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二人で二人前

作者: 斉藤寅蔵

私には珍しく普通(?)っぽい小説

 仲間8人で定食屋で昼食を摂り、会計を済ませて表に出たところで内河(うちかわ)美都(みと)が僕に声をかけてきた。


祖戸山(そとやま)、どうしたの?何か調子悪い?」

「いや、そんなことないよ。たださっきの定食が僕には量が多くてね。ちょっとお腹がきついだけ」

「え?あれで量多い?やっぱり調子悪いの?」

「違う違う。食細いっていうか、普通の店の1食分が僕には多すぎるんだよ。でも残すのは嫌でさ。だから外食すると旨いものが食べられるのは嬉しいんだけどいっつも後半が苦しくて」


 なので、どうも外食には腰が引けてしまうのだ。


「えーっ!私なんかさっきのとこ『なんでここ大盛やってないの』って思ってるくらいなんだけど!これっておかしい!?」

「あー、そっちの方が普通なんじゃない?僕が食べなさ過ぎるんだよ。」


 今も苦しそうなの僕だけだしね。


「あはは、女の子としては普通かどうかは分からんけどねー。でもなんか食品ロス問題?とかのせいか大盛やってないとこが増えてる気がするんだよねー。『この量5割増しにしてくんない!?』とかって思うことが多くてさー。でもさすがに二人前は食べらんないし」

「まーそうだろうね……あれ?あー……」

「何?どうしたの?」


 僕はちょっと迷った後、思いつきを口にする。


「内河、ちょっと提案があるんだけど」

「提案て?」

「いや、例えばだけどさ――」


 ◇◆◇


「はいっ、お待たせしましたー、上黒豚カツ定食二人前ですー」


 店員が僕と内河の前に定食を置いていった。


「内河、今日はどんくらいにする?」

「カツ2切れとライス半分とポテサラ!」

「OK!」


 僕は自分の定食から言われたとおりのものを内河の皿や茶わんに移していく。

 ポテサラは小鉢ごとあげよう。


「「いただきまーすっ」」


 つまり先日提案したのはこういうことだ。

 『二人で二人前頼んで僕の半分を内河にあげればちょうどいい』


 それから二人であちこち食べに行っている。

 今日のように同じものを頼むこともあれば、あえて『ミックスフライ定食と刺身定食』とか別のものを頼むこともあってそれはお互いの気分次第だ。


 いやー、我ながらいい方法を思いついたもんだと思う。


 ◇◆◇


 会計を済ませて店を出る。


「旨かったねー」

「ほんとにねー……でもさー、祖戸山、いいの?今日も割り勘で?私だけ得してない?」


 二人で食べるときは割り勘だ。


「内河は『もっと食べたい』が満たされる。僕も『ちょうどいいだけ食べたい』が満たされる。お互いの『食べたい』が満たされて得られる幸せは一緒でしょ。だったら割り勘だよね」

「んー、ま、そうかな。私もそう思うことにするよ」

「そうそう、それがいいよ」


 本音を言えば、得られる幸せは僕と内河で一緒じゃない。

 僕には『内河と二人で過ごす』という幸せが上乗せされているのだから。

 内河にしてみれば、この二人で二人前案を実行する際に僕と二人きりである必要はない。

 それこそこれを提案したときのように、数人で食べに行く仲間の一人として僕が入っていればいいだけだ。

 それが分かっているから、提案したときにはなんだかんだ理屈をつけて『二人で』を強調した。

 多分周囲で聞いていた皆はその不自然さに笑いをこらえていたと思うけど。

 まあ、こうして内河が僕の思惑に乗ってくれただけで満足だ。


「あ、祖戸山、お茶飲んでかない?揚げ物の後はすっきりいいお茶で締めたいよねー」


 前言撤回。やっぱり内河にも僕と過ごすことで幸せが上乗せされてほしい。


 内河にとってそんな存在に……なれればいいなあ……。


「ん?行かないの?」

「いやいや、行く、行くよー、もちろん」


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