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第110話 嫌な話


 ホテルに帰り、解散すると、ベッドに倒れ込んだ。


「疲れたー……」

「お疲れ様です。でも、エーリカさんが楽しそうで良かったじゃないですか」

「まあなー……」


 俺だって、楽しかったし、レオノーラもアデーレも楽しそうだった。


「今日は早めに……ん? 御三方ですかね?」


 ヘレンが反応する。

 ノックの音が聞こえたのだ。

 だが、この音は3人娘ではない。


「いや、違うな」


 ベッドから起き上がると、扉に向かい、開ける。

 すると、そこにはホテルマンがおり、一礼してきた。


「お客様。フロントにお客様がお見えです」


 客?


「誰だ?」

「クラウディア・ツェッテル様です」


 本部長……

 なんでホテルに来たんだ?


「わかった。すぐに降りると伝えてくれ」

「かしこまりました」


 ホテルマンがまたもや一礼し、去っていったので部屋の中に戻る。


「本部長ですか?」

「ああ。何の用だろう?」


 なんでわざわざ来たんだろう?

 用件なら電話でいいのに。


「早く行った方が良さそうですね」

「ああ、行こう」


 ヘレンがよじ登ってきたので部屋を出て、階段を降りた。

 すると、ロビーの窓際にある休憩スペースのソファーに腰かける本部長の姿が見えたので近づく。


「おー、ジーク。良いホテルに泊まってんな」


 俺に気付いた本部長が声をかけてきた。


「せっかくなんでね。どうしたんですか?」


 本部長の対面に腰かけながら用件を聞く。


「ちょっとな……ジーク、魔剣はどうだ?」

「順調ですよ。クリスに追い出されましたが、明日からテレーゼのアトリエで作業をします」

「そうか……順調ならいい」


 んー?


「あの、用件はそれですか? 必要なら報告に行きますよ?」

「いや、用件はそれじゃない。これから話すことは絶対に言ってはいけないことだし、めちゃくちゃ不正になる」


 えー……


「聞きたくないんですけど」

「いや、お前は聞かねばならん」


 何だよ……

 変なことに巻き込むなっての。


「ハァ……何でしょう?」

「先日、国家錬金術師の合同試験があったな?」


 10級から1級まですべての試験が開催されるから合同と呼ぶのだ。


「ありましたね。そもそも私達の主目的はそれです」

「お前の弟子の3人はどんな感じだった?」

「3人共、自信があるようでしたよ。実際、勉強してきましたし、たかが9級と8級ですからまあ受かったんじゃないですかね?」

「そうか……」


 本部長が悩みだした。


「どうしたんです?」

「私は錬金術師協会のトップだ。だから誰が受かったか誰が落ちたのかの速報が入ってくるんだよ」


 そうなんだ……

 知らんかった。


「あー、だから俺達が合格報告をしてもそんなに喜んでいなかったんですか?」

「そうだ。報告を受ける前に知っていたからな。お前達のために報告を聞いたら演技をして喜ぶふりをしたいが、私はそういうのが苦手なんだ」


 苦手っぽいな。


「まあ、わかります。それで? それがどうしたと?」

「誰が合格し、誰が不合格なのかを合格発表前に漏らすのは不正になる。だが、そうも言っておられんことがあり、お前に確認したいことがあるから言う。絶対に誰にも言うなよ?」

「言いませんよ。こっちも資格はく奪もありえるじゃないですか」


 勘弁だわ。


「……まずだが、お前のところの3人な。2名は受かったが、1名は不合格という速報が届いた」


 ハァ……

 なんとなく本部長の雰囲気で察してたわ。


「誰です? レオノーラですか? アデーレですか?」


 エーリカはないだろう。


「レオノーラだ」


 あいつか……


「実技でミスりました?」

「いや、筆記だ」


 筆記?


「そっちですか?」

「ああ。筆記がぎりぎり合格点である80点に達していなかったらしい」


 9級で?


「回答欄をミスったか? それとも名前を書き忘れ?」


 どっちだ?


「点数は78点だからそれはない」


 となると、ケアレスミスか実力不足か……


「まあ、わかりました。それで? それが何か?」

「お前に確認したい。レオノーラは落ちる可能性があったか?」

「ないですね。レオノーラは得意不得意がはっきりしていたので苦手分野を重点的に教えました。まず9級を落ちるレベルじゃないです」


 試験前には完璧に覚えていた。


「そうか……」

「何かあると?」

「ちょっと気になってな……クリスもテレーゼもお前の弟子3人を評価していた。それにエンチャントもできるのだろう? それが9級で躓くとは思えん。これがお前の言う回答欄をミスったか名前の書き忘れならバカだなーと流せる。実際、年に数人は緊張でそういうミスをする奴はいるからな」


 まあ、いるだろうね。


「レオノーラは緊張なんかしてませんでしたよ」

「だろうな。ましてや、レオノーラは貴族令嬢であり、そういうのには強いはずだ」


 同じ貴族令嬢のアデーレは弱いけどな。


「本部長はどう思っているんです?」

「それをお前に確認しに来た。どう思う?」


 どうって……


「試験の日にどっかのバカと揉めたのがクリスのところのカラスとウチのレオノーラですねーとしか」


 そう言うと、本部長が天を仰いだ。


「何かあるんですか?」

「どっかのバカとはアウグストだろ?」

「もちろん。アデーレのことが気に入っているらしく、絡んできたらしいんですよ。そこであいつが暴言を吐いたんでレオノーラが言い返したらしいです。その場にいたわけじゃないから詳しくは知りませんがね」


 めんどくせー奴だわ。

 もちろん、アウグストの方ね。


「そのアウグストは合格だそうだ」

「4級? おめでとう」


 どうでもいいわ。


「私はな……あいつのことを買っている。お前と仲が悪いし、実家の力を使って、お前を蹴落として飛空艇製作チームに入ったが、それに見合うだけの能力はあると思っている」

「まあ、そうでしょうね。俺以下ですけど、実力は十分にあります」


 俺の1歳上だと記憶しているが、それでも5級はすごいことだ。


「ああ、実力はある。だから私の一門にケンカを売ってきたあいつに報復をしていないんだ。あいつは使える奴だからな」

「まあ、いいんじゃないです? 報復なんて馬鹿らしいですし、そんな非生産的なことより、死ぬまで馬車馬のごとく働かせるべきでしょう」


 戦争中の今、飛空艇製作チームと魔導石製作チームは激務だし。


「ああ……そう思っている。だがな、あいつは確かに優秀だが、4級の域に達しているとは思えんのだ」


 あー……そういうことか。


「そっちの不正疑惑が本命ですか……」

「そうだ。あいつの5級試験はギリギリ合格だった。それから数ヶ月で4級に受かるほどの力を身に付けたとは思えん」


 確かにね……


「状況証拠は揃ってますね」

「ああ。レオノーラがアウグストと揉めたという話を聞いて確信した」


 アデーレを落とさなかったのは想い人だから。

 エーリカは……あいつが貴族同士の会話に入るとは思えんし、気配を消してたんだろうな。


「あいつの家は大きいですからね……」


 本部長の弟子である俺を蹴落とすくらいだ。

 試験への介入もあり得ないことじゃない。


「少し調査する。このことはお前の弟子にも耳に入れるなよ」

「わかってますよ」

「今日はそれだけだ。デートの終わりに嫌な話を聞かせたな」


 嫌な話だねー。


「そういう事情なら仕方がないでしょう。しかし、本部長、アウグストは大貴族ですよ?」

「そうだな……非常に面倒なことになるだろう」


 嬉しそうだな……

 貴族嫌いだもんなー。


「本部長、頼みます。私はレオノーラが落ちるとは思いませんし、9級なんて踏み台ですらありません」


 もし、飛び級で試験を受けられるならあいつらには7級を受けさせたいと思っていたくらいだ。


「わかっている。お前の弟子なら私の一門だ。それに実力主義を謳っている錬金術師協会で許されることではない」


 本部長が立ち上がった。


「お願いします。合格したら良い店に連れていく約束をしているんですが、一人が落ちたら非常に気まずいんです」

「そうか……もはや弟子というより彼女だな」

「ウチは狭い世界なんですよ。支部長を入れても5人ですよ? 本部の部署どころかチームより少ないじゃないですか」


 どうなってんだよ。


「当分は5人で頑張ってくれ。何かわかったら連絡する」

「わかりました」


 頷くと、本部長が去っていった。


「ハァ……」


 あのボケが……

 エリート人生を歩み続け、他者を蹴落とし続けてきた俺を甘く見るなよ。


お読み頂き、ありがとうございます。

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