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「ですが、私にもエレナがいますし、年頃の娘たちのようにお茶会を楽しんだりすることも、楽しく淑女の会をしたりはできていますよ。そんなことはお気になさらないでくださいませ。今はテッドと今後のゴールドガーデンについてを考えねばなりません。」
私が『年頃の娘らしいこと』を知らないし、求めていないのだ。オリバー殿の気にすることではないのだから。
ご心配いただけるのはありがたいが、まずはテッドのことを第一にせねば。
「クレア様はそうおっしゃいましても、事実そうなのですから。あなたが謝るようなことは何もありません。あなたはまだ15歳です。自分の気持ちを抑えて、人のことばかり気遣うようでは逆に心配ですよ。いつもあなたは自分のことよりも人のことを優先させています。たまにはご自分の気持ちを優先させて、むしろそれが健全です。今後のことはテッドとは何と話したのですか?」
慰められて更に涙腺が緩もうとするのを必死に堪えるが、溢れ出るほどではないが、目が潤む。
「テッドは婚約破棄は絶対のようです。しかし、1週間お互いの今後を考えましょうという結論になりました。それでも婚約破棄の方向で話を進めるのであれば、ゴールドガーデンの形を変えていかねばなりません。テッドがディアス家の養子となり、領主となって治めていく。それが一番かと。私は工芸や農業が盛んになりつつある今日、そういった事業に携わることができれば嬉しいと思います。なにかを作るのは好きなのです。エレナとハーブ園を経営するのも面白そうですね。」
私がそう言うと、オリバー殿は悲しそうに顔を歪める。
わかっている。
私のことも大切に、娘のように思ってくだる思いも、テッドのことを思う親心も。
そのどちらもがオリバー殿の中でせめぎ合っているのだ。
「オリバー殿、私のことよりも、テッドやゴールドガーデンにとって最も有益な選択を致しましょう。まずは爵位を拝するまでは私が領主として立たせて頂きます。テッドを養子として私は当主の座をテッドに譲り、手に職をつけるも良し、どこか有力者の元へ嫁ぐも良し、今後については追い追い相談いたしましょう。まずは公務員採用試験を成功させることが第一です。」
これからどうなるか、どうするかは考えれば良い。
当主がどうなっても揺るがない仕組みを作るのだ。
部署をしっかり整えて、運営方針を定め、来たる議員選挙で更にリーダーを置いて、皆で協力しながらより良い領内の治め方を縦からも横からも検討していける仕組みを作るのだ。
それぞれの担当部門の方や条例も整えて、領内の安定と治安の維持を行う。
例え領主が代わろうとも、何かあろうとも、他の皆で協力しながら支えられる仕組みを。




