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「それではクレア様、また1週間後にお会いしましょう。お見舞い頂きましてありがとうございます。」
「ではまた。早く元気になることを願っております。」
そう言ってテッドの部屋を退室した。
オリバー殿へ何と伝えたら良いか…。
私がテッドへ謝罪と感謝をどうしても伝えたいという気持ちを抑えられなかった。
そのせいでテッドもまたネガティブな気持ちになってしまった。
しかし、そのおかげで本音を語り合うこともできたのだ。
テッドの『愛してる』に素直に喜べない私がいる。
だってテッドへは同じように求め合うような愛という気持ちは持っていないのだから。テッドへ気持ちを返していけないのだから。
なにもかも与えられるばかりで何も与えることができない。
所詮ただの田舎の世間知らずな子どもだ。
両親から愛された記憶も、両親を愛した記憶もない。
何となく思い出せるのは、温かな気持ちになれるだけ。
誰かを求めるような、必要とするような、物語に出てくる恋や愛は、私の今までの人生には無縁だったのだから。
私のテッドへの気持ちは、オリバー殿やエレナに対して抱いている気持ちとそう変わらない。
特別に大切な人というわけではない。
みんな大好きだ。
みんな大切だ。
なぜテッドも殿下も『愛』を知っているのだろう。
なぜ自分の中の愛を見つけたのだろう。
私はこんなにも子どもだ。
いくら大人のように振舞ってみようと、大人ぶって頑張ろうと、何も知らないのだから。
自分のちっぽけさに不安になる。
空っぽな自分に不安になる。
大切な人たちに囲まれて、お互いに高め合えて、支え合えて、足りないところを補いあって。
理想的な人間関係ではないか。
でもやはり自分の中には何も無いから。だから不安なのだ。
与えられるばかりの生活なんていつか破綻するに決まっている。
テッドとの関係が良い例だ。
テッドに何も返せぬままに、ゴールドガーデンに何も返せぬままに、私は何もできぬままに終わるのか。
オリバー殿へ会いに行こう。
今後の私たちの方針など決めねばならぬことがたくさんあるのだから。
すぐ隣の部屋なせいですぐに部屋の前だ。
「失礼致します」
ノックしてそう告げると、中から入室許可の声が聞こえた。
「どうぞお入りください。」
ドアを開けると、オリバー殿がドアの前まで出迎えに来てくれていた。
「これはクレア様。テッドとは少しは話せましたかな?」
心配そうな顔で私の目を見る。
大事な一人息子だ。
心配で仕方ないに決まっている。
「オリバー殿、私、あなたに謝らねばなりません。テッドがあまりにも自分を責めるので見ていられなくて。私もつい自分を抑えきれずに感謝や謝罪を伝えてしまいました。そして今後についてもテッドから………婚約は白紙にと告げられました。」
オリバー殿はやはり、と深いため息をついた。
「そうでしたか。あなたもまだ若いのに苦労ばかりしていらっしゃる。年頃の娘らしいことも何一つできぬまま領内のことばかりとなってしまい心苦しく思っております。テッドとのことだってそうです。ご自身の気持ちよりもゴールドガーデンやテッドのことばかり考えさせてしまっている。」




