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7話/宇宙船免許

「あ、私はマツリ。マツリ・カト。あんた達人間で言う宇宙人よ。そこのミレイザもね」


 突然我に返った少女が、まじまじとこちらを見て非現実的なことを言い始める。


 宇宙人と言えば、灰色の肌を持っていてひょろ長かったり、テカテカしてたり、触手が生えていたりするだろう。しかし、少女は何処をどう見ても人、それも可愛らしい子供にしか見えない。


 第一説得力が一切ない。いや、信じようと思えば信じれる話でも合った。実際凛花と会ったときに円盤が目の前にあり、加えて凛花も最初見慣れない服を着ていたんだ。人にしか見えない容姿さえ気にしなければ、宇宙人だっていう理屈も通る。


 けれど容姿を気にしなければの話だ。どこからどう見てもマツリって言う少女も、凛花も人。人にしか見えない。つまりこんな長々と考えても頭は人だと認識してるから、信じることはできないわけで。


「とりあえず、交番に連れて行けばいいのか……?」


「だから迷子じゃないわよ!!!?」


「宇宙人なんて信じられないしなぁ」


 素直に信じられないことを伝えると、腰に手をやった少女は呆れた声色で「あぁ、なるほど。そういうことね……」と呟いて、被っていた麦わら帽子を手に取り。


「人間って面白いわよね。得体のしれない宇宙人を灰色だとか、目が黒いだとか、実物見てないくせにね……でもまあ円盤は架空の想像のわりにはあってるけど、牛を攫うことはないし、人を実験に使うこともないし……ほら、これで証明できるかしら?私が宇宙人であること」


 帽子に手を入れた少女は、そんな話をしながら一枚のカードを取り出してこちらに突き出してくる。


 見たところ不思議なものではないが、現在の少女の顔の写真と文字が刻まれている。上の段には数字が不規則に並び、その下には生年月日にも見える数字が……いや、日本語で年月日の文字が見えるから生年月日なのは間違いない。


 そのなりから運転免許証にしか見えないが、生年月日の下に『宇宙船免許』と書かれており、なおかつ住所のところには、『メルトア星 リタ国 ノーワド街』と聞いたことのない星やら地名やらが書かれていた。


 だがそれで証明になるかどうかは、僕には判断できないわけで。


「その顔はまだ信用してないわね……ならこれはどうかしら!あなた達で言う光線銃……のレプリカだけど」


「レプリカじゃあ玩具(おもちゃ)と同じだけど」


 次に取り出してきたのは楕円形でつるつるボディの銃。でも玩具でよく見るような形で、かつレプリカ、つまり偽物と自身気に言うのだからこれまた説得力はなく。


「ぐぬぬ……なら、宇宙船!それを見せればわかってくれるでしょ!!」


「いや、最初からそれだせよ。ってか、めっちゃムキになってるな」


「人間風情が私のことを信じないからよ!」


「いや普通信じないからな」


 少女の言うことはどうせ嘘。そう思いながらもなぜかムキになって『ついてきなさい!』と僕の手を引いて強引に引っ張られる。身長差があるから少し変に姿勢が低くなって、歩く度、腰と足にじんわりと痛みが広がる。


 けれどその痛みが酷くなる前に、あまの荘の横の空き地にたどり着いた。


「ほら!これで信じてくれたかしら!?」


 昨日まで空き地はただ雑草が生い茂る場所でしかなく、殺風景なものだったが確かに銀色の大きな塊がそこに鎮座していた。それも凛花と初めて会った時と同じ形のもの。加えて律儀にその機体のボディの一部を少女が指を指し、それを追えば先ほど聞いた少女の名前『マツリ・カト』が彫られていた。


 これはもう本当に信じる道しかないということで。僕は非現実的なことを受け入れるしかなかった。


 いや、凛花が現れた時から受け入れてたのかもしれないけど、どこかで立て続けにはと思っていたから認めたくなかっただけなのかもしれない。自分のことなのによくわからない考えで、自分も困惑してるけど、多分そうだ。


「はあ……ここまで見せられたら信じるしかないな……それで僕の妹の凛花に何か用?」


「はぁ?凛花?妹?何言ってんのよ。あの子はミレイザっていう名前があって一人っ子よ。わけあって地球に行ったけど数日も連絡来なかったから、何かあったんじゃないかって」


「ミレイザが誰かは知らないけど、凛花は凛花だ。ていうかさっきお前のこと『誰?』って言ってただろ」


「お前じゃなくてマツリよ!って、本当に別人なの……?」


「疑うなら直接聞いてみろよ」


 改めてあまの荘へと戻ると、玄関には凛花の姿はなく、僕の部屋にもいなかった。リビングを覗けば充の字で書かれた書置きが、寂しそうに僕を迎えてくれる。


 書置きには『凛花は預かった。返して欲しくば夕食を作って待ってるんだなby優人の悪魔より』と、書置きでも充ワールド全開な文章が書かれている。翻訳すると、『ちょっと買い物行ってくるから夕飯よろしく』ってことだ。


 いつの間に連れ出したんだよ……と頭を抱えながら、マツリにその旨を話せば、


「随分と自由なのね人間は……」


 とまたも呆れた声色で呟いた。こればかりは充が自由過ぎで、凛花が振り回されているだけな気もするが、僕もマツリの呆れには同情できる。


「じゃあ私はまた明日来る。確認できてない以上あなたの家族であるのは間違いないし、家族の時間減ったら申し訳ないし」


「あ、それなら大丈夫。ここは僕とは赤の他人の人たちが住んでるから。それに凛花も家族って言っても義理だし」


「本当に自由なのね!?」


「自由が取柄なんだよ人間は。まあそういうことだから帰ってくるまでいろよ。ついでに夕飯も出すからさ」


「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」


 人間の自由さに唖然としてしまったのか、僕の厚意に遠慮をみせず、けれど躊躇った様子で厚意を受け取ると、おどおどしながらリビングの椅子に座るマツリ。


 その様子は、容姿のせいもあるがまるで初めての場所にしり込みしてる小動物のように見え、落ち着かないのか凄くそわそわして周りを見渡している。


「あ、えっと、と、トイレ!どこ!?」


 ……そわそわしてたのは、ただトイレに行きたかっただけのようだ。

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