盲目な主人
開いていただきありがとうございます。
今作は思いついたことを即興で書き起こしたものになります。
評価・感想お待ちしています。
私の愛は、愛ではない。
主人は、盲目である。
私のせいで、盲目になってしまったのだ。
若い頃にキラキラと輝いていた目は、汚泥のごとく醜く濁っている。それを憚った主人は、いつも目を閉じるようになってしまった。
私が主人の光を奪ってしまった。
主人は私を愛してくれているのに、私は主人を愛せていない。
もし私がいなければ、主人は順風満帆な人生を送っていたはずなのだ。
私が主人の幸せを奪ってしまった。閉ざしてしまった。
主人といることは、とても苦しい。
主人の愛は、とても美しい。かつての彼の純真さが失われていない。
でも、私はこれを受けるべきではない。
主人なら、私よりも遥かに器量も中身も優れた人と巡り会うことも、結ばれることも、容易だったはずだから。
だから、それを奪った私には、決して捧げられてはいけないのに。
それなのに主人は、昔と変わらない真っ直ぐな心で、私を愛してくれている。
それが、ただただ、申し訳ない。
私がただの、主人の家の近所に住んでいるだけの子であれば良かった。
私が活発な子であれば良かった。
私が内気で、同じくらいの年の子に、「遊ぼう」と、その一言が言えなかったから。公園の隅に座っていた私を、主人は遊びに誘ってくれた。
幼い私は、それがとても嬉しくて。以来、公園に行っては、一緒に遊ぶことをねだっていた。
今の私から見れば、随分と図々しいことをしていたと思う。
それでも主人は、嫌な顔をすることも、断ることもなく、私と遊んでくれた。
私は、主人が主人の友達と遊ぶ機会を奪っていることに気付かなかった。
あの頃から、私が身の丈を知っていれば良かったのに。
私の主人は、盲目である。
今でこそそれは否定しようのない事実となってしまったが、まだ目が見えていた頃も、一種の盲目だったのかもしれないと、そう思えることがある。
そうでなければ、私と遊ぼうともしないはずなのだ。ましてや結婚しようなんて、言うことはおろか、思うことすらないはずなのだ。
私は、主人に選ばれた。そう言えば、聞こえはいいだろう。実際、それは事実だ。
でも、本当なら、私は主人の隣に立つべきではない。
主人の隣には、私なんかよりも、よほど器量も中身も良い人がいい。その方が、ずっと、ずっとお似合いだ。
主人が花壇の中心に輝く花だとすれば、私は路上の雑草でしかない。
だから、「僕と結婚してくれてありがとう。」なんて、言わないで欲しい。
私は、ただ、贖罪しているだけなのだ。
主人のためなら、どんなことも苦ではない。
何も知らない人は、私を「いい奥さん」だと言うらしい。その人は、なんて酷い間違いをしているのだろうと思う。
私は、主人から輝きも、幸せも、未来も、その全てを、奪ってしまった。
いくら嘆いても、主人の目は返ってこない。
それを悟ってから、ずっと、私は主人に対して贖罪しているだけなのだから
主人のためなら、私はどんなこともできる。
何十年経とうが、私は主人に対して贖い続けると、そう決めている。
私は、私が嫌いだ。主人の幸せを奪ってしまったのに、主人と一緒にいられるだけで、幸福だと、そう思えてしまう私が嫌いだ。
主人に、「ありがとう。」と言われるだけで、喜んでしまう私が嫌いだ。
私はここにいるべきではないのだから、喜んではいけない、と、そう自分に言い聞かせても、私の心は、喜ぶことを止めない。
私の主人は盲目だ。盲目だから、私なんかを伴侶に選んでしまった。
本当は、断りたかった。
「私では貴方に吊り合いません。」、「貴方なら、私よりずっと良い人がいくらでもいます。」と、そう言いたかった。
でも、私は断らなかった。主人の望みが私にできることならば、全てを叶えようと、そう決めたから。
主人の望みが「私と結婚すること」で、私はそれを叶えることができる。
だから、結婚した。
主人は、「君のおかげで幸せだ。」と、そう言ってくれる。
「私も、貴方のおかげで幸せです。」と、そう言いたい。
でも、私はこれを言ってはいけない。本来主人の愛が注がれるべきは、私ではないのだから。
それでも、盲目になった主人が不幸でないことだけは、救われた気がした。
主人は私を心から愛してくれている。
でも私の愛は、愛ではない。
今朝、主人が「もし生まれ変わったとしても、君と一緒にいたい。」と、そう言った。
私は、それに答えられなかった。
「私もです。」と、一言言えれば良かったと思う。
でも、生まれ変わったとしたら、主人には、今度こそ、本当に幸せになって欲しいから。
私は、それに答えられなかった。
主人は私を、心から愛してくれている。
だが、私の愛は、愛ではない。
でも、いつかは私もあの人を愛したいと、心からそう思う。
最後までお読み下さりありがとうございます。
今作は前書きの通り、即興で書き起こしたものでした。
「純愛とは何か」を考えたときに頭に浮かんだ話を、そのまま綴ったかたちです。
末筆ながら、評価・感想等いただければ幸いです。