如何にして 30
「馬鹿で、思い上がりなアセメリア。自分を神様だと思ってるの?」
出来上がった絵画に穴を開けるようなリーシャの絞った声は、掠れていたが聞き取りやすく一本の鋭い針となって他人を刺す。
「そ、んなつもりはない」
「優しさなんて言ってるけど、それただの自己満足じゃない。ただ、見下してるだけじゃない。可哀想って、そう言うことよ」
両手はテーブルの下に隠れたまま。強張った表情筋は、動かすにもぎこちないだろうに必死に口を動かしたリーシャは追いつかない言葉を一生懸命に追いかけている焦りがあった。アゼルがエースを背伸びした背中で隠そうとも、追いかける彼女には脆い壁だ。
「比べた? まだ自分はそこまで可哀想じゃないって、もっと可哀想に姫さまってのを仕立て上げた?」
「リーシャ! 隊長は、別にそんなこと」
その場が苦しかった。ショートは、今にも呼吸困難で目を回してしまいそうだ。空気穴はどこだと探すけれど、リーシャのどこにも無い。
「いいの、神様になんてならなくて。大丈夫なんて嘘っぱちなふりはいらないし、何でもできちゃうあなたじゃなくたっていいのよ、間違ったっていいの、誰かを見下したって。自分が悪いって、起きたことに対して平気なふりしないでよ。傷ついたっていいの、それを受け入れてよ。だって、同じなんだもの」
アゼルを抱きしめるエース両手は、ショートを育ててくれた腕よりもうんと細い。胸板も薄く、首も細く、頼れる背中の輪郭は華奢。顔は確かにエースだとわかるが、記憶と現実とを同一視するには一呼吸の時がかかる。
「お前さ、俺をなんだと思ってんのよ? ただのおっさんだぜ」
弱さをエースの口から聞きたくは無かった。その嫌な感覚は初めてのことで、ショートの身体はむずむずと落ち着かない。
「そりゃ、アセメリアはいつも何でもできたからね私の隣で。でも今は、私とおんなじ、とっても嬉しいわ」
「昔っからりーちゃんと変わらないって。ああ、それこそが、自分で巻いた種か。しかたねーか、それでもさぁ今回だってまぁまぁテキトーに巻いた種が芽を出した結果なんだろうけど、何で俺かなぁ。辛いったらねぇーし、腹立って仕方ねぇよ……なぁ、ショート神はいるか?」
「っいない」
悩む事は無かった。エースのために言ったわけでも無い。紛れもなくショートの中にある事実としての知識。破壊された常識の跡に出来た二度と埋まらぬ傷。
「そうだ神なんていない。なのに、神だなんだってふざけやがって、あんな国もあんな奴らも全員居なくなればいい」
何もかもを受け入れる事がエースという形を作っていたのに。ショートの中で止められない変化が進んでいく。逞しいエースの崩れていく形の中から、花が一輪咲こうとしていた。




