれていた。
「ここか。よし……すみませーん」
俺は扉をノックし、声をかける。
『開いてますよ』
中から女性の声が聞こえてきたので扉を開け、エーリカと共に中に入った。
部屋の中はベッドが6つあったのだが、窓際の1つを除いて空であり、使われている様子がない。
そして、窓際の1つにはマルティナと同じ青みがかかった髪の女性が上半身を起こして腰かけており、窓から外を覗いていた。
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