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恋に落ちる(4)
「はい、これ」
放課後の図書室。読書同好会を始める準備をしていた時、千紘が私に麦茶をくれた。
「ありがとう」
財布から百円を取り出すと、千紘は首を振った。
「いいよ。俺が好きで買ってきたんだし」
「でもいつも悪いよ。この前だってスポーツドリンク貰ったし」
「だって、こうでもしないと水分取らないじゃん」
「それは……」
そう言われると、返す言葉が無くなってしまう。私は周りの人よりも喉が渇く感覚が鈍いらしい。小さい頃から、よく家族や千紘に注意されていた。
「まだ4月だけど、油断してたらすぐ脱水症状なるよ」
千紘から言われ、麦茶の蓋を開ける。
「分かってるよ」
自動販売機から出たばかりの麦茶は、まだひんやりと冷たかった。
「図書室で飲むの、なんか悪いことしてる気分」
私が言うと、千紘は笑った。
「普段は飲食禁止だもんな」
「うん。読書同好会の特権」
私と千紘は、読書同好会に所属している。基本月、火、水曜日に開かれているが、幽霊部員がほとんどできちんと参加しているのは私達ぐらいだ。