第127話 ホテルの人、どう思うんだろ……?
3人娘は国家錬金術師試験に合格し、手を取り合って喜んでいる。
俺はそれをコーヒーを飲みながら眺めていた。
「受かりましたねー!」
「頑張った結果だよー!」
「本当に良かったわ!」
うーん……こんなに喜ぶとは……
「なんか自分が受かった時よりも嬉しいな」
「ジーク様は淡々としていましたからね」
落ちるわけないしな。
当然、祝いなんてしていないし、いつもの日常だった。
でも、3人娘の喜びが普通なんだろうし、結果を知っていたが、俺自身も嬉しいと思う。
「なあ、約束していたサイドホテルで祝おうと思うんだが、いつが空いているんだ?」
「いつも空いています!」
「いつでも大丈夫!」
「今日以外なら」
俺も今日はないわ。
「まあ、サイドホテルに電話して空きを聞いてみるわ。そろそろ仕事に入ろうぜ」
「あ、それもそうですね」
「ステンレスって何ー?」
「風魔石ってどうやるの?」
まずはそこからか。
「一人一人説明するわ。エーリカ、キュアポーションはわかるな?」
「はい。学校で習いました。毒消しのポーションですよね? でも、名前を知っているだけで作ったことはありません」
まあ、そうだろうな。
王都の魔法学校でも名前を習っただけで作り方は習わなかった。
「キュアポーションは基本的にマナポーションと作り方は一緒だ。しかし、毒消し草から成分を抽出するのが難しく、難易度的には7級になる」
「上ですね……私、9級になったばかりですよ?」
「次試験の8級相当をやるより、こっちの方が勉強になるんだ。錬金術師試験は7級までは成分の抽出、錬成の確実さなんかの基礎が評価対象になるんだよ」
なお、6級以上はエンチャントになる。
「なるほど」
「だからそれで練習してくれ。お前は錬成が上手く、確実性はあるからそっちは何もしなくても合格点に達している。あとは成分の抽出だ。どうもそっちが弱いように見えるからな」
「わかりました! やってみます!」
エーリカはそんなもんだな。
「レオノーラはステンレス鋼な」
次にレオノーラを見る。
「私はエーリカとは逆に錬成が得意じゃないから?」
「いや、得意不得意でいえば得意なんだろうが、お前はムラがある。良いものを作る時は良いんだが、ちょっと失敗する時もある。試験は一回きりだからその時に失敗してもらっても困るんだよ」
「それでステンレス鋼? ステンレス鋼って何だっけ?」
これは学校では習わないと思う。
実際、俺も習っていない。
「ステンレス鋼は鉄に別の金属を混ぜて作る特殊な合金だ。まあ、錆びにくいんだわ。高いからあまり流通はしていないが、今回は軍から依頼が来ている。何に使うかは知らんがちょうどいい」
港町だし、用途はいくらでもあるのだろう。
「高いの? 失敗しにくいなぁ……」
「そこは大丈夫。分解機が来るから何回失敗してもやり直せる。ひたすら作って練習してくれ」
今週中には抽出機と分解機も来るだろ。
「ほうほう。やりまくればいいわけだね?」
「そういうこと。次は風魔石だが……」
最後にアデーレを見る。
「私、次は7級なんだけど、エンチャントでいいの?」
エンチャントは6級からだ。
「エンチャントをやってもらうのは次を見据えてだ。お前は知識もあるし、錬金術の腕だって悪くない。足りないのは自覚しているだろうが、経験だ」
アデーレは3年間も受付をしていたため、ほぼ経験がない。
それでも独学で9級まで合格し、今回も8級に受かった。
才能がなければこんなことできない。
「その経験はどうするの?」
「前にも言っただろ。ひたすらインゴットやポーションを作れ。アデーレの場合は筆記よりもそっちを重点的にした方が良い」
「勉強会でやればいいわけ?」
俺達は夕食後、エーリカの家で勉強会をしたり、遊んでいたりする。
「仕事中の息抜きでもいいぞ。インゴットやポーションの依頼もあるし、保存が利くからいくらでも在庫はあっていい」
腐ったりダメになったりするものではないのだ。
「わかった。風魔石はどうやるの?」
「やり方は水曜石や火曜石と一緒だ」
「失敗したらどうなるのかしら?」
失敗したら火曜石は爆発し、水曜石は水が噴き出すのだ。
「風が舞う。書類の近くではやるなよ」
「え? 私だけ青空錬金術?」
それはさすがに可哀想だ。
「そこでいいだろ」
デスクからちょっと離れた位置にある応接用の対面式ソファーを指差した。
「まあ、そこなら……」
「いくらでも失敗して、俺達に涼しい風を送ってくれ」
「わかったわ」
こんなもんだな。
「じゃあ、そういうわけで買い物に行ってきてくれ。あ、レオノーラはちゃんと鑑定して良いものを買ってこいよ」
そう言って、隣のエーリカに材料の買い物リストを渡す。
「ジークさんは行かないんですか?」
「ちょっとサイドホテルに電話する」
早めに予約しておこう。
「あ、なるほど……じゃあ、行ってきますねー」
「留守番よろしくねー」
「髪が乱れそうだから櫛を取ってこようかしら?」
3人が立ち上がり、支部を出ていったため、この場には俺とヘレンが残される。
「ハァ……ヘレン、失敗はしていないか?」
「弟子を信じていた良い感じの師匠でしたよ。次は女性を喜ばせる紳士の番です」
サイドホテルね……
「どうするかねー? 3日連続はないし……」
「3週間に分けますか?」
毎週末か……
でも、お祝いは早い方が良いだろうしな……
「エーリカは飲まないから平日でもいい。レオノーラとアデーレも雰囲気を重視する奴らだから潰れることはないだろうが、飲みはするだろうな」
ワイン好きだし。
「その御二人は週末がいいかもしれませんね」
「よし、電話してみるわ」
立ち上がり、電話のところに行くと、サイドホテルに電話をかける。
その時に全員受かったのなら『全員で行けばいいのでは?』とも思ったが、雰囲気という謎の言葉が好きな貴族令嬢2人と王都で高いドレスを買ったエーリカのことを考えると、そういうことじゃないんだろうなーと思って、素直に3日分の予約を取った。
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