第123話 レオノーラ「すぴー」
席に戻ると、俺も復命書を書き始めた。
「どうでした?」
エーリカが聞いてくる。
「リーダーということで主任になったわ」
「おー! おめでとうございます!」
「良かったねー」
「あなたが望んでいた出世じゃないの。お祝いでもする?」
お祝いか……
「そこまでのことじゃないからなー」
給料がちょっと上がっただけで立場は変わっていない。
「何か作りましょうかね?」
「ジーク君が好きなハンバーグでいいんじゃない?」
「あとお酒ね」
聞いてないし……
あと、ハンバーグが好きなのはレオノーラだろ。
まあ、俺も好きだけども。
俺達はその後も話をしながら復命書を書いていき、各自の仕事を行っていった。
そして、午後になったので昼食を食べる。
「色々と買いに行かないといけませんね」
「そうだな」
コップに入った水を飲みながら頷く。
お茶セットなんかも全部燃えてしまったため、水道水なのだ。
「午後から出かけるわけだけど、手分けしない?」
「それがいいかもね」
確かに4人でぞろぞろと動くのは非効率だ。
「エーリカ、買い物を頼んでもいいか?」
よくお茶を淹れてくれるのはエーリカなのだ。
「はい。任せてください」
「じゃあ、レオノーラと役所に行って、買い物もしてくれ。俺とアデーレで軍の詰所に行ってくる」
何気にアデーレは軍の詰所に行ったことがないから案内しよう。
「わかったー」
「そうしましょうか」
皆が納得したので食事を再開し、昼休憩を潰していく。
そして、午後からの勤務時間になったので支部長に声をかけ、支部を出た。
「ルーベルトさんにお土産を渡して、仕事がないかを聞けばいいんですね?」
役所の前まで来ると、エーリカが聞いてくる。
「ああ。火曜石も来週には納品できるから手は空くって言ってくれ」
「わかりました。じゃあ、行ってきます」
「ルッツ君によろしくー」
エーリカとレオノーラが役所に入っていったのでアデーレと共に軍の詰所に向かって歩き出した。
「ジークさん、ヴォルフさんと何を話したんですか?」
アデーレが聞いてくる。
しかも、何故か敬語だ。
「何って? 朝に会ったが、次は北部に行くって言ってたくらいだな。あと、勧誘したが、断られた」
「そうですか……」
え? 何、この反応?
「なんか言われたのか?」
色恋でのトラブルは勘弁だぞ。
「いや、私も朝に会ったんですが、やけにジークさんを褒めていましたんで……」
は?
「なんで?」
「さあ?」
あいつが何をしたいのかさっぱりわからんな。
「そんな褒められるようなことはしてないし、そこまでしゃべってないんだがな……」
王都に行く前と帰ってからちょっとしゃべっただけだ。
「何なんでしょうかね? 王都よりこの町の方が良いと思うとかも言っていました」
「いや、そう思うんだったら転勤してこいよって思うのは俺だけか?」
もしかして、リップサービスか?
「ですよね」
「やっぱり本部がいいのかねー? まあ、俺も本部長に転勤を言い渡された時は『リートって……』って思ったけど」
「私もあなたに誘われた時にちょっぴり思いましたね」
普通はそうだろう。
辺境の田舎っていうイメージしかないし。
「王都にいる際に色々誘ってみたけど、無理だったわ」
「マルタさんを誘ったらしいですね? 私も誘ってみましたが、無理でした」
アデーレでも無理なら本当に無理だな。
「同門共に声をかけたが、無理だったし、今は4人でやりつつ、別のアプローチをしていくしかないな」
「そうですね。まあ、4人は4人で楽しいですよ。気心が知れてますし、気楽です」
「ふーん……その頭数に俺も入っているのか?」
一応、聞いてみる。
「当たり前です。仕事中もそれ以外もほぼ一緒にいるじゃないですか」
まあ、エーリカか俺の家でたむろってるしな。
「まあなー。でも、お前ら、少しは手加減しろよ。全然、トランプに勝てないぞ」
「ババを引いたらすぐにしかめっ面になるのをやめればいいと思いますよ」
顔に出ているのか……
ポーカーフェイスが大事なんだな。
「ヘレンとしかやったことがないんでな」
「それは聞きたくなかったです。でもまあ、そうなんだろうなとは思ってました」
ヘレンは尻尾で器用にトランプを持つ。
その姿は非常に可愛いので一度見てほしいわ。
「やる奴おらんからな。なあ、アデーレ、この前、サイドホテルに行ったよな?」
「ええ、誘っていただきました」
「またそこでいいのか?」
「ん? ああ……合格したら連れていってくれるとかいうやつですか……いえ、私は別に普通の店でも構いませんよ」
この言葉は気遣いであることは経験上、わかる。
アデーレは必ず、こういうことを言う。
「いや、そういう遠慮的な話じゃないんだ。単純にまた同じところで良いのかなって思ってな。せっかくの合格祝いなんだから行きたいところに連れていきたいんだ」
金も支部長からカンパしてもらったし。
「そういうことですか……いえ、私はあそこで良いですよ。王都でも故郷でも見られない眺めですし、料理も美味しかったです。それに雰囲気が良いですね」
アデーレは雰囲気が好きだよな。
すごく抽象的で完全に理解するのは難しいが。
「じゃあ、あそこに行こうか」
「ありがとうございます。ですが、それは受かったらの話でしょう? 正直、私達の中で一番落ちている可能性が高いのは私です」
準備不足だし、何よりもアデーレが受けたのは8級だ。
当然、エーリカとレオノーラが受けた9級より難易度は高い。
でも、受かっているんだよなー……
「大丈夫、大丈夫。信じているから」
そういうスタンス。
「そうですか……では、天命を待つとしましょう。前日の夜、付き合ってくれません?」
ん?
「何かあるのか?」
「寝られそうにないのでお酒を飲みます。注いで差し上げますから付き合ってください」
ホント、メンタルが弱い奴だわ……
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