第117話 証拠
「試験官を調査してもいいのか?」
「構いません。むしろ、して欲しいくらいですね」
金だけじゃないな……
弱みも握っている。
絶対に吐かないだろう。
「そうか……では、ジーク、どうする?」
本部長がまたもや俺に振ってきた。
まあ、俺に任せると言ったのだから当然だ。
「アウグスト、今ならまだ引き返せるぞ。本部長はああ言ったが、所詮は4級と9級の不正だ。たいしたことではない」
「私はお前のその人が努力をして目指しているものを所詮の一言で流すのが大嫌いなんだよ」
「そりゃ悪いな。今後は注意する」
謝罪をすると、立ち上がり、本部長のところに向かう。
そして、一昨日から徹夜で作っていたある機械を取り出した。
「何だ、それ?」
アウグストは眉をひそめる。
「アウグスト、ちょっとこの紙に自分の名前を書いてくれないか?」
紙とペンを取りだし、アウグストに渡す。
「なんでそんなことをしないといけない?」
「アウグスト、命令だ。書け」
「……わかりました」
アウグストはデスクに紙を置き、自分の名前を書いた。
「これでいいか?」
「ああ」
頷くと、紙を受け取り、今度は俺が別の紙にアウグストの名前を書く。
「貴様は何がしたいんだ?」
「黙ってろ……お前ら、この紙を見ろ」
3人と1羽に2枚の紙を見せる。
「私とお前が書いた私の名前だな」
「そうだな」
「並んでるな」
「ジークさん、字も綺麗なんですね。心は汚いのに」
ドロテーは一言多いが、良いことを言った。
「そうだ。これは俺とアウグストの字であり、同じことを書いているが、まったく字が違う。人はな、それぞれ字に特徴がある。これは全員だ」
「何が言いたい?」
まだわからんか。
「この機械はその差を判定する。まずだが、ここにレオノーラに書かせた書類がある」
レオノーラに書いてもらった下請け書と納品書を取り出した。
「それがどうした?」
「この機械にレオノーラの字をインストールする」
機械に書類を置き、読み込ませる。
「本当に何を言っているかわからん」
「次にレオノーラの解答用紙を置き、スイッチを押す」
スイッチを押すと、機械が光を発し、解答用紙に書かれた文字を浮かび上がらせた。
そして、赤い文字と青い文字に分かれる。
「ジーク、これは?」
本部長が聞いてくる。
「青い文字はレオノーラが書いた字です。赤いのは別の者が書いた字ですね。見てわかりますが、あちこちの解答にあります。数を数えるとわかりやすいですが、赤い解答……つまりレオノーラではない者が書いた解答が11問ですね」
あれ? あいつ、満点取ってんじゃん。
そりゃあんなにも自信満々なわけだわ。
「次にアウグストの分です」
アウグストに書いてもらった名前をインストールする。
そして、アウグストの解答を乗せた。
この間、アウグストは一言も発していない。
「では、スイッチを押します」
先程と同様に解答用紙に書かれた文字を浮かび上がらせた。
そして、赤い文字と青い文字に分かれる。
「赤い解答が1つ、2つ、3つ…………76点ですね」
いや、結構できてるじゃん。
もうちょっと勉強すれば受かるじゃねーか。
「ほう……」
「でたらめだ! こんな機械、信用できるものではない!」
アウグストが大声で怒鳴った。
「いくらでも検証して結構ですよ。というか、陛下に寄贈しますよ」
「それはいいな。陛下もよくわかってくれるだろう」
「こ、これは私を貶めるためのものだ! こんなものは認められない! 父上に言って抗議してもらう!」
親を頼ったか。
「アウグスト、この機械の正確性も含めて、検証がいる。だからお前の家も調査することになるし、お前の親父も容疑者だ」
「な、何を……」
「実はな、すでに今回のことは私の手から離れているんだよ。国王陛下直属の暗部が動いている」
「は? こんなことで?」
ありえんわな。
国王陛下の暗部は貴族を調査する部隊であり、動くのは反乱などの疑惑がある時だけだ。
「アウグスト……リート支部に放火し、タダで済むと思っているのか? リート支部の支部長はかつての西部戦線の英雄であり、国王陛下から勲章を授与されたヴェルナー・フォン・ラングハイムだぞ」
支部長が思っていたよりずっと大物だった件。
「な、何を……」
「ジークも言っていただろ。たかが試験の不正ごときで陛下が動くものか。毎年のようにカンニングの不正は起きているんだぞ。陛下が動くのは反逆罪の疑惑があるからだ。お前の家はリートの議員を反逆罪と進言した。つまりそれに加担している疑惑があるお前の家も同様だ。わかったか? お前の家は反逆の罪に問われている状況なんだよ。そして先程、窓の外からこの機械の結果を見ていた暗部はお前の家を取り囲んでいる仲間に結果を伝えにいった。これから暗部はお前の親父を捕らえ、お前の家には家宅捜索が入る」
いたのか……
まったく気付かなかった。
こえー……
「……ぐっ!」
アウグストは唇を噛むと、踵を返し、扉に向かって駆けだした。
「商人と同じか……」
追い詰められた人間は無駄だとわかっていても同じ行動をするようだ。
「アホ。王都の魔女から逃げられるとでも思ったか? ほれ」
本部長がアウグストに指を向けると、アウグストがその場に倒れ込んだ。
「え? 死んだ?」
扉の前で倒れているアウグストはピクリとも動かない。
「眠らせただけだ。おい」
本部長が声をかけると、扉が開かれ、2人の黒ずくめの男が入ってきた。
間違いなく、暗部だ。
「アウグストをいただいても?」
「持ってけ。私は知らん。それと話は聞いていたな? この機械は国王陛下に寄贈するそうだ」
本部長がそう言って機械を叩くと、暗部の男が近づいてくる。
「それはありがたい。さすがはこの国始まって以来の天才ですね。これで色々な不正が暴けますよ」
「暴いてくれ。でも、私には使うなよ」
おっ! 自供したぞ。
「そちらのお弟子さんにこれと同じものを作らないように言ってくださるのならばね」
なるほど。
逆にそっちも使われると困るわけだ。
「ジークは師匠想いだからそんなことせん」
最初からする気ねーよ。
「わかりました。では、これで……ジークヴァルト様、クリストフ様、このことは他言無用でお願いします」
「わかってる。陛下に忠義心に厚い男だったって伝えておけ」
「プレヒト家は言うまでもない」
俺とクリスが頷くと、暗部の男も頷き返し、アウグストを連れて部屋から出ていった。
「さて、つまらない話は終わったな」
「本部長、レオノーラは合格でいいですね?」
「もちろんだ。100点じゃないか。お前達が言うように優秀だな、こいつ。ジークの9級試験は98点だったというのに」
は?
「私が100点ではないと? ありえません」
「お前は【魔力草から抽出できる要素の数は?】という問いに3つと書いた。答えは2つだ」
あー、イラつく。
「でしたら私は間違えておりませんね。答えは3つです」
間違えているのは俺以下の奴らが俺を評価することの方だ。
「そうか……だったらそれを論文に書け」
「嫌です。そんな暇はありません」
「あっそ。もう行っていいぞ。私は忙しい。アウグストの代わりを探さないといけないからな」
「そうですか。頑張ってください。私達は残りの2日を遊んでからリートに帰ります」
お土産を買わないといけないのだ。
「はいはい……」
「では、これで失礼します。クリスもドロテーもじゃあな」
「ああ」
「レオノーラさんを貶めようとするバカを倒して見事でしたよ」
俺は一礼すると、本部長の部屋を出て、3人娘が待つテレーゼのアトリエに向かった。
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