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伝説   作者: 海堂直也
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第二部 迎える

 歴史的に逸話の多い源義経。その臣下の武蔵坊弁慶にも様々な憶測や伝説が残されている。存在自体を疑う説もある中、今回もしも、本物の弁慶の所持品、大薙刀岩融・安宅の関で読まれた白紙の勧進帳が在るのなら、大発見である。


 この土地にルーツを持つ彼に、旅館の主人は弁慶縁の品々では無く、墓を見に来たのかと問うたのだが、二人は少々興奮気味。


【わっはっは。そう興奮せずに。よかったら案内するから、一緒に歩かんかね。】


 やれやれ仕方無い。旅館の主人は慣れた雰囲気で促す。二人は意気揚々と歩き出すが、5分もたたずに心を折られる。歩きながら、弁慶伝説を聞き、落胆したのだ。


 村に伝わるのは《武蔵坊》では無く《安道宅造》という、ダム建設に最後まで反対した一人の老人の話だった。


 昭和初期、降って湧いたダム建設話。あれよあれよと移住先を割当てられ、引っ越しを余儀なくされる。せめて年内の収穫迄はと懇願するも聞き入れて貰えず、悪く無い交換条件に村人達は次々と田畑を手放していった。


 しかし、ただ一人《安道宅造》は “御先祖様から預かった土地は何があろうと譲れ無い” の一点張り。建設業者からは、権利書の値段の釣り上げだの、底意地が悪いだの言われもしたが、子宝に恵まれず、妻に先立たれた老人は、村への愛着も人一倍強く、断固として移住を拒否。


 工事が始まれば諦めるだろうとダム建設は強行。《安宅さん》と親しまれた独り身の老人は、村の人達から説得を受けるも意地になるばかり。遂には工事現場へ怒鳴り散らす始末。興奮し過ぎた老人は、クモ膜下出血を起こし、その場で天に召されたという。


【安宅さんは、父親から開拓当時の人達の苦労話をよく聞かされていたらしい。村で最初の開墾に使った大槌・大鋸・熊手・鍬・鋤・枝打ちが、納屋に綺麗に残っていてね。寝床には白紙の権利書、最後までダム建設と戦って、村の人も工事関係者も、まるで《弁慶》だって言ったらしい。】


 どういう顔をしていいか分からない。そんな顔の二人に主人は優しく促す。


【ほら、着いたよ。弁慶の墓だ!】


 案内された郷土資料館には、入口側に、村の開墾時に使われていた道具。出口側に、判の押されていない白紙の権利書が丁寧に展示されていて、資料館の裏には安道家代々の墓と彫られた大きな石碑が建っている。


 線香をあげ、手を合わせた後の二人の顔は凛々しく、見届けた旅館の主人の顔は、ほころんでいた。






確かな証拠が在ろうとも、綿々と語り継がれている事こそが何より。


伝説と言うモノは、どれだけ人が想いを馳せるかにかぎります。


ダムに沈んだ村に想いを馳せる人達の物語

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