第116話 尋問
翌日、3人娘と共に本部に来て、テレーゼの部屋に着くと、3人を残し、5階の本部長室に向かう。
「ヘレン、俺は間違っているか?」
「いえ、今回ばかりははっきりと言えます。ジーク様は間違っておりませんし、悪はアウグストです。御自分の世界を守りましょう」
ヘレンが言うならその通りだろう。
俺達は本部長の部屋の前に来ると、扉をノックした。
「本部長、ジークヴァルト・アレクサンダーです」
『入れ』
本部長の声が聞こえたので扉を開け、中に入る。
すると、デスクにつく本部長とその横に控えるクリスがいた。
もちろん、ドロテーもいる。
「おはようございます」
「ああ。昨日はあれからどうだった?」
レストランに戻った後は本部長に車でホテルまで送ってもらったのだ。
「さすがに食べすぎたので大人しくしてましたよ。私は色々と準備がありましたがね。アウグストは?」
「まだ来てない。ちょっと手が離せないそうだ」
飛空艇製作チームは忙しいからな……
すまんな、元同僚諸君。
また人が減る。
「では、先に仕事の話をいたしましょう。こちらが今回の仕事である雷の魔剣です」
刀身のみの魔剣を取り出し、本部長に渡した。
「ふーむ……」
本部長は魔剣を受け取り、じっくりと眺める。
「どうです?」
「見事だ。ほれ」
頷いた本部長がクリスに魔剣を渡す。
すると、クリスとドロテーが魔剣をじっくり見る。
「ふーむ……すごいな」
「これほど高魔力を秘めているのに魔力のバランスが完璧ですね。さすがはジークさんです」
魔剣の評価を終えると、クリスが本部長に魔剣を返す。
「ジーク、ご苦労だった。これなら陛下も納得するだろう」
「はい。あとは鞘や柄を豪華に装飾してください」
王侯貴族の場合はここが大事。
「そうする。報酬の抽出機と分解機は後日、リート支部に送ろう。魔力草はどうする?」
「持って帰ります」
「わかった。後で届けさせよう。ジーク、私にはもうお前に教えることはないようだな」
うん。
「私が学ばないといけないのは錬金術ではなかったようです」
「その通りだ。私は最初にそれをお前に教えないといけなかった」
「師匠、それは無理です」
知らないものをどうして教えられるのか。
「そうだな……私では無理だろう。はっきり言えば、私はお前と同じタイプの人間だ」
「でしょうね」
その結果が本部長の椅子なのだ。
「お前は良い弟子を得た。誰が偉いとかはない。私だってお前達から学ぶことが多い」
「わかっています」
「うむ……さて、そろそろか。ジーク、お前は座ってろ」
「わかりました」
頷き、ソファーに座って待つことにする。
そして、しばらく待っていると、ノックの音が部屋に響いた。
『アウグストです』
「入れ」
本部長が入室の許可を出すと、扉が開かれ、アウグストが部屋に入ってくる。
アウグストは俺を見て、一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐに真顔に戻り、本部長の前に立った。
「お呼びでしょうか?」
「ああ。ちょっと話を聞きたくてな」
「話ですか? クリストフさんやジークヴァルトもいるようですが……」
「関係する話なんだ。アウグスト。お前にはある嫌疑がかけられている」
本部長が告げると、アウグストが眉をひそめる。
「どういうことでしょう? 正直、身に覚えがありません。私は真面目に仕事をしております」
「そうだな。お前は真面目だし、確実な仕事をする。私はお前を高く買っている」
「ありがとうございます。先程の言葉がなければ素直に嬉しいです」
そりゃそうだ。
「アウグスト、試験官を買収したな?」
「……何のことでしょうか? 試験官という言葉から先日の国家錬金術師試験が浮かびますが……」
「実に見事と言いたい。試験官は協会に所属する3級以上の国家錬金術師からランダムで選ばれるが、試験の合否を行う者は厳選に厳選を重ねるし、それが表に出ることはない」
「すみません。何を言っているかまったくわかりません。その仕組み自体も初めて耳にしました」
なお、これは俺とクリスは知っている。
3級に昇格した時にそういう仕事もあるという説明を受けたからだ。
もちろん、他言してはいけない。
「いくら使ったかは知らんが、よくやった。おかげでお前は4級試験に合格している」
「それは私の努力の結果です」
「では、私の前でもう一度、試験を受けられるか?」
「もちろん、受けられます。ですが、受かるとは言えません。努力はしましたが、自分の手応え的にもギリギリでしたので」
そうなるように調整したわけね。
「ギリギリか……随分と都合のいいことを言うな」
「事実ですから。それほどまでに4級は難しいです」
そうか?
1時間もかからずに解答が終わって、早く帰りたいって思ってたわ。
まあ、3級試験もだったけど。
「はっきり言おう。お前が受かるとは思えん。次の次くらいだろうなと思っていた」
「中々なことを言いますね。いいでしょう……そこまで言うなら私が不正を働いたという証拠でもあるんですか?」
「ここに2枚の解答用紙がある。もちろん、この前の国家錬金術師試験のものだ」
「すごいことをしますね……いくら本部長でもそんな権限はないはずですよ」
詳しいな、お前。
「ないな。だから上に頼んだんだ」
「上? 本部長の上ですか?」
「そうだ。国王陛下に頼み、正式に調査を依頼された」
わーお。
「陛下に……そ、そこまでのことですか?」
「お前も知っての通り、国家資格は国王陛下の名のもとにその技量があるという証明でもある。それに不正の疑惑があると言ったら認めてくださった」
どうせ魔剣をチラつかせたんだろ。
「しかし、いくらなんでも国王陛下がそんな……」
「まあ、良いではないか。お前に不正がないのならそれでいい」
「そ、それはその通りです」
アウグストは動揺が見えるものの頷いた。
「うむ……さて、この解答用紙の1枚はお前のものだ。点数は82点。確かにギリギリだが、合格になる」
「ありがとうございますと言いたいですが、何とも言えません」
この状況ではな。
「もう1枚はリート支部に所属しているジークの弟子であるレオノーラ・フォン・レッチェルトのものだ。レオノーラは知っているか?」
「試験の時に会ったと思います。それが?」
「レオノーラの点数は78点でギリギリ不合格になる」
「そうですかとしか言えませんね」
アウグストはここでは動揺を見せずに平然と答える。
「お前はバカだなー。自分の点数を弄るだけなら『まあ、運が良かったな』で済むのに……ジーク、レオノーラが落ちると思うか? お前の弟子だろ」
本部長が振ってきた。
「落ちるわけないでしょう。俺が教えたんですよ?」
「と言ってる」
本部長がアウグストを見る。
「ジーク……貴様は確かに頭が良いし、錬金術の腕前も素晴らしいものだ。それは私だって認めている。だがな、貴様の人間性を加味したら教師に向いているとは思えんぞ」
「その通りだ。俺は教師に向いていない。多分、お前に勉強を教えてもまったく上手くいかないだろう。だがな、エーリカ、レオノーラ、アデーレは生徒に向いているんだ。真面目で素直であり、人の言うことをよく聞く。そんな奴らが努力をし、試験を受けた。それが9級程度では落ちるわけがない。勉強を見ていて、7級も受かるレベルにはあったぞ」
多分、実技で落ちるけどな。
「身内びいきにしか聞こえんし、話にならんわ。本部長、これ以上はさすがに侮辱と取りますよ? 出るとこ出てもいいです」
わかりやすい男だ。
俺達に証拠がないと踏んで強気に出たわ。
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