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午後の執務を終え、夕食の時間となった。
テッドの食事をエレナと運び、テッドの部屋を訪ねる。
ノックをしても、やはり返事はない。
テッドと私の食事を乗せたワゴンを押して部屋に入った。
「テッド、夕食を持って来ました。ご一緒させてもらいますね。」
そう言ってテッドの分をサイドテーブルに並べた。
柔らかめのもので揃えてある。
「今日はトマトのリゾットと、野菜スープ、それにポテトサラダとデザートはゼリーよ。良い匂いだわ。食べられそう?手伝うわね。」
テッドに見せながらリゾットをスプーンですくい、テッドの口元へ運んでみた。
しかし、口は開かない。
「お茶から飲む?どれから召し上がるのが良いかしらね?」
努めて明るく振舞ったが、無理してというほどではないテンションで1人話し続ける。
「サラダなら熱くもなく食べやすいかしら?どうですか?」
何を口元へ運んでも、受け入れてはもらえない。
「テッド、今は食べたくないのかしら?」
そう問うと、フイと他所を向いてしまった。
「じゃあ私が先にいただきますね。どれも美味しそうな良い匂いで、お腹が空いてしまいました。」
ワゴンから直接自分の分を取り食べ始め、一品ずつ感想をテッドに伝える。
「リゾットは酸味があまり残っていなくて、トマトの甘みが強いわ。チーズの塩味ととても良くあっていますよ。」
「野菜スープはそれぞれの野菜がとても柔らかく煮えていて食べやすいです。野菜の出汁もよく出ており、とても優しいお味ですね。」
「ポテトサラダもふわふわにマッシュされていて、とても口当たりが良いです。少しマスタードとお酢かしら?隠し味になっているようで、大人な味付けです。」
「ゼリーは何味かしら?この匂いは…りんごね!ん〜!間違いなくりんごの味よ。甘酸っぱくてサッパリしているわ。」
私がいくら味などを伝えても、テッドは無視しているようだ。
聞こえていないわけではない。
「テッド、私がいるから食べたくないのですか?私が出ていけば食べられますか?お願いです。早くお怪我を治すためにも、食事を摂ってください。」
それから静まり返った部屋で2人、テッドは天井を見つめ、私はそんなテッドを見つめる。
テッドに言ってはいけないとわかっていることを、言わずにはいられない。
心が苦しい。
「テッド、私のことを恨んでいますか?あなたをこんな目に遭わせてしまって。私があの夜散歩になんて行かなければ良かったのです。私は毎日後悔しています。1つだけ良かったのはあなたが命を落としていないことです。本当に良かった。あなたには本当に申し訳なかったと思っています。でも、あなたのおかげで、脱出への希望が持てたのです。あなたが私を探してくださっていると知ることができたから。本当に本当にありがとうございます。私のために戦ってくださったことも。ありがとうございます。そしてすみませんでした。」
テッドは天井から私へ視線を移した。
何か答えてくれるのだろうか。




