如何にして おわり
空は青い。境界線がなくなった空は、曇天に覆われ続けていることはない。
「雲の上は変わんなかったのかもなぁ」
だが、雲の上には変わらずに、それはあったのかもしれない。
手を伸ばしたエースは、どこまでも手が青の中に吸い込まれていく気がして腕を下ろした。羽を無理やりユスティの横腹に巻きつけ寝転んだ背中は温かい上に柔らかな毛皮の十分なベッド。寝るには最適だ。青い空の中に練り込まれた太陽の威光にエースの双眸が本能的に恐れ閉じることはもう無くなった。
「おい、結局どこいくんだ」
大きな荷物を背負ったガーランドは長袖のシャツと緩いカーゴパンツ姿。
「お前さぁ、その格好だとその辺にいる兄ちゃんだよなぁ。悪かぁないけど、嫁の尻に敷かれてそうだ」
「何言ってんだよ。そうじゃなくてどこに行くのかって、何日歩いてると思ってる」
エースは脱力の手を無理やり引き上げ、いない羽虫を追い払ってそのまま力を抜き落とせばユスティの身体にぶつかる。ついでに、人差し指の先に触れた毛を数本引き抜いた。それを見ていたガーランドは嫌な顔をしつつも咎めをエースに浴びせることはない。
「俺の故郷に行くんだ。まぁ、ずっと前に朽ちたとは聞いたけどあそこは空気がいいからな。子供にはピッタリだ」
ユスティの毛を毟った時とは違う、嫌な顔には奥行きがあった。
「子供って、アンリはわかってんのか」
毟った毛を指先で捏ねくり、一塊にしてガーランドに投げつける。白と赤の毛が混ざり色の悪くなった小さな毛玉の行く末をエースはなんとなしに見守った。休むことなく歩き続けるガーランドの足に当たって地面の小石に混ざってわからなくなると、興味はもうない。
「さぁ、関係ないんだ。どうだっていいだろ」
「でも、」
「お前もあいつも関係は無いんだ、黙ってろ。俺たちの子供だ、それ以上も以下も、以外もない」
羽を広げ身体を起こしユスティの背中に跨る。ゆっさゆっさと歩くごとに揺れる視界には、アスファルトと背の低い民家が、ぽつんぽつんと建っているだけ。もう少し行けば、アスファルトも無くなるだろう。
基地を出てから、ほぼガーランドとユスティは休みなく歩き続けている。何度太陽が沈み、月が昇ったか。何度月が眠り、太陽が目を覚ましたか。早々に数えるのをエースはやめた。時間を気にしている事に嫌気がさしたのだ。
休みなく歩き続けていても、ガーランドとユスティが疲れを見せたことは無い。それも、エースは気にかけない。太陽が昇るのか気にかける事と一緒で、意味がない。
「車で行けばよかったんじゃないのか」
エースはユスティの腹の横に落ち着いている自身の素足を見下ろし、右足首を一度だけ回す。足首の骨がなった。
「車でもよかったんだが、上にのさばってた分厚い雲が無くなったんだ。空の下をのんびりしたっていいだろ」
何度見上げても、本日の空に分厚い雲はない。なんとも清清する景色に、エースの肺は目一杯欲張りになって止まってしまうほど吸って、勢いよく吐いて。
「生きてるなぁ」
後先も、裏表も、何もない呟きは既に捨てられてしまったものが混じっている。惜しいとは思っていないが、無くなった窪みはしばらくは寂しさが溜まるのだろう。
「俺もお前も、嫌になる程生きるんだ。もちろん、ユスティもなぁ」
「たまったもんじゃないな」
「ばぁか、せいぜい甲斐甲斐しく俺に従僕しろ。子供が生まれたら世話させてやるから今から期待してろよ」
言いたいことがあるくせに、ガーランドはわざと口を閉じてすがめた横目で語ろうとする。読むこともできたが、エースはあえて読まなかった。
「恨むんなら、俺をこうした奴らを恨めよ。如何にして、俺を神にしたのか。馬鹿な奴らだよ人が神になれるもんか」
鼻を鳴らし、踵でユスティの横腹を軽く蹴ってリズムを刻む。のろのろとした歩みでも、休まず進み続ければいつかは目的地に到着するのだ。
ガーランドは、神を否定するエースを見てはいなかった。
ここまで拙い物を読んでいただきありがとうございました。




