97
心の葛藤が激しい。
テッドから婚約破棄を告げられ、私はこのままここで過ごすわけにはいかないのに、いつまでもこのままここで皆と考え、悩みながら生活していく未来を描いてしまう。
エレナともずっと一緒に、友として互いに高めあい、心から寄り添えるのではないかとも。
会議室を出て、一人で執務室へ戻る。
静かな室内に安心と寂しさを感じる。
静かな空気では心が落ち着く。
ざわついた心を鎮めてくれる。
反対に、今までの活気溢れる賑やかで笑顔でいっぱいの時間との差に寂しくなるのだ。
一人で暮らしていた時はこの静寂な空間は日常であり、当たり前にあった。
今は仕事に集中している時や休息の時間くらいか。
あの喧騒が日常になってきた。
賑やかで、ずっと何かの音が聞こえる。
人々の活力と、笑顔と、様々な『生きている』と感じる空間。
私も、皆も、動物たちですら、『生きている』と感じられる。
ふぅーっと深い深い深呼吸をしてみる。
たくさん息を吐き、その分新たな空気を目一杯吸い込むと、なんとなく雑念が消えるような気がする。
また執務に取り掛かろうとしたとき、エレナが戻ってきた。
「クレア様、失礼致します。王都より、マーティン殿下からの便りが届いております。」
そう言って一通の文を渡された。
「後ほどお茶をお持ちします。それでは一旦失礼致します。」
エレナが退室後、ゆっくりと文を開けてみる。
『クレアへ。
領地へ戻ってから無理はしていないか?そなたのことだ。きっといつものように振る舞い、いつものように執務に励んでいるのだろう。
そなたらしくて良いのだが、あまり無理をするな。
そこには頼るべき大人たちがたくさん居るだろう。
そなたが背負って無理をする必要は無い。
そなたを支える者たちは優秀だ。
クレア、そなたは頼ることを学ぶ必要がある。
たまにはサボっても良い。めかし込んで楽しく茶会をするのも良かろう。その時は私を招待するのだぞ。
さて、一足先に伝えようと思ってな。
数日内に通知が届くだろうが、国王より正式に爵位授与が決まった。
伯爵位だ。そなたの父上と同じだな。
そなたの頑張りは皆に認められておるぞ。
誰よりも私がそなたを認めておるのだから、自信を持って良いのだぞ。
心が揺れる時には私のことも頼って欲しい。
私がそなたを支えよう。
エドワード殿で十分だと言うならばそれで良い。
何度でも言うが、そなたは一人では無い。
味方がたくさん居るのだぞ。
何かあればエレナに相談すると良い。
友としての意見は大切だ。
立場や責任ばかりでなく、心からの意見はそなたの力になるだろう。
何か必要なものがあればいつでも手紙を寄越すと良い。
むしろそなたからの手紙を心待ちにしておるからな。
それではオリバー殿やエドワード殿へもよろしく。
無理をするな。
皆の健康と幸福を願っている。』
励ましのお言葉に心が温かくなる。
そして、いよいよ爵位を賜るのだ。
嬉しいが、同時に、私の領主として過ごす時間の終わりが近づいていることを感じる。




