如何にして 68
なだらかな進行。ほうら、と呼びかける声は無く、神のお遊びに荒らされた道路は絶え間なくタイヤを揺する。その中に身を置いていると、頭の中までもが揺すられ、かき乱され、上手く纏まりやしない。以前であったなら、纏まらなくとも良かったのに、ショートは上手く固まらない頭の中に苛立ちを覚えている。
黒い耳の先っぽを吸っていると、麻薬のようにひと時気持ちは落着き凪を見せる。だが、すぐにまた纏まらぬ嵐に心中は穏やかでは無い。
「疲れた」
こんな事なら、考える事など知らないままで良かったのに。
トラックは揺れる。ショートは、もう知らない頃には戻れない。
いくつか夜を重ねトラックは進む。あいだ、いくつか街を経由したがどこも、面影は残酷の度合を伝えるものでしか無かったし、未だに街に根付く人々を見るたび、様々大切なものが削られていく。それでも、トラックは止まる事は無い。
今か今かと待ちわびる事がなんであるのか、疑問を覚える度に女神は皆に微笑み、アンリが声を降らせる。そのたびにまた、兵士達は見えないものを見せられてトラックに詰められる。
その繰り返しにショートは自分自身がなんであるのかがわからなくなってしまいそうだった。
そうして、今にも切れてしまいそうになった頃、ようやくとするには、それほど長い時間の進行では無かったのだが、遠目に塔の先端が見えた。
曇天と晴天の境目はきっぱりとしていて、境界線が空にあるよう見える。ようやく、ショートは人の呼吸を取り戻した。
「おとーさん」
トラックから下りて、すぐにショートはユスティにまたがる女神の傍に駆け寄った。見上げてくる新緑はまあるく、瞬きを数度。小さな牙を唇の隙間から覗かせ、キイキイと鳴いた。
「トラックに乗り込んだ日から、一度もあいつは出てきて無い。あの時出てこれたのが可笑しいんだよ」
嫌に訳知り顔でガーランドは言う。当然の目の色で、女神の横にいる大きな身体が邪魔だった。
「……そう、アンリとリーシャは」
「すぐに来る」
それきり、だった。ガーランドの胸中など知る由も無いがショート自身、己の胸元を両手で掘っていくとたくさんの拳大の石がゴロゴロと出てくる。どんなに足元に転がしても、転がしても尽きることなく出てくる石。いいや、足元に転がしたものはすべてショートの中にどうにかして還って来てしまうのだ。
ユスティの毛を毟ってキイキイ遊ぶ姿を上から睨みつける。
「そうしたところで、意味はないぞ。わかってんだろ、それの存在を許しているのは、あいつだって事ぐらい」
ガーランドに言われ、黒い耳先を口の中に含んでも、香ばしい匂いはどこにもない。
「まぁ、お前の気持ちもさわかんねーわけじゃねーんだ。親も他人だなんて言うけれど、それならはじめっから他人として接して欲しかったよな。重なってんのに他人だって言われて、はいそうですかって別個に出来るもんじゃねーよな」
「マザコン?」
久方にガーランドの外に見せた単なる一笑。
「それはもう、卒業しようと思ってんだ」
腕に抱いた黒い毛玉の小さな後頭部に鼻を押し付けると香ばしさの中に混じった臭いにおい。ショートは匂いが薄くなるまで嗅ぎ続けた。




