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リストカットした女

いやぁ、まいったな

どうしようかな、これ


餌の匂いがしたから来てみたはいいけど……。


目の前には湯船でリストカットした

全裸の女が倒れている。


浴槽の水はすでに真っ赤で、

流れ続ける水も血が混ざった透明な赤だ。


悪魔は血を好むと思われがちだが、

別に吸血鬼じゃぁあるまいし……。


むしろ自分は血が苦手な方だ。



そう、僕は悪魔だ。


大好物である人間の絶望の匂いがしたから、

ベランダからこの部屋に侵入した。


ベランダの鍵は掛かっていたが、

通り抜けられるので全く問題はない。


匂いからして、

おそらくは一人暮らしの女の部屋。


匂いの大本であるバスルームに行ってみると、

リストカットして大量失血、

すでに意識が無くなった女が

全裸で湯船に倒れていたという訳だ。



つまり僕は、

この女の絶望を喰らいに来た訳なのだが、

間に合わなかったということになる。


人間が絶望なり恐怖を感じている、

その瞬間の感情を僕は喰らう訳で、


すでに意識が無いのでは

僕としてはもう喰らいようが無い。


この人間の感情は今

存在していない状態なのだから。



この女は何かに絶望して自殺した。


浴室の隅には、水で流された

血がベットリと付いた

カッターナイフが落ちているし、

おそらく自殺は間違いないだろう。


まだ微かだが息はある。


さて、どうしたものか。



こちらの人間には、

悪魔は人間の死を好むと思われがちだが、

少なくとも僕はそうではない。


僕は、あくまで

人間の絶望や恐怖という感情を

喰らうのが好きなので、

実際に死なれてしまっては困るのだ。


まぁ例えば、

人間を死にそうな目に合わせて

ビビる姿を見て楽しんでいたとして、


それはビビる姿が見たいのであって、

死なせることが目的じゃあない。


もしそれで本当に死んてしまったら、

ホンマに死んでどうすんねん、となる訳で。


まぁ、悪魔にもいろいろ居るから。


人間の願望を叶えてやる契約をして、

その見返りに

人間の魂そのものを要求する奴もいるし、

その辺は個体差なのかもしれないが。



とりあえず僕は

浴槽の水が流れるのを止める為、

シャワーの栓を捻る。


まぁ、とりあえずは

助けるしかないんだろう。


このまま死なれると、

僕がこの女を殺した犯人だと勘違いされそうだし。


別にこちらの警察やら何やらが

コワイ訳ではないのだが……。


少なくとも、今こちらの人間世界で

悪魔の印象が悪くなるようなことは避けたい。



まぁ、それに、

この女の命が助かったら、目覚めた時に

自分が死ねなかったということを自覚して、

きっとまた絶望するだろう。


僕はその時、この女の絶望を喰らえばいい。


まだ今は絶望を

喰らい損ねている状態だからね。


衝動的に、なのかもしれないが、

自殺を図るぐらいの絶望だから、

さぞや美味なことに違いない。


彼女は命が助かるし、

僕は餌を喰らうことが出来る。


まさにお互いにとって

WIN-WINと言っていいのではないかな。


まぁ、彼女の命が助かることが、

彼女にとって本当に

WINなのかどうかは分からないけどね。




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