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如何にして 67

 トラックに乗り込む前に、集まった兵士たちの中で些細だが捨ておけない問題が起きた。秘密の話は、人の口から口へ、その最中に好き勝手に飾り立てられ、思わぬ速さで自立してしまいそうなった噂話はショートの耳にも自然と入ってくる。というより、嘘誠を求め噂から近寄ってきたという方が正しい。

 飽きる事なくユスティに跨ったままの女神は、一度兵士の視線の前から遠ざかると姫さまの顔をして、獣の耳や毛を引っ掴み、キイキイご満悦だ。そばで見守る訳でもなく、ユスティを助けるでも無いガーランドにも思い出したようにちょっかいをかけて面倒臭そうに羽虫のように手で追い払われても、ご満悦だった。ショートからカルアーを奪い抱いて、羽を動かして、どうして集まっているのかわかっていないとしか思えない。

 けれど、そのご満悦な姫さまの元に無粋な数人の兵士たちが連れ立ってやってきた。ショートよりもいくらか年上の兵士達は、ユスティの毛をむしってガーランドのポケットに詰めていた姫さまの前で、神妙な面持ちで並ぶ。息を細い糸に、それぞれ共にやってきた者たちの顔色を伺いあう。

「なんだ」

 ポケットに詰められた毛を払い捨てるついでに、ガーランドは問うた。それでも、しばらくの間、兵士たちの口はむず痒そうに蠢きはしても開きはしない。嫌な気配にいち早くカルアーを奪い返したショートは、少しだけ遠ざかった。

「あ、の」

 力のない、呼びかけに姫さまは僅かに明後日に視線を上げ思案のそぶりを見せる。

「あの、」

 先程よりも、少し力の入った呼びかけに女神は渋々微笑む。指先の揃った手は相変わらずユスティの後頭部の毛を捏ねくり回していた。

「私たちに、いただけませんか」

 兵士たちにはしこりがあり、それがとてつもなく痛んでいるようだった。

「なんでもいいんです。これが、正しいのだと、間違っていないと」

 ショートの内心はガーランドに移ったのか、分厚い肩が短息に上下する。だが、彼は何も言わない。

「お願いします。怖いんです」

 微笑む女神は、包帯の中に閉じ込められた利き手の残っている指先に口をつけ、目を伏せる。

 そしめ、目を開けたのなら微笑みは平和に変わり、ガーランドとユスティの背筋はしゃんと伸びた。

「おとーさん?」

 まさか、とショートの足は彷徨いかけしかし止まる。見間違いでなければ新緑は寸の間、目で彼を制したのだ。

 地に足をつける当たり前のことが嘘のよう。今にも、地面を跳ねる風船のように、そのまま空高くへ浮き上がり消えていってしまいそうな軽くて、嘘くさいつま先が地面に触れ、ゆっくりと踵まで落ちしっかりと立ち上がる。その立っている姿もわざと年若い兵士達に合わせている、と言った不納得が女神の存在にはあった。

 女神を目の前に、落ちていく顔。強張った肩の出っ張りに見えた緊張の震えごと白く細い腕は抱きしめる。つま先立ちをしてようやく耳元に口を寄せ、淡く色づいた花は咲く。途端、兵士の腕は女神の背中を両手でかき抱いてすぐに離れていった。

 兵士の羞恥に染まった頬は、淫靡を汚らわしく嫌う、子供の色に染まっていた。ショートはそれを見ているだけしか許されない。声の欠片も届かず、唇の最小限の動きは目にも聞こえない。

 身体を離し、女神はまた平和を微笑みに変え言葉を求めた兵士一人ずつの耳元に言葉を直接吹き込み、肩を抱いていった。誰一人として、拒否するものは居なかった。そして誰一人として、抱き返さないものは居なかった。

 誰一人として、頬を子供の色に染めなかったものは居なかった。

「頼んでもいいか」

 平和に影が落ちる予感は見え隠れ。最後に一言締めた女神に誰もが頭を力いっぱい首肯で返し、列に戻っていく。

 見送っているのは、女神なのかそれともエースなのか、もはや立っているのは誰であるのかショートは確信を持って名を呼ぶ事は出来ない。

「期待している」

 誰かは、言った。はっきりと、聞き間違いなどしようもないほどに活舌よく、ショートにもしっかりとそれは聞こえてくる。

「期待しているからな、ガーランド」

 歯が痛む表情で、ガーランドはけれど、満たされた頭を俯かせた。

 ショートは背を向け、走り出した。本来乗り込むトラックとは別の離れた位置の列に追いかけてきてくれたカルアーと共に身を寄せて紛れ込んだ。

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