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たくらだ猫の異世界歩き  作者: アリーテ
第一章 猫撫で声に油断をするな
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004話 チェイス

 商人との話終わり、そろそろ出発しようとリカルドが上の街道で見張りをさせていた団員に合図を送ろうとしたその時、視界に街道を猛スピードで一台の馬車が駆け抜けていくのが映った。


「なんだ?」

「はて?貴族の馬車のように見えまし───!?」


 商人と二人して馬車を目で追った直後、けたたましい轟音が鳴り響く。

 視線を向けると上の街道から土塊と共に無残に砕け散った木々が落下してくる。


 リカルドは咄嗟に商人を背に隠すように前に出ると、鞘をしたままの大剣で飛んできた木々を払って軌道をなんとか逸らした。そして、街道に視線を戻して硬直した。


 それは雄々しい姿で抉り取った土手の上に立っていた。


 赤黒い毛皮に、漆黒の牙、シルエットだけ見ればイノシシの魔物であるタイラントボアに近い。だがサイズ感が違いすぎる。タイラントボアは最大の個体でも牛ほどしかないがこいつは馬車三台並べても超えるかもしれない。


 イノシシの怪物は蹄で地面を掻き鳴らすと、鼻先をフゴフゴと動かし何かの臭いを嗅ぎ始める。そして何かに反応したように首をぐいっと動かすと冒険者たちを一瞥もせずに走り去っていく。


「襲って、こない………?」


 怪物が走り去ってからやっと解けた硬直。背中に走る冷や汗を感じながらリカルドは大剣を地面に突いてドカッと座り込む。


「ふう………正直肝が冷えやした」

「なななな、なんですかあれは!?」

「俺に聞かねえでくだせぇ。おそらくは先程話してたウルフと同様の異変でしょうが」


 リカルドは速くなった鼓動が落ち着き一息つくと周りも見渡す。


 一瞬の出来事だったとは言え酷い有様だ。上の街道に停めていた黎明の杯の馬車は見るも無残な姿で土手に転がっている。幸いなのは土手下の川で水を飲ませて休ませていた馬が難を逃れたことだろう。


 リカルドが大剣を杖替わりに突いて起き上がると団員が一人駆け足で歩み寄る。


「団長!」

「おう………全員無事か?」

「負傷者はいますが、全員土手に飛び込んだんでなんとか…………。それより、ありゃ何ですか?」

「お前まで俺に聞くな」

「さっきの馬車を追ってるみたいに見えましたけど………」

「ああ………なるほどな。だから俺らに目もくれず───」


 言葉の途中でリカルドは、はっと何かに気付いたように団員を置いて一人土手を駆け上がる。街道へ上がると目を細めて馬車が向かった街道の先を見やる。

 そして遠くの()()()()()にかろうじて見える馬車と化け物の姿を見つけた。


「ちぃっ!!なんてこった!」


 リカルドは今度は土手を駆け降りると馬に跨がり商人の側へと走らせる。


「大問題です旦那!」

「どうしました?あの魔物は馬車を追って去ったのですよね?何をそんなに慌てて?」


 リカルドが慌てる理由が商人には分からず首を傾げる。

 追われていた馬車には気の毒だが、あの魔物を連れていってくれるのならこちらとしては問題はないはずだ。


「馬車が逃げた方向が問題でさぁ。あの馬車街道を曲がりやがった」

「曲がった?………………!?メルクに向かっているのですか!?」


 サウスゲート街道は道なりに進めば領都を通り王都方面へと延びるが、当然南部の各街へと続く街道も接続している。ここから見える交差点を曲がって行きつくのはメルク市だ。


「メルクには城壁がありやせん………馬車が街に逃げ込めばメルクの薄っぺらな外壁にどでかい穴が開きます。そうなりゃアレと市街戦でさぁ」

「そそそ、それはまずいですよ!?」


 あんなのと市街戦などしたらどうなるか。

 イノシシの攻撃はと聞かれて誰しもが思い浮かべるのは突進だろう。だが、あんな巨体のイノシシなど止めようがない。必然的にあれを相手どった者は突進を左右に回避するしかない。そうなれば助走を含めて数十メートルは破壊される。それが繰り返されれば、仮に倒せたとしても街は壊滅だ。


「自分は何人かであれを追いかけます」

「私はどうすれば」

「団員を置いていきますんでここで待機を。メルクに向かうわけにはいかんでしょう。今日中に自分が戻らなければ領都へ向かって救援依頼をお願いします」

「わ、分かりました」

「レオ!マルティン!急いで馬に乗れ!あれを追うぞ!!」


 リカルドに指示された団員二人は即座に馬に跨り、すでに先行していなくなっていたリカルドを追いかけて走り去っていく。


「大変なことになりました………」


 商人は改めてあの魔物が起こした惨状を眺めた。


 林の木々は吹き飛ばされ、土手は大きく抉られ、馬車が見るも無残な残骸へとなり果てている。これがメルク市で起こるかもしれない。

 そう思いながら周りを見ていると何やら残った団員が土砂を払ったり、木々を退けたり、馬車の下を覗き込んだりしているのが目に入る。


「何か探しているのですか?」


 商人は不思議に思い団員に近づいて問いかけてみた。


「あ、いえ、獣人の女の子をさがしてるんです」

「獣人の女の子?」

「あの魔物が現れる直前、街道にいたんですよ。おそらく旅の冒険者だと思いますが、あの位置だと一緒に吹き飛ばされたと思ったんですが………おかしいな……」


 その後しばらく捜索したが、結局獣人の女の子が見つかることはなかった。




 ※




「団長!いくら向こうが馬車でこっちが馬だからってこれだけ差があったらメルクに着くまでに追いつきませんよ?」

「それに追いついたってどうするのって話だよ団長」


 先行していたリカルドに追い付いたレオとマルティンが並走しながらリカルドへと問う。


「馬鹿正直に街道をそのまま追いかければな。向こうは馬車でこっちは馬だ。馬なら整備されてないとこも走れるだろうが」

「まさか馬で林を突っ切るんですか!?」

「メルクへ向かうと分かってるんだ。ならこっちはメルクへ真っすぐ直線距離を進めばいい」

「だから僕とレオなんだね。迷わず呼んだから何か意味あるんだと思ったけど」


 林を突っ切る。言うは易く行うは難しだ。追いつくために速度は落とせないが、その分樹木への激突のリスクも伴う。幹だけではない。騎乗した高さでは木々の枝葉も落馬の要因になり得る。


 ではなぜレオとマルティンなのか?それは二人が小柄であり、曲乗りが上手いからだ。


 リカルドが先行して林に突っ込むと二人も続く。馬上で体勢を変えて枝葉を躱しながらも、しっかりと手綱を操作して木々の間を抜けていく。マルティンは余裕の笑みを浮かべるが、レオは必死の形相だ。


 林の中を数分走り続け、三人は街道へと飛び出す。


「いたぞ!」


 眼前に現れる巨大な偉容。


 こいつをどうにか止めななきゃいけないと思うを頭を抱えたくなる。


「馬車はまだ逃げれてるみたいだね。追いつかれてやられててくれれば手間が省けるのに」


 まだ魔物の前を走っている馬車を見てマルティンがそう毒を吐く。


「マルティン!流石に言い過ぎだぞ!」

「だって魔物に追われてるのだって、どうせ自分たちでちょっかいかけたとかでしょ多分?だったら自業自得でしょ」

「推測で物を話すな!ただの被害者だったらどうする!」

「あれ貴族の馬車じゃん。僕、貴族嫌いだし街が助かるならなんでもいいよ」

「二人とも喧嘩は後にしろ!だがレオ、悪いがメルクまでに止めれなかった時は街に入る前に馬車を潰してでも止めるぞ。何百人もの住人と天秤には掛けられん。分かったな?」

「………はい」


 三人は馬に鞭を打って速度を上げ、魔物へと近づく。

 リカルドが手綱片手に大剣を抜き、レオが杖を構え、マルティンが足に手綱を絡ませ馬上で立ち上がって弓を構える。

 胴体をいくら狙おうが堅い毛皮や分厚い脂肪に防がれることは話し合わずとも三人とも理解している。


 狙うは脚の腱───


 三人がいざ攻撃しようとしたその時、


「あははははははっ!」


 魔物の(たてがみ)にしがみ付き、高笑いをしながらはしゃぐ、獣人の女の子の姿が三人の瞳に映りこんだのだった。



読んで下さってありがとうございます。

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では、次投稿でお会いしましょうノシ

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