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そしてどれほどの時が経っただろうか。
目も開かないくらいに泣き腫らし、段々と涙が枯れてきた。
エレナは一旦退室したと思ったら冷たい布巾を持ってきてくれた。
「クレア様、そのようなお顔ではエドワード様にお会いできませんよ?目元を冷やしてくださいませ。」
優しい声でそう言って、布巾を手渡された。
ひんやりと心地よい。
このひんやりとした感触に、心も落ち着きを取り戻す。
もう泣くまい。
テッドの前でも泣くまい。
明日はテッドの見舞いに部屋を訪ねよう。
そう心に決め、その日は休むこととした。
翌朝、やはり早起きな私が目覚めたのは空がしらばみ始めた頃だった。
薄明かりの中で日が昇っていくのを眺めるのが朝の楽しみだ。
これからどんどん日が昇って、明るくなる。
私たちの未来もそのようになることを毎朝願うのだ。
闇から解放され、さわやかな光を受け、新たな1日を始める。
テッドの部屋を訪問するのにまずはオリバー殿経由で訪室の許しを得よう。
突然訪ねて動揺させないようにせねば。
テッドとの再会に向けて計画を立てる。
どうしたらテッドに感謝を伝えられ、謝罪ができるのだろう。
そして、どうしたら償いとなるのだろう…。
オリバー殿に会いに行こう。
日も昇り、室外も人の気配を感じ始めた。
オリバー殿とテッドは私の城に住んでいる。
色々と打ち合わせをしたりするのに都合が良いからだ。
それに、婚約者と舅ということもある。
そのため城内にテッドもオリバー殿もいるのだ。
しかし、起床時間などまでは把握していない。
まだ休まれていたら…と思うと中々訪ねることができない。
でも早くテッドを見舞いたい。
意を決してオリバー殿の私室を訪ねることにする。
オリバー殿とテッドの私室は隣同士なのだが、テッドの私室を素通りして、オリバー殿を訪ねるというのは初めてかもしれない。
いつもはテッドと共にオリバー殿を訪ねている。
オリバー殿の私室のドアをノックすることすら色々な意味で緊張する。
ドアを3回叩く。
「どうぞ。」
オリバー殿は起きているようだ。
はっきりとした声であり、寝起きのような緩慢さもない。
入室の許可を得たため、ドアを開く。
「おはようございます、クレアです。早朝よりのご訪問大変失礼します。実はお願いがございまして、そのご相談に参りました。」
オリバー殿は顎鬚を撫でて少し考えているようなそぶりを見せる。
「テッドのことですな。いらっしゃると思っておりました。ですが、今は私ともあまり会おうとしません。最低限の会話しかしないくらいです。いえ、正確には会話すらありませんな。あれはただの返事です。」
予想通りということで早くから起きていてくださったのだろうか?いつも早起きな可能性もあるが。
それはさておき、今は人と接すること自体に消極的なようだ。実の父親でさえも受け入れられないのか。
テッドに深い心の傷を負わせてしまった。
罪悪感や悲しみが私の顔に出ていたのか、オリバー殿は慰めてくださる。
「クレア様、重ねて申し上げますが、決してあなたのせいではないのですよ。あなたのために行動したのは事実ですが、あなたのせいでは決してない。そこは間違いのないようご理解ください。」




