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そうして朝食を終え、テッドへ会いにいく時間になった。
「クレア様、テッドには無事であることのみお伝えください。くれぐれも謝罪は不要でございますので、よろしくおねがいします。」
オリバー殿はそう言うと、私とテッドの部屋へ向かう。
「もちろん、心得ております。少しでもテッドを…エドワード殿を安心させることができれば良いと思っております。」
「ありがとうございます。」
そう言って深く頭を下げているオリバー殿に、こちらが恐縮する。
「元は私の撒いた種とも言えますので。むしろ私の方こそ申し訳なく思っております。エドワード殿には感謝しているくらいですもの。」
テッドの部屋へ到着し、ドアをノックしてみるも返事がない。
もう一度ノックし、オリバー殿が「入るぞ」と声をかけるが、やはり返事はない。
鍵はかかっておらず、オリバー殿と共に入室する。
テッドはベッドに横になっている。
全身に包帯が巻かれているため、テッドかどうかもわからないほどの見た目だ。
「テッド、クレア様が見舞いに来てくださった。この通り、ご無事だぞ。我々も安心している。」
オリバー殿はそう言うと、私にテッドの側へ寄るよう促した。
「テッド、無事戻ることができました。あなたが来てくれたおかげで、希望が持てたのです。ありがとうございます。1日も早い回復を願いますが、ゆっくり養生してくださいね。」
私の声かけに反応は無い。
あまり長居してもと思い、オリバー殿にアイコンタクトを送る。
お互い頷くと、退室の挨拶をした。
「テッド、しっかり食事を摂って休むのだぞ。執務のことは気にするな。」
「それではくれぐれもお大事になさいませ。また時々お見舞いに伺いますね。」
声をかけても天井を見つめたまま、返事はない。
表情を変えずに、ただ天井を見つめる。
目を動かすこともなく、私たちは居ないか、私たちが居ることに気づいていないかのようだ。
目はしっかりと開いており、瞬きはある。
テッドは何を考えているのだろう。
私のことを恨んでいるかしら。
いっそ恨んで、憎んで欲しい。
それでテッドの気が晴れるのなら。
それでテッドがまたオリバー殿の横に立てるのなら。
恨まれ、憎まれ、それで私が一生をかけて償えるなら。
このままテッドが無気力になってしまったり、笑顔の無いテッドになってしまうよりもその方が良い。
テッドの部屋を出ると、オリバー殿はため息を吐いた。
「あんな感じで返事程度はあっても、無表情で言葉もあまり発せず。頭に異常が無いかは医師に診察してもらって、異常無しと言われたのです。ひたすら自分を責め、後悔し、無理を押してクレア様を助けに行こうとしていたのですが。マーティン殿下がお一人で立ち向かい救出されたと知らせが入り、それから無気力になりました。ご覧になったように、何もせず、何も言わず、時々涙を流す。まぁ焦らず長い目で見守っていただけたらと思います。」
父としての立場も、私の側近としての立場も、どちらも崩さず振る舞うオリバー殿は立派だ。




