第126話 合格
「それで昨日、ジーク君の家に泊まったの?」
「まあ……」
「起きたらジーク君のベッドの上だったと?」
「そうね……」
エーリカの家で朝食を食べているのだが、なんかレオノーラが呆れた感じでアデーレに尋問している。
「格好は?」
「寝巻き?」
そこははっきり答えろよ。
「ふーん……勘当された私が言うのもなんだけど、親に何て言うのさ。嫁入り前のお嬢さんなのに」
「寝れなくてね……お酒を飲みまくって最後の方は記憶にない」
テーブルに突っ伏したから寝室に運んだわ。
なお、俺はソファーで寝た。
結構、寝心地良いんだなって思った。
「相変わらず、ガラスのメンタルだねぇ……」
「ジークさん、ごめんなさい」
アデーレが謝ってくる。
「俺は別にいいけどな。普通に酒を飲んでいただけだし」
「アデーレさん、そんなに飲んで大丈夫なんですか?」
エーリカが心配して聞く。
「そこは大丈夫。ジークさんに薬をもらったから」
飲んでる途中で飲ませたのだ。
「それは良かったです。ジークさんは大丈夫なんです?」
「俺も大丈夫。そもそもそんなに飲んでない」
俺はゆっくり飲むから量自体はたいしたことないのだ。
「アデーレ、ずっとジーク君と飲んでたんだけど、何か覚えてない?」
レオノーラが聞く。
「なんかヘレンさんが可愛かった記憶があるわね」
ずっと抱いてたからな。
「そりゃ可愛いだろうけど……」
「あと、愛情? 愛情? 愛情って何だっけ?」
悲しきモンスターみたいなことを言っているな。
俺じゃないんだから。
「例の本だよ。隣に座ってただろ」
「あ、そう、それ。あとは…………あれ? 私、泣いた?」
「どうせ落ちるんだーって泣いてたな」
受かっていることを知っている俺は何て声をかければいいかわからんかった。
「君、子供の頃から全然、変わってないね……」
「前日の夜はそうなっちゃうのよ。暗くなると、暗いことを考えちゃう。特に一人だとそうなるの」
「もう大丈夫なの?」
「当日はね。もう大丈夫。落ちても仕方がないと割り切れるわ」
このメンタルの変化はわからんなー。
「レオノーラは寝たのか?」
「普通にね。いつも通りの時間に寝たよ」
こいつは逆にメンタルが強いからな。
「エーリカは?」
「私もちょっとドキドキしましたけど、お風呂に入ったら眠くなったのでホットミルクを飲んで寝ましたよ」
知らないけど、女子っぽい。
「アデーレ、睡眠薬でも作ってやろうか?」
「え? それ、大丈夫なやつ?」
「俺が作るんだから問題ない」
それくらいなら余裕で作れる。
「怖いわねー……でもまあ、ジークさんが作ってくれるなら大丈夫か……お願いしてもいい?」
「ああ。あんなに飲まれたら心配になるわ」
急性アル中とかあるし。
「あ、そろそろ時間ですよ。準備して行きましょう」
俺達は朝食を食べ終えたのでそれぞれの部屋に戻った。
そして、服を着替え、準備をすると、家を出る。
「あー、寝足りないな」
「3時ですもんねー。今日は早めに寝た方がいいですよ」
「そうするかな」
俺達は支部の表に出ると、中に入る。
すると、すでに3人の姿が見えたので共同アトリエ内の自席に向かった。
「おはよう」
「あ、ジークさん、支部長が呼んでましたよ」
座ろうと思ったらエーリカが教えてくれる。
「あ、そうなのか。じゃあ、行ってくるわ」
「コーヒーを淹れておきますねー」
「悪いな」
座るのをやめ、支部長室へ向かった。
そして、扉をノックする。
『入れ』
入室の許可を得たので扉を開け、中に入ると、珍しく新聞を読んでいない支部長が席についていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「お呼びということでしたが、何かありましたか?」
アウグストの家関係だろうか?
「今朝、ポストにこれが入っていた」
支部長がそう言い、3つの封筒を取り出した。
「合格通知ですかね?」
「ああ。3人に渡してやれ」
「支部長が渡した方が良くないですか?」
ウチのトップなわけだし。
「絶対にお前が渡した方がいい」
「わかりました」
支部長から封筒を受け取る。
「合格だとわかっていてもドキドキしますね」
多分、昨日のアデーレのせい。
「3人はもっとドキドキしている。早く渡してやれ」
「わかりました。失礼します」
封筒を空間魔法に収納すると、一礼し、退室した。
そして、席に戻る。
「あ、ジークさん、仕事を始めようと思うんですが、キュアポーションってどうやるんです?」
「私はステンレスって何ってところから」
「私も風魔石を知らない」
今日から新しい仕事が始まるのだ。
「それは後だ」
俺は席に座らずに3人に封筒を見せた。
「それは……」
「試験の結果ー?」
「朝一番とは……」
3人がじーっと封筒を見る。
「今から渡すから各自、確認しろ」
「ジークさんが見てくれません?」
「おねがーい」
「天命を託すわ」
面倒だなー……
「じゃあ、見ていくぞー」
まずはエーリカの分の封筒を開けて、中身を確認する。
まあ、当然だが、合格と書いてあった。
「結果を言えばいいのか?」
「他の2人のことがあるので一斉でお願いします」
あ、喜びにくいのか。
「わかった」
次にレオノーラの分を確認する。
すると、やはり合格と書いてあった。
最後にアデーレの封筒を開け、中身を確認する。
「どうでした?」
「受かってた?」
「表情が一切、変わらない……」
そりゃ知ってるもん。
「変わりもせんわ。当然の結果だ」
エーリカ、レオノーラ、アデーレの順番でデスクに合格通知を置いていく。
「おー……お? やったー!」
「受かったー! 9級だ!」
「………………」
エーリカとレオノーラが喜び、アデーレは目をこすっている。
「受かってるっての」
「やった……ジークさんを信じた私は間違ってなかった……」
そのセリフ、昨日のお前がいなかったら感動的だったかもな。
「当然の結果だろ。お前らは自分で思っているよりもずっと才能があるし、実力もある。ミスがなかったら普通に受かる」
何も問題ない。
そう、俺は信じていたのだ。
そういうスタンス。
「ジークさん、ありがとうございます!」
「一生ついていくよー!」
「持つべきものは有能な師と信頼できる友ね」
はいはい。
さて、サイドホテルを予約するか……
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!