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伯爵位。
私個人に贈られるようだが、ゴールドガーデン領主の家名として継承していくことができるだろう。
テッドの復帰後にテッドを養子として迎え入れ、当主として爵位を譲る。
涙が一筋溢れる。
嬉しさと寂しさを同時に感じる。
先ほどの静寂と喧騒のように、相反する状態と相反する感情。
同じ出来事に違う感情が表れるとは、なんと不思議なことか。
寂しさには今は蓋をしよう。
喜びを噛みしめて、素直に嬉しい気持ちを受け止めよう。
そして、やはり殿下のお気持ちに有り難さで胸がいっぱいになる。
私の功績や考えだけでなく、私自身をみて、認めてくださっているということの有り難さ。
更には大切に扱ってくださっている有り難さ。
高貴な方が、私のようなものにまでご配慮頂けるだけでもありがたいというのに。
テッドとの婚約破棄が正式に決まったらご報告しよう。
婚約パーティーまでしたのだから。
きちんとご招待した方々へもご報告せねば。
やることがたくさんありつつも、『周りに頼る』ことも少しずつ覚えて、私が居なくても良いほどに皆が困らないようにしよう。
おそらく、殿下の言う『周りに頼る』は私の思うものは違うのだろうが。
純粋に甘えるというのが何をしたら良いのかわからない。
仕事を振ることはしている。
では私のすべきことを振ることなのだろうか?
私のすべきことを手伝ってもらう?
この際、殿下のおっしゃるようにエレナに相談してみよう。
そう思った途端にタイミング良くエレナがお茶と菓子を持ってきてくれた。
丁度小腹の減る時間だ。
「午後のお茶はミント系の頭がスッキリするお茶にしました。お茶菓子はクッキーです。レモンの皮を練りこんでありますので、さっぱりとした後味になります。」
そう説明し、手早くお茶を注いでくれた。
「エレナ、あなたも一緒に休みましょう。お茶の間は休憩よ。」
そう言うと、エレナも仕事モードから切り替えて、共にお茶を楽しむ。
「そうだ、エレナ。殿下からのお手紙でとうとう爵位を賜ることが決まったとあったのよ。伯爵位ですって。元の通りの家にもどって嬉しいわ。」
「それは良かったわね!クレアの頑張りがみんなに認められて、私も嬉しいわ!」
エレナも一緒になってとても喜んでくれた。
「正式に通達が来たら登城する日などもわかるのでしょうけど、流石に通知が来てすぐってことはないでしょうから、公務員採用試験が落ち着いてからでしょうと思っているのよ。これから忙しいわね。」
「伯爵位授与のパーティーは王城でするでしょうけど、ゴールドガーデンからも簡単なご挨拶状と贈り物は考えた方が良いと思うわ。一ヶ月後くらいなら茶葉なんてどうかしら。庭のハーブと合わせて特別にブレンドするわよ。」
エレナは城勤めであったからパーティーなどに詳しい。
「ではゴールドガーデン特製のお茶を贈りましょう。良い宣伝にもなるわね。」




