第109話 王都観光
翌日の朝、いつものバイキングで朝食を食べる。
「今日は二日酔いになりませんでしたよ。良いワインは残らないんですねー」
飲む前に薬を飲ませたからな。
「そうだね」
「上質だものね」
とりあえず、レオノーラとアデーレがワインのことを何も知らないのはわかったな。
俺達は朝食を食べ終えると、腹が丸くなっているヘレンを抱え、一度、部屋に戻る。
そして、準備を終えると、ホテルを出た。
「観光ってどこに行くんだ?」
今回のガイドを務めてくれるアデーレに聞く。
「まずはエーリカさんが飛空艇で気になっていたお城に行こうと思うの」
城ねー。
「あの、お城を見ていたら兵士さんに連行されるとかないですかね?」
エーリカがちょっと心配そうに聞く。
「大丈夫よ。城を見に来る観光客も多いし、そんなことされないわ」
「そんなことしてきたら私かアデーレが名前を名乗るよ。それで大丈夫」
貴族だもんな。
アデーレに至っては軍のお偉いさんの家らしいし、兵士の方が怖がるわ。
「良かったです……ちょっと不安だったんですよね」
そもそも俺はともかく、お前らは人畜無害すぎて大丈夫だと思うけどな。
「よし、では、お城に行きましょう。こっちよ」
アデーレの案内で出発する。
そして、しばらく歩いていると、城に到着した。
「おー! 大きいですねー!」
「さすがはお城だね」
「大きいわね……」
こいつらの語彙力がないのか他に感想がないのかはわからない。
「ジーク様もお城とか建てましょうよ」
ヘレンが提案してくる。
「いや、いらんわ。俺の城はあのアパートであり、現在、建設中の支部だ」
「ジークさんが王様ですかね?」
エーリカが乗ってくる。
「アパートはそうだと言えないこともないが、支部は支部長が王様だろ」
「実質、ジーク君が王様だよね」
「まあ、リート支部を動かしているのはジークさんだからね」
どちらかというと、立ち位置的には宰相のような……
「きりきり働けよ、家臣共」
「私達、王妃様」
それじゃあ王族しかおらんだろ。
すぐに崩壊しそうな国だな。
あまり冗談になってない状況だったけど。
「はいはい。なあ、レオノーラとアデーレの力で城の中に入れんのか?」
「いやー、さすがに無理じゃない?」
「用事もないしね。むしろ、陛下の依頼を受けているジークさんの方が可能性は高いと思うわよ」
どうだろ?
作業をしているのは俺だが、本部長への依頼なんだよな。
「うーん……無理そうだな。エーリカ、中は無理だ」
「いや、さすがに中は怖いですよ。私、マナーとか知りませんし」
俺も知らんな。
「まあ、外から眺めているだけでもいいじゃないか」
「そうよ。こんなに大きい城はこの国には他にないわよ」
権力の象徴なだけあって、無駄にでかいんだよな。
どこかの領主がこれより大きな城を建てたら陛下に睨まれること間違いなしだ。
俺達は城の周りを歩き、城を眺め終えると、今度は大聖堂に向かった。
「あれが大聖堂ね」
アデーレが指差した先には白を基調とした独特の建物があった。
「大きいです!」
「大きいね」
それしか感想ないんか?
俺もそう思ったけど。
「初めて見たなー」
「王都に20年以上も住んでいて、初めてってすごいわね」
「興味ないからな。大聖堂って何をするところなんだ?」
「え? 大聖堂……結婚式とか?」
あれで?
さっきの城ほどじゃないが、めちゃくちゃでかいんだが?
「王族とかか?」
「多分?」
アデーレも興味ないだろ。
「大聖堂は信仰の対象でしょ。あとは芸術。見たり祈ったりするところだね」
意外にもレオノーラが答えた。
「詳しいですね! 好きなんですか?」
こんなコスプレをしているくらいだしなー。
「いや、ホテルのロビーに置いてあった観光ガイドブックに書いてあった。築200年らしいよ」
本かい。
「200年はすごいですね」
「正確には50年らしい。一回火事に遭ってる」
「へー……奇遇だな」
ウチも火事に遭ったわ。
「放火じゃないらしいけどね」
ロウソクかなんかの不始末かね?
「近くに行って見てみましょうよー」
エーリカは興味津々だ。
「あそこは中に入れるわよ」
「おー! 行きましょう!」
俺達は建物に近づき、外観を眺めると、中に入る。
中はステンドグラスから入る日光で明るく、芸術性は高いと思った。
俺達の他にも観光客は多く、人気があるみたいだ。
俺達は1時間以上も見学し、外に出た。
「いやー、すごいですね! リートには絶対にないですよ」
「あそこの観光は自然が主だもんね。まあ、ウチの実家もだけど」
「ウチもね」
俺の出身はここだけど、初めて来た。
「次に行きましょう!」
俺達はテンションが高いエーリカのためにその後も色々な観光地を巡ったり、有名な店でランチを食べたりした。
そして、最後に中央にあるという噴水にやってきた。
「子供達が楽しそうに遊んでいるな」
噴水の水を見て、きゃっきゃっとはしゃいでいる。
「王都民の憩いの場所でもあるからね」
「へー……」
通ったことある程度だなーと思いつつ、4人でベンチに腰掛けて、噴水を見る。
「おー! 虹が綺麗ですね!」
「ホントだねぇ……」
「学生時代も就職してからも行き詰まったらよく来たのよ」
へー……
「勉強や仕事のストレスか?」
「そうそう。なんか癒される気がするの」
そんなもんかね?
「わかりますねー」
「綺麗だし、あの水と共に心が洗われるようだよ」
感性の違いかね?
「海にでも行くか? 綺麗だぞ」
癒しを欲してそうなアデーレを誘ってみる。
「釣り? 夕日?」
え……釣り……でも、絶対に答えは夕日だ。
「つ……夕日」
「釣りねー……」
アデーレがジト目になった。
「釣りでいいじゃん。釣った魚をその場で焼いて食べると美味しいよ?」
そうだ、そうだ。
お腹がぽっこりのヘレンも見れるぞ。
「私は魚を触れない」
「エーリカが焼いてくれるよ」
「焼きまーす」
いや、さすがにそれは誰でもできるだろ。
「アデーレ、何事も経験だぞ。やってみたら意外に楽しいもんだ」
「ふーん……そう言うあなたはどうなの? 王都観光はどうだった?」
観光……
「楽しいと思うぞ……疲れたがな」
めっちゃ歩いたし。
「奇遇ね」
「地味に足が痛いですよねー」
「どっかでお茶して帰ろうよー」
俺達はもう少しだけ噴水を眺めると、近くの喫茶店でお茶を飲み、ホテルに帰ることにした。
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