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如何にして 76

 氷や飴玉を噛み砕く一切の躊躇ない破壊。尖った牙で、透明度の高い精霊石を噛み砕き、そして細い喉をわずかに逸らし、飲み込む。唇の周りを舐めた女神は、抱いていた神を捨てその場に立ち上がった。

 細い身体を前にのめり、背中に力を入れ肩甲骨が浮き上がったのがわかった。それから、小さな穴のあいた羽が広がり、その下で萎えていた羽がゆっくりと広がっていく。

「きれいだなぁ」

 今にも途切れて、居なくなってしまいそうな呟きの後、アンリは目を閉じた。

「アンリ、ねぇアンリ」

 傍にいたショートは怖くなりアンリの肩を揺すっても、手首のない手が左右にコロリコロリと弧を描く。無防備な首を手のひらで覆う。

「……生きてる?」

 わずかにだが感じる脈と温度。今にも止まってもおかしくないそれから、慌てて手を離した。

「お、おとーさん!」

 ショートは羽を広げる女神に飛びつき、腹に顔を埋めた。薄く何の音もしない内側に声が届くように。

「助けて、アンリが死んじゃう」

 ぐうるり、腹の中で音が聞こえた。

 頬に当てられた両手が、ショートの顔を持ち上げる。必然、見つめあった目と目。新緑の中に映ったショートの透けてしまいそうな姿。

 形作られていく女神の微笑みは、平和を胸に植え付ける。

「しょうがない。ま、あいつとの約束があるしなぁ」

 堂々たる立ち居振る舞いは、背中を大きく見せショートを置いていく大股はしかし音は無い。倒れたアンリを見下ろし、呆れたと言わんばかりに肩を一度すくめ、手を差し伸べた。

 利き手に巻かれた包帯の足りない指の辺りがキツそうに盛り上がっていく。血の気の引いた白い頬に触れたのは、指だ。包帯をかき分け突き出た揃った指はアンリの顎の骨を辿る。

 一度、二度辿ると、閉じていたアンリの目が薄らと開く。

「起きろ起きろ。お前、ここで死ねると思うなよ」

 微かに、青白い唇が動くがアンリの声は無い。だが、エースは小馬鹿にして笑う。

「あれだけで事足りてる。お前まで、変える気はないから人として生きて人として死ね」

 爽やかなエースの笑みを含んだ、乱暴な物言い。ショートは、胸の中へ何か心地よい重みが落ちてきてピッタリと元の場所に戻ったらそんな気がした。

 揃った指が手招く。おいでおいでと、宙を引っ掻く。その手が呼んだのは、アンリから切り離された体の一部。手のひらが二つと、足が一つ。

「ほぉら、元の場所にいきな」

 手のひらは、指で這って。足は、地面を蹴ってアンリの体の周りを一周。目が無いせいでどこに戻ればいいのかわからないのかもしれない。ショートは、惑う右手のひらの近く、足を抱えしゃがんで元の場所へと指先で押してやる。

 正しい場所を見つけた手のひらがショートに礼を言うように人差し指を持ち上げ、断面をくっつけた。左手も、足もようやく場所を探し当て、身を捩って断面と断面を擦り合わせる。

 どんな感触がしているのかは、苦悶に声も出せないアンリを見るに痛みだろう。切り離れた事のないショート自身の手首の真ん中を穿つ想像の痛みは、突き抜ける速さをしていた。

 招いていた手をかざし、エースはゆっくりとゆっくりと手を握る。

 アンリの手足から、生々しく肉の蠢く音。

「……、これでいいだろう。少し、ズレた気がするがまぁ、死ぬわけじゃない」

 開いた手のひらの中には何もないと言うのに、新緑は開いた手のひらの凹みを見下ろし、すぐに下ろした。

 詰まった痛みが、そぉっとアンリの中から抜けていく。まだ、命に関わる痛みの忘れられぬ実感が残り晴れ晴れとまではいかない血の気の引いた顔は、倒れ伏したままエースを仰ぎみる。

 熱に潤んだ彼の視界には何が見えるのだろう。力無く動く口に、ショートは胸中で音を当てる。

「かみさま」と。

 エースの背中の羽が、いつのまにか三対光をたたえ、伸びていた。

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