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テッドは私の目を見て話し出した。
その表情は真顔で、真剣という意味ではなく、感情の無いような顔であった。
「クレア様、私を責めるでもなく、慰めてくださり申し訳ありません。あなたをあの場に残していくことになり、私は心から悔いております。あなたのお言葉は有り難い。しかし、私はあなたの婚約者でありながらあなたを守ることができませんでした。私を責めて欲しいのです。恨んでいただいた方が私も気が楽です。あなたに気を遣っていただくなんて罪悪感すら感じますし、何より、私にはそんな資格はありません。」
無表情だったのが後半は悔しいのか、苦しいのか、顔を歪ませながらに語った。
私と同じだ。
私も解放後に同じことを思っていた。
痛いほどに自分を責める気持ちがわかる。
「テッド、私こそ恨まれ、憎まれるべきなのです。私が不注意にも夜分に散歩なんてしなければこんなことにはなりませんでした。私が招いたことです。私自身は言わば自業自得なのです。そこにあなた方を巻き込んでしまった私の方が罪が深いのです。…私も同じように自分を責めました。『私のせいで』と。幸いにも私は前に進む決意ができたので、まだ罪悪感はありますが何とか生活できています。どうしたらあなたに償っていけるのか、答えも出ませんがあなたの気持ちもあなたの決意も受け止める決意は出来ています。いくらでも怒りをぶつけてください。」
私なりの決意もテッドに伝え、お互いの行き場のない罪悪感を少しでも解決できるようにしようと思う。
「テッド、今はお互いのためにまずはからだを治しましょう?食事は大切ですよ。からだが治っていけば、きっと心も少しは落ち着くと信じましょう?心が苦しいままならば、2人で乗り越えていきましょう。私たちはこの先もずっと一緒にいるのだから。」
私の精一杯のテッドへの気持ちを伝えたつもりだ。
テッドの目から一筋の涙が溢れた。
私の気持ちが通じたのか、あるいは癒えぬ心の痛みの涙なのかはわからない。
しばらく無言の時間が流れた。
数分のようにも思うが、数十秒程度のことだったのかもしれない。
テッドは涙の訳を語る。
「クレア様、私は今はあなたのお側であなたを支えられる自信がありません。正直に申し上げますと、辛くて仕方ないのです。私もどうして良いのかわかりませんが、あなたのことを考えるととにかく苦しくなるのです。このままではとても結婚なんてできません。いっそ婚約を破棄して頂けませんか。私はあなたのお側にいることができません。」
オリバー殿からも事前に話があったが、私はテッドの意思を尊重すると確かに言った。
確かに言ったが、いざテッドから言われると、どうしたら良いかわからない。
「テッド、私たちの婚姻はゴールドガーデンの今後にも関わることです。結論を急がずに、もう少し待ってみませんか?お互いにもう少し考えませんか?」
「それでは!!私はその間ずっと苦しまねばならないのですか?!あなたへの責任と!罪悪感と!贖罪と!自己嫌悪と!無力感と!今ある全ての苦しみを背負ったままこのまま過ごせと?!」
そんなつもりは無かった。
しかし、テッドの言うことは一理あり、保留している間はずっとその気持ちから逃れられないのだ。




