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3話/あまの荘の住民

「あれー?優人じゃん。なにしてんのって、え、なになに彼女!?」


 謎の少女にかまけて、声を掛けられるまでその存在に全く気付かなかった僕。はっと声を辿って視線を向ければ、やはり知った女の顔が、勘違いの驚きに満ち溢れた状態でそこにあった。


「めんどくさい奴に見つかった……」


「めんどくさいってなんだコラ。これでも優人より年上なんだぞ。敬え」


「はいはい(みつる)さん」


「ぜんっぜん気持ちがこもってないんだけど!?」


 声をかけてきたのは、あまの荘の住居者で社会人を謳歌している水瀬(みなせ)充。僕が子供の頃からあまの荘に住んでいる女性だ。時々面倒を見られていたこともあって、義理の姉のような存在。


 そしてこれは最近知ったことだが、充は櫻井の従妹だそうであまの荘で櫻井と会った時には、二人ともそれはもう驚いており、かくいう僕も驚いた。


 むうっという効果音が似合いそうなほど腕を組んで頬を膨らませた充は口火を切る。


「それはいいとして、その人は?」


「それが斯々然々(かくかくしかじか)で」


「なるほど彼女か」


「なんでそうなるの……」


「だって詳しく話さないんだもん」


「言っても絶対信じないからね」


「うわー信用されてないって知ると傷つくなー」


「同じ言葉をそっくりそのまま返す」


 いつもこんな調子で弄られるが、正直なところ鬱陶しくてしかたない。けれど、それを本人に言ったら、それこそ本当に傷ついてしまうだろうし、それがきっかけで退去なんてされたら祖母に合わせる顔がないから我慢しかない。


 再び充が口を開こうとしたとき、謎に包まれた少女が優しい音を口から零した。


「あの、彼女が何かはわからない……から、そんなに喧嘩しなくても」


「いや、これいつものことだから気にしないで」と僕たちのいつものやり取りを見てか、困り果てて泣きそうになっていた彼女に、その言葉を送り短く息を吐いて充に真実を伝えることにした。


「詳しく言うと、この人は記憶喪失で、自分の名前もどこから来たのかもわからないそうで、気づいた時には地球を抱いていたってとこ。ただ僕が通りかかったときにいたわけじゃなくて、そこにある物体に腰を抜かして、気づいたら横にいたんだ」


「んーなるほどね。でも物体なんてどこにも()()()()()()けど?」


「え?そこにあるよ、まあまあ大きくて丸い形のアレが」


「いや、だからどこにもないって。そもそもそんなのあったら、その人よりもそっち気になるし、周りだって騒ぐじゃん」


 充の言うことは正しい。遠目でしか見れない小さな太陽を隠すくらいのが、辺りを暗くして地上に落ちたのだ。それも住宅が並ぶ場所に。にも関わらず周りは静けさが走っており、誰もその存在に気づいていないようにも思える。


 でも、充は嘘をつくような人柄じゃあない。となれば、考えられるのは一つしかない。


「もしかして、これって僕だけが見えてるってこと……?」


「えっと、()()も見える……」


 なぜかまではわからないが、どうやら僕とボクっ娘だった謎の少女だけが金属でできた円盤を視認できているようで、ならばこそどうやって伝えたものか考えていると、充のくせに可愛らしいにやけ面を浮かべて。


「二人に一体なにが見えてるのかはわからないけど、優人は病院いった方がいいかもねぇ?」


「頭じゃなくて尻を打ったけどね」


「じゃあその尻に脳みそ詰まってるんだよ」


「逆に怖いよ!?そんな冗談思いつくって、逆にどんな頭してんの!?」


「こんな頭だけど」


 真面目な話をしているのに、こうも空気を崩してくるのは充らしいと言えばらしい。ただやはり相手のペースに乗らされている気分で、どうにも落ち着かない。


 ていうかわざわざ、ボケしか考えてなさそうな思考を持つ頭を、自慢げに、それもどや顔を浮かべ、親指で自分のこめかみを刺して言うことではない。


「そうじゃなくて!……ああもう、とにかく話を戻すと説明したとおりの経過で今に至るんだ。んでなんもわからないわけだし、正体も不明。かといって警察に預けるのは気が引けるから、暫く空き部屋を使わせようかって悩んでたんだ」


「んーなるほどね。個人的には預けた方がいいと思うけど、色々訳アリっぽいしいいんじゃない?ていうか、今の大家は優人なんだから悩まなくても」


「そうしたいのは山々なんだけど、ほら僕男だろ?だからか、あまの荘の住民が全員女性だって信じなくてな」


「優人って名前の割には怖い顔してるからねー仕方ないねー」


「優しい顔じゃなくて悪かったね……」


 確かに僕は優人っていう名前の割には、顔が怖いとか、話しにくいだとか、ネガティブなことを良く言われる。この謎の少女からも先ほど目が怖いと言われた――いや、あれは僕が悪いが――から紛れもない事実。


 自分でもそのことは結構気にしているけど、さすがに整形というわけにもいかず、どうしようもない。


 そこで少しでも怖くならないように、一人称は『僕』にしたり、あんまり人のことを見ないようにしたりしてみたけど、校舎は性格が暗くなりそうだからやめた。


 まぁでもある程度気にはするが嫌いではなくて、むしろ助かるときもあるくらいだ。


 そんな僕と普通に話しているのは、僕の性格をわかっているから。むしろ怖がるのは、一部を除いて初対面の人くらいだ。


「じゃあ、私が引き受けよう。今日はたまたま休みだし、買い物行こうとしてただけだし、任せたまえよ」


「お、じゃあ頼む。学校休んで、何とかしようと思ってたし」


「それはお人好しがすぎるよ。自分のこともしっかりしなよー。じゃないとこんなおばちゃんになるぞー」


「おばちゃんっていう歳じゃないでしょ」


 記憶喪失な謎の少女には身体を振り回すようで悪いが、ここは終始冗談がつきない充に任せて、僕は学校へと向かうことにした。

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