恋に落ちる(6)
私が進君を知ったのは、高校1年生の夏だった。テスト近くで部活や同好会ができないこの期間の放課後、私はよく教室で本を読んでいた。
私はミステリー小説が大好きで、その日もドキドキしながら小説を読んでいた。主人公が暗号の意味を理解し青ざめている時、急に教室の扉が勢いよく開かれる。
「あれ、1人なの?」
そう言い教室に入ってきたのが進君だった。でもその時私は彼の名前なんて知らなくて、千紘の友達ぐらいにしか思っていなかった。
「千紘ならもう帰ったよ」
私が答えると、彼は「そっか」と言い背負っていたリュックを近くの机にあげた。
確かこの人、サッカー部の人だよね。前に千紘が言っていた気がする。サッカーが得意でイケメンの友達がいるって。日焼けしている肌に、はっきりとした顔立ち。すらりと高い身長。女子にモテそうだ。
私がそんなことを考えていると、彼が私の方へ歩いてくる。
「彩は帰らないの?」
名前を呼ばれ、少し驚いた。私の名前知ってるんだ。しかもいきなり呼び捨てなんだ。
「うん」
私は頷く。
「テスト勉強は?」
気づいたら、彼は私の隣に座っていた。
「赤点取らない程度にはしてるよ」
私が言うと、彼は笑った。
「俺も」
そこで会話が途切れ、静かな時間が流れる。そろそろ帰ろうかな。そう思った時、彼が口を開いた。
「その本、面白い?」
「うん。下巻は私が借りてるけど、上巻は図書室にあると思うよ」
私が言うと、彼はタイトルをメモして笑顔を見せた。
「ありがとう。借りてみる」
そんな感じで、彼とは玄関まで一緒に行った。そして別れた後、とあることに気がつく。
「あ、名前聞き忘れた」