第120話 表情に出るから弱い
エーリカの部屋に行き、市場で買ってきた魚を託すと、自分の部屋に戻り、片付けや整理を行った。
そして、ゆっくりとすごしていると、レオノーラが呼びにきたのでエーリカの部屋に向かう。
部屋に入り、席についたのだが、テーブルには俺とレオノーラしか座っておらず、何故かアデーレがキッチンにいた。
「……あいつ、何してんだ?」
「……ジーク君がバカにするからでしょ」
料理をしようと思っているんだろうか?
血が嫌いで生きた魚すら触れないビビりが?
「お前は手伝わないのか?」
「私はジーク君の接待があるから」
俺を接待したいならもう少し小さくなって、黒い毛を生やせ。
そう思いながら膝の上で丸くなっている可愛いヘレンを撫でる。
「まあ、3人でキッチンは無理か」
さすがに狭いし、邪魔だろう。
「そうそう。あと地味に私の身長では届かないことはないんだけど、上手くできない」
あー、小さいもんな。
「それは仕方がないな…………ん?」
レオノーラと話していると、アデーレがこちらにやってきて、ほぼ定位置となっている隣に座った。
「おかえり」
レオノーラがアデーレを見て、頷く。
「ただいま。私もジークさんの接待の方に回るわ」
聞いていたらしい。
「どうだった?」
「新鮮な魚ね」
ギブか……
「魚がそんなに怖いか?」
いつも食べてるだろ。
「目が合う気がするのよ」
そんなこと思ったことないな……
「わかるか?」
レオノーラに確認する。
「目が合ったから何なのとしか……」
だよな。
「目が合うと食べてって言ってきますよ」
それはヘレンだけに聞こえる声だよ。
「臆病で悪かったわね」
「別に悪くはないよ。ねー?」
「そうそう。人には苦手なことが多少はあるもんだ」
正直、人の苦手な部分を見ると、ちょっと安心する。
「ふーん……あなたは…………いや、レオノーラは何が苦手なの?」
目を逸らされた……
優しいね。
「いや、私は君以上に家事ができないし、運動もできないよ」
衝撃の50メートル15秒。
「まあ、あなたはねー……」
アデーレがレオノーラをじーっと見る。
「どうせチビだよー」
「それよりもねー……」
「何の話ですかー?」
エーリカが料理を持って、やってくる。
「皆、苦手なことはあるって話。エーリカさんは苦手なことってある?」
「苦手ですか? おばけが怖いですねー」
へー……
「なんか可愛いね。私もおばけは怖いけど、そういう発想自体がなかったよ」
「私も……ジークさんはおばけ大丈夫?」
「大丈夫だな」
前世の記憶があるというよく考えたら特大のホラーを持ってるし。
「ジークさんは強いんですねー」
そもそもこの歳でおばけを怖いとは思わない気がする。
「そうでもないだろ。それよりも食事にしよう。久しぶりの魚料理だ」
「1週間ぶりですけど、久しぶりに感じますねー」
「いい匂いだねぇ……」
「うーん……調理後は普通なんだけどなー……」
俺達はエーリカが作ってくれた魚料理を満喫しながら王都の思い出なんかを話していった。
「ジークさん、明日から仕事を再開ということでいいですか?」
話がひと段落つくと、エーリカが聞いてくる。
「そうだな。でも、今日帰ってきたばかりだし、明日は休むってのもありだと思うぞ」
「私は大丈夫です」
「私も。それに新しい支部が気になる」
「どうしても気になっちゃうわよね」
まあ、それは俺もわからないでもない。
新築だし。
「じゃあ、明日からだ。俺が火曜石を作っていくからお前達は本部長からもらった魔力草で回復軟膏を作ってくれ」
「わかりました!」
「アデーレ、頼むよ」
「ええ。あなた達ならすぐに作れるようになるわ。ジークさん、抽出機と分解機はまだなのよね?」
後で送ってくれるって言っていたが……
「うーん、早くて1週間後か? くれるって言っても機械の調整や申請なんかもいるだろうしな。マナの抽出は手作業でやってくれ」
「わかったわ。とりあえずの仕事はその2つよね?」
「そうだなー……明日、帰ってきた挨拶回りでも行くか。お土産も渡さないといけないし」
賞味期限もあるし、早めに渡したい。
そのついでに仕事がないか聞くか。
「良いと思います」
「支部長への報告もあるし、午後から回ろうよ」
「それが良いと思うわ。それと魔力草のことをルッツさんに報告しないといけないわね」
あ、それもあったな。
これは話に行かないとマズいわ。
「明日は新しい支部だし、仕事というよりそっち方面だな」
「そうしましょう」
「あ、エーリカは家族にお土産を渡したのか?」
「はい。試験の手応えや王都のことを話しに行ったついでに渡しました」
手応えね。
親に言うくらいだし、やはり自信はあるんだろうな。
まあ、3人共、受かっているんだけどさ。
しかし、どうしようかねー?
この前、本部長が試験の結果を知っていたから受かった報告されても反応に困ったと言っていたが、俺もそうなりそうで上手く喜べる自信がない。
うーん……よし! 合格を信じて疑わなかったというスタンスでいこう!
「エーリカ、実際のところ、試験の手応えはどんな感じだ?」
「うーん……難しいとは思いましたが、10級を受けた時よりかは余裕がありましたね。ジークさんのおかげです」
「そうか。レオノーラは聞いたし、アデーレは?」
自信持ってくれ。
お前も受かってるんだぞ。
「そうねー……王都でも言ったけど、筆記の方はまず大丈夫だと思うわ。実技がどうだろ……?」
「じゃあ、大丈夫だ。あれだけ練習したし、明確な失敗がなかったのなら受かってるだろ」
「そ、そうかしら?」
そうなんだよ。
「アデーレは経験がないってことだったが、覚えが早いし、一つ一つが丁寧だ。試験で評価されやすいのはそういうところだし、大丈夫だと思うぞ」
「あ、ありがとう……」
よし、これで合格を信じて疑わなかったというスタンスができた。
「合格発表は来週でしたね……なんかドキドキしてきました」
「大丈夫、大丈夫。それよりもエーリカ、ウィスキーのロックをくれ」
魚を食べていたらなんか飲みたくなってきた。
「わかりましたー」
エーリカがキッチンの方に行き、ウィスキーのロックを作ってくれる。
「ジーク君、ご飯を食べ終わったらトランプしようよ」
「いいわね。しましょうよ」
「はい、ジークさん。トランプですか? いいですねー」
エーリカがウィスキーのロックをテーブルに置いてくれた。
どうやらやらないといけないらしい。
楽しいとは思うんだが、こいつら、強いんだよなー……
よし、ヘレン、こいつらの後ろに回れ!
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