第119話 帰ってきた
王都での仕事と3人娘の9級と8級の試験を終えた俺達は飛空艇でリートに帰ってきた。
そして、空港を出ると、立ち止まる。
「懐かしき故郷です!」
エーリカが嬉しそうに頷いた。
「うーん……疲れたぁー……」
レオノーラは身体を伸ばしている。
「あー、怖かった。着陸の時にちょっと揺れなかった?」
ビビりなアデーレが掴んでいた袖から手を離した。
「今日は風が強かったかもな。行こう」
俺達はたった1週間だが、久しぶりのような気がするリートの街中を歩き、寮のアパートを目指して歩いていく。
「あれ?」
「え? 支部ができてる?」
「本当ね……1週間なのに」
俺達の視線の先には出発前には燃え落ちて真っ黒だった支部が新しくて白い建物に変わっていた。
「さすがは本部のエリート共だな」
支部の玄関の前で見上げていると、玄関からヴォルフが出てくる。
「よう、帰ったのか?」
ヴォルフは端に避けると、タバコを吸い出した。
「ああ、さっきな。どんな感じだ?」
「見ての通り、外観はできた。あとは内装の最終的な調整だな。今日中には終わる」
「休みなのに大変だな」
「よく言うわ……お前らは明日から仕事だろ? それには間に合わせるから安心しろ」
ありがたいな。
「ご苦労だな。王都のお土産はいるか?」
「いらねーわ。明日にはそこに帰るっての」
ヴォルフが笑う。
「じゃあ、あと少し頼むわ。俺達は休む」
「ああ、お疲れさん」
俺達は支部の横を通り、裏に回った。
すると、当然だが、真っ白の新築の支部の裏が見える。
「おー! これでアパートが大通りから見えなくなりましたね!」
「だねぇ……この秘密基地感が好きだったから良かったよ」
「これで水遊びしてても変な目で見られなくて済むわね」
3人共、満足そうだ。
「さすがに疲れたし、支部長への挨拶と報告は明日でいいだろ。じゃあ、解散」
俺達はこの場で別れ、各々の部屋に入っていく。
「久しぶりの我が家だな」
「帰ってきましたねー」
俺達は手分けをして、お土産の整理や洗濯をしていった。
すると、呼び鈴が鳴り、どんどんというノックの音が聞こえてくる。
「お客さんですかね?」
「レオノーラだな」
「へー……」
玄関に行き、扉を開けると、そこには予想通り、レオノーラが立っていた。
「さっきぶりー」
「そうだな」
「本当にレオノーラさんだ……」
そう言ってるだろ。
「んー? どうしたの?」
ヘレンの反応を見て、レオノーラが首を傾げる。
「いや、ホテルでもだったんですけど、なんかジーク様がノックの音で人を当てるんです」
「ジーク君、エスパーだったの?」
「お前らは音の強弱でわかるんだよ。それ以前に呼び鈴を鳴らしたのにさらにノックをするのはお前だけだ」
「へー……すごいなー、理解されてるなー、愛されてるなー」
はいはい。
「それよりもどうした?」
「デートしようよー」
デート?
「いや、洗濯とか色々あるだろ」
俺はそこまでだが、女は多いし、大変だろうに。
「アデーレの分もだけど、エーリカがまとめてやってくれるって」
貴族令嬢2人はエーリカがいなくなったら生活できないんじゃないだろうか?
「そのアデーレはどうした?」
「手伝うってさ」
「あいつが?」
家事が一切、できない女では?
「うん。ジーク君が内心で絶対にバカにしてるから頑張るってさ」
「…………してないが?」
バカにはしてない。
できないんだろうなーとは思っているが、けっしてバカにはしてないのだ。
「君がノックの音で私達がわかるように私達も君の表情を見て、色んなことがわかるんだよ」
そうなんだ……
「ジーク様、理解されてますし、愛されてますね……」
そうか?
違うと思うぞ。
「まあ、何でもできそうで意外と何もできないアデーレはいいわ。お前は何をするんだ?」
「お魚さんを買ってこいって」
あー、それがデートね。
「お魚パーティーだったな」
「うん。釣るのが一番だけど、さすがに今日は休みたい」
俺もちょっと疲れたし、今日はゆっくりしたいわ。
「よし、行くか」
「うん」
俺達は部屋を出ると、市場に向かって歩いていく。
「帰ってきたねー」
街中は休みの日だけあって人が多いものの王都ほど騒がしくない。
「そうだな」
「ジーク君、王都に残らなかったんだね」
んー?
「なんでそう思ったんだ?」
「なんとなくそのまま王都に残るのかもなって思ってた。ジーク君、優秀だし、そう簡単に王都の魔女が手放すとは思えない」
「リートの魔女っ子は俺が王都に戻るって言ったらどうする?」
「悩むねー……ついていきたいという気持ちもある。実際、アデーレはついていくと思う。でも、エーリカがね……ついていきたいという気持ちとエーリカを一人で置いていくわけにはいかないという気持ちの葛藤だよ。あの子は地元であるここに残るだろうしね」
だろうな。
地元志向が強く、錬金術師になった動機もこの町に貢献したいからだし。
「まあ、悩まんでもいいわ。あんな忙しいところよりこっちの方が良い。そもそも俺はエーリカと違って、地元の王都に何の思い入れもないんだ」
「そっかー。王都の魔女よりリートの魔女の方が良いかー」
魔女っ子な。
レオノーラがニヤニヤしだしたので帽子を奪う。
「実際のところ、試験の出来はどうだった?」
「筆記は何度も確認したけど、ミスはなかったと思う。実技も特にミスをしていないね」
「そうか……受かったらサイドホテルに行くって話だけど、その格好で行くのか?」
帽子をレオノーラの頭に乗せながら聞く。
「いや、ドレスで行くよ。エスコートしてね。食事の後のコースは任せるから」
「背負うのは嫌だな」
「そこまで飲まないよー」
だといいがな。
俺達はそのまま歩いていき、人数分+αの魚を購入すると、アパートに戻った。
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