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性悪狐と姫少女  作者: 狐付き
貴族生活
13/16

リミルリ、忘れられる

 リミルリがサマンタルア家に来て早1か月が経過した。本日は朝から雨で、リミルリは窓越しにきゅきゅと雨を眺めている。

 遠くが見えないほどしとしと降っている雨。ぼんやり眺めながら物思いに耽るのには丁度いい。


「ねえきゅきゅちゃん。私、こんなところでのんびりしていていいのかな」

 物憂げにリミルリが呟く。

『別にいいきゃ』

「でもこうしている間におばあちゃんたちは離れちゃうよ」

『どこにいるのかわからないのを闇雲に探したところで無駄な労力きゃ。だったら最初の話通りここで情報を集めたほうがいいきゃ』

 それに魔物の群れとさえ遭遇しなければ、彼らの歩みは遅いものだ。ここまでの半年ほどでも、馬車ならば数日で追いつける可能性がある。


『そもそもおばあちゃんたちはどこへ向かってるのきゃ?』

「さあ……」

 リミルリはみんなについて行っているだけだ。どこに行くかなんてわからない。

 目的は魔物の群れを倒すこと。だがそれ以外にも理由があるかもしれない。そのうち聞けばいいという理由で後回しにしていたのが痛い。


「リミ、起きてる?」

 ハルモアが朝食前だというのにやって来た。珍しいこともあるものだ。

 いつもはリミルリよりも先に寝て、リミルリよりも遅く────朝食の準備ができてから起こされるのがパターンだ。なのに今日はまだ朝食まで時間がある。


「はい」

「ほんとリミって早起きね。今日も寝顔が見れなかったわ」

 あんたが寝過ぎなんだときゅきゅは思いつつも言わない。そこは大人の狐である。

 とはいえ言ったところで言葉が通じないからどちらでもいい気がする。


『そうだ忘れないうちにさっきの話をしたほうがいいきゃ』

 リミルリは小さく頷く。進展がないから報告されないというのは宜しくない。進展がないという報告でも必要なのだ。

「ひとつ伺ってもいいですか?」

「是非なんでも聞いて!」

 ハルモアはリミルリに質問されるたび嬉しそうな顔をする。実際嬉しいのだろう。

「以前お話しした、私の祖母の行方ですが……」

「あ……あ、ああうん。そう、そうね」

 一瞬「やばっ」と言いたげな顔をした。


『あいつ絶対忘れてたきゃ』

(うーん)

 いつものような「あはは……」といった、呆れたような笑いはしない。それほどこの話は重要なのだ。そしてきっとリミルリも同じ感想だったのだろう。


「大丈夫よリミ! ワタクシの家には遠くと連絡を取れる魔法があるのよ」

「『えっ』」

 きゅきゅとリミルリは驚いた声を出した。きゅきゅはもちろんのこと、リミルリも聞いたことがない魔法だ。


魔法の手紙(フルイエ・ガハーファ)といってね、地中を波のように動く魔力を使って遠くと連絡ができるのよ」

 この世界では月の魔力の影響により、地中で魔力が波のように満ち引きを起こしており、自らの魔法を使うのに様々な影響を受けることができる。

 そのひとつが魔法の手紙(フルイエ・ガハーファ)だ。距離に応じて時間はかかってしまうが、馬などよりもずっと早く連絡できる。


(凄い便利だね)

『あたしのいた世界だったら世界の裏側まで一瞬きゃ』

 インターネット万歳だ。情報はあっという間に拡散される。

「それは凄いですね」

「でしょ! でもワタクシはまだ魔法が上手く使えないから、誰かに頼まないといけないんだけど……」

 サマンタルア卿は事情を知っているのだから、彼に頼めばいい。朝食時にでも話そうかとリミルリはきゅきゅと打ち合わせる。



「ハル、ここにいたか」

「お父さま」

 ここでハルモアを探していた様子のサマンタルア卿が、ハルモアの後ろから声をかけてきた。

「ふたりに話がある」

 サマンタルア卿はが丁度よさげに話をはじめた。

「食事の時で宜しいのでは?」

「これから出かけるからな。忘れないうちに話しておこうと」

 どうも忘れっぽいのは血筋らしい。きゅきゅが不安そうな顔で見つめる。


「そろそろ二位アズー・ザーク家のご子息が通過する。滞在は3日だ」

「ああ、もうそんな時期ですか」

 ハルモアが思い出したように言う。

 学校が始まる時期だ。遠方に住む侯爵は早めに出発する為、途中で他貴族の屋敷に泊まる。その後にハルモアもすぐ出発することになるのだ。


「あと、今回は弟君おとうとぎみの入学もあるそうだ」

「シュカの弟……ですか」

 ハルモアは少し嫌そうな顔をする。

「シュカ様とはどのような方なのですか?」

 それを察したリミが尋ねる。


 シュカという少女は決して悪い子ではない。他人を困らせてやろうとか、いたずらしようなどとは考えない。ただただお転婆でハチャメチャなのだ。

 例えば物語で、シーツなどを結んで繋げ、ロープのようにして窓から抜け出すというシーンを見たら、面白そうだからと実際にやってしまう子である。好奇心が旺盛なのだろう。

 それをひとりでやる分にはいい。だがハルモアは巻き込まれてしまうのだ。自分の楽しいを他人と共有したいのだと思われる。


「ワタクシとしては、異国から来たリミに興味を持たれ、張り付かれないかと心配なのよ」

「仔細見抜かれぬよう努力します」

「そこは心配してないわ。ワタクシのリミは完璧ですもの!」

 リミルリがボロを出すことはない。ブロッカー役のきゅきゅがいつも一緒だから特に。ただしきゅきゅに興味を持たれてしまった場合、別の問題が発生する。


「とにかく、そんなシュカに弟だなんて、シュカがふたりになるようなものじゃない。ワタクシのリミをどうやって守ろうか、頭が痛いわ」

 ハルモアは頭の中でどう対応したらよいのかとシミュレーションしているのか、ぶつぶつ言い始めた。


『リミ、話が止まった今がチャンスきゃ』

「サマンタルア卿、お話が」

 リミルリは周囲の気配を探り、誰もいないことを確認。朝食を待たずに話すタイミングがやってきた。

「ん? おお、そうだリミ」

「はい」

「そろそろその、パ、パパとか呼んでくれぬか?」

「お父さま!?」

 サマンタルア卿の言葉にハルモアがひっくり返った声で叫んだ。


「しかしだな、体面としてその……」

「お父さまでいいではないですか! 何故パパ!? ワタクシだって呼んだことないのですよ!」

「3歳まではパーパと呼んでくれていたぞ」

 ハルモアは頭を抱えた。そんな恥ずかしい呼び方を、物心ついていないとはいえ父にしていたとは。そしてリミルリの前でバラされたことに赤面する。


「……努力致します」

「うむ」

「ワタクシのことも早くお姉ちゃんと呼んでよねっ」

 ハルモアが便乗してきた。


 話がうやむやになってしまったまま、サマンタルア卿は出かけてしまった。

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