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「クレア様、エドワードとの婚約なのですが、一旦白紙に戻すということもご検討ください。婚約の最終決定まであと7カ月ほど。それまでに互いの気持ちを固めるのは難しいのでは無いでしょうか?」
突然の申し出に戸惑う。
「なぜです?私はテッドがあのままだとしても待ちますわ。私からの婚約破棄はありません。あるならばそれはテッドからの破棄の場合のみです。この婚約を破棄する場合は私は領主を退きテッドに託す覚悟です。」
テッドからの破棄の申し出があるなら慎んで受けよう。しかし、私から破棄するという選択肢はそもそも無いのだ。
私が領主の座に就けたのも、テッドとの婚約あってこそなのだから。
仮に婚約破棄後も私の功績が認められて領主の座を追われなかったとしても、オリバー殿やテッドの立場もどうしたら良いのか。
人は色眼鏡で見てくるだろう。
テッドが万が一にも元のように戻らずに、それでもこのまま重用しては他の者たちは良く思わないはずだ。
「オリバー殿、婚姻については私はテッド次第でと考えます。もしテッドが婚約を破棄したいと言うのなら慎んでお受けし、私は領主の座を退いてテッドをディアス家に迎え入れて継いでいただこうと思います。私はゴールドガーデンのためになるようなところへ嫁ぎ、今後のゴールドガーデンの発展が盤石なものになればと思います。私にできることはそのくらいかと。ですので婚姻についてはテッドに任せます。それまでは私も通常通りに領主として尽力致します。」
そう言うと、オリバー殿は何とも辛そうな顔をして歯を食いしばっていた。
「…クレア様、もしこの婚約を破棄したとて、あなたはゴールドガーデンの領主として今後も間違いなく認められるでしょう。なぜそれほどテッドを尊重してお考えなのですか?」
「そもそも現行の体制はオズワルド時代のクーデターの結果敷かれました。クーデターが成功し、領の運営についての実権はオリバー殿側にあります。私は今の領の執行部の方々の温情により領主となったに過ぎないのです。クーデターが成功したのに、その勝者が日陰にいて良いわけがありません。それはそれで問題かと。ですので、オリバー殿またはエドワード殿が主体となるような体制を整えねば、道理に反するのです。」
「ですが!クレア様は血筋も実績も間違いなく皆が認める領主様でいらっしゃいます!そのまま領主としてここを治められることに何の問題もございますまい。」
有り難い言葉をかけていただけただけでも私は嬉しい。
しかし、その後を考えると後に尾を引くような問題は残すべきでは無い。
「ありがとうございます。私が婚約破棄してなお領主の座に居座るとなると、オリバー殿は問題なく重鎮として重用させていただくことになるでしょう。エドワード殿がもしも以前のように活力が戻らなかった時や、結果を伴わない状況になったら?きっと重要な局面を担うことはできません。それなら領主としてなら周りが支えてくださる。その方がテッドにとっても良いのです。」




